感想置き場

BLとアサシンクリードが好き

無印『Assassin's Creed』感想

 もはや私、アサシンクリード大好きな人みたいになっちゃってるな。だって時代考証バッチリの実在の街でパルクールできるゲームなんて他にないから。シナリオとかゲーム性とかを問う前にただ街を歩いているだけで楽しい。プレイ動画を見て展開を全部知ってしまっているからな〜とか、昔のやつは難しいって聞くしな〜とか迷ったんだけど、やっぱり自分の足(手?)でマシャフやらエルサレムやらを歩いてみたいという気持ちが強かった。あと過去作の要素が再利用されていたらしいヴァルハラをやったことで「みんながそんなに懐かしがる昔ってどんなだったわけ?」と興味が湧いたのもある。それと何だかんだでアルタイルの服装が一番かっけえと思っているから。

 

 結論から言うとかな〜り満足できた。

 レビューを見たらだいたい「あまりに反復作業すぎて飽きる」というようなことが書いてあるんだけど、私はゲームに爽快さとかあんまり求めてないから全然その辺は問題なかった。むしろ取れる手段が多すぎるとかプレイヤースキルを要求される系は脳が忙しくて疲れる。それと久々にPS3のゲームをやっておもったけど、グラフィックも情報量多すぎると目を回しちゃうタチなのでこれぐらいのざっくりさが心地いい。

 詳しいゲームプレイの話をすると、ソーシャルステルスの加減(?)がすごくちょうどよかった。ヴァルハラとの比較になってしまうんだけど、ヴァルハラは「敵対地域ではフードを被ると見つかりにくくなるよ」と言ってくるくせに兵に見られたらすぐ攻撃されるから、高警戒地域とそこまで変わってるように思えなくて、「そんな風に言うなら多少は近くまで寄っても大丈夫なようにはしてくれよ!」と不満があった。しかし今回は、単に地面を歩くぶんには何の警戒もされることなく悠然と構えていることができる(物乞いの女の人とどついてくる酔っ払いが死ぬほどうざいという点はあるけど)。そのうえ最強コマンド「祈る」があるので、すぐ隣にテンプル騎士がいようが超余裕!というか神学者の一団で祈ってさえいれば衛兵が陣取っている場所にも顔パスなのがすごすぎる。史実では流石にここまでではないかもしれないが、現代とこの時代では神の存在感というか聖職者の絶対性のようなものが違いすぎるんだなと思った。僧侶に紛れるのはヴァルハラにもあるけど、うまく真ん中に入れてくれないので弾かれて見つかってイライラしていた。こっちはスッと入れてくれる上に自動で先まで歩いてくれる神仕様で感動。

 そして仮に兵に見つかってしまっても、アルタイルはカウンターの鬼なのでそれさえ覚えてしまえば誰が来ようがまず死ぬことはない。本当は投げ飛ばした後にアサシンブレードで仕留めるとかやってみたかったし、ガード崩しとかもっと決めたかったんだけど、7人くらいに囲まれるとかがザラだからこっちから仕掛けるとだいたい痛い目を見るので、じり……じり……とカウンター待機の時間ばっかりになってしまった。しかし十数の兵士に囲まれてなお生還するアルタイルくん化け物すぎる。私が雑なプレイだからだけど、暗殺した数よりも堂々とぶった切った人の数の方が圧倒的に多いね。接近戦に強くなったのはゲームシステムを変えた最近なのかと思ってたけど、実は初代が一番近接では負けなしの仕様だったことに驚いた。

 

・ストーリーの話

 天才が自惚れゆえの大失敗をして一度どん底に落とされて、力を取り戻すために奮闘して最後には前よりもっと大きな存在になっていくって展開は、シンプルだけどやっぱり熱い。私はオチを知っているからこそ、「この時アル・ムアリム様は何を考えていたのかな?」と考える楽しみもある。

 欲を言えばイキっていた頃のアルタイルくんももっと詳しく知りたかったけど、管区長たちのセリフを聞くに「聞き込みだの偵察だのちまちましたつまらないことは雑魚どもにやらせとけ」みたいな感じで暗殺の一番かっこいいところだけかっさらってく感じだったんだろうな〜。それでも実力で示してきてたから誰も何も言えなかったんだろうけど、ゲーム最初のソロモン神殿でロベールにド正面から掴みかかって行くところは暗殺者なのに今から殺しますよ感がバレバレで確かにマヌケだった。実際に街中で正面から人を暗殺しようとするとああいう展開になるのが細かい。もうあれを見せられちゃうと、完全にアルタイルの過失だからいろんな人から責められても「サーセンでした」しか言うことないわ。でも同胞の中にも、ねちねちいびってくる人とか単純に利害の一致でフランクにやってくれる人とか、「腰が痛くてのぉ」とぼやいて小間使いにしてくる人とか「あの高名なアルタイルならこんなの楽勝ですよね!」とキラキラした目を向けてくる人とかいろいろいて、ただ嫌われるばかりではないところがよかった。こっちを神聖視してくる人の中に「死の天使と呼ばれるあなたなら……」とか言ってくる人がいて「死の……何!?小っ恥ずかしい二つ名をつけるんじゃない!」となって逆にいたたまれなくて笑えた。あとダマスカスの管区長は「後輩たちが君の悪口を言ってたよ」と優しい口調で教えてるだけに見えて、実は遠回しに精神攻撃をしかけてきているとも解釈できてしまって怖かった。マリクみたいにストレートに怒ってくれた方がよほどわかりやすくて助かる。

 マリクといえば、アルタイルの成長物語を語る上で欠かせない存在。ソロモン神殿での大失態の後初めて会ったときは超不機嫌な態度をとってきたのに(当然だけど)、最後にはアルタイルのことを兄弟と呼んでくれるようになるっていうマリクの変化がめっちゃよかった。何よりアルタイルが反省をちゃんと行動で示したのが大きいんだけど、謝罪したとき「今のお前はあの時とは違うのだから謝るべきことなど何もないのだ」とマリクが言ってくれたシーンは感動して若干泣いた。「勝利の栄光も敗北の味も分かち合おう」て!そんなこと言われたら泣くでしょ。

 しかしアル・ムアリム様にアルタイルが放った「私を殺さないのは私と同等以上に使える人材がいないからだ」説が本当っぽかったのは驚いたな。え、本当にNo.1アサシンだったわけ?単純な武力だけならマシャフの衛兵の人とか強そうだけど、気配を消す才能とか身のこなしとか技の冴え(?)とかだと話が違うってことなんだろうなおそらく(私のゲームプレイは全然全く冴えてないんだけど)。マジで才能があってよかったなアルタイル……。アル・ムアリム様は師としての刷り込み効果のようなものでアルタイルを完全に操れると思ってたのかもしれないけど、後半になるとアルタイルが疑問点にズバズバ切り込んできてアル・ムアリム様が意味のあるような無いようなふわっとした言い方で丸め込もうと頑張ってるように見えてちょっと面白かった。推測だけど、イキってた頃のアルタイルは掟は軽んじてたかもしれないけど、アル・ムアリム様のことはまあまあ慕ってたんじゃないかとなんとなく思う。失敗して逃げ帰ってきたときの、いかに自分のせいじゃないかを印象操作したがるようなところ、親に気に入られたいキッズのようだったもの。アルタイルの親については何の情報もないけど、彼が自分以上の存在と思える人がもしいたとしたらアル・ムアリム様ぐらいなんじゃないか?ストーリー全体の描写が淡々としているからあまり登場人物の感じていることを説明してくれないんだけど、やっぱり親同然の人が教団を裏切るなんて一大事だと思うんだよ。それでエデンのリンゴなんて厄介なものを抱えざるを得なくなり、いきなりみんなを率いなきゃいけない立場になって、これからのアルタイルは大変なんて言葉では言い表せないくらいだろう。

 しかしアル・ムアリム様、秘宝を自分の欲のために使いたかったのではなくて、叡智に触れれば触れるほど人間の救えなさを思い知るばかりだから世界平和のためにこうするしかないと思ってやったのだと思うとあまり怒る気持ちにもなれない。テンプル騎士には吐き気を催す外道もいっぱいいるんだけど、本当に世界のためになりたいと思っている人も結構いるからアサシン側だけが綺麗なわけではないってところがアサシンクリードの味のあるところだと思う。アルタイル本人だって、破壊すると決めていたはずなのに、当の秘宝の力を前にしたらどうしても捨てられないと感じてしまったみたいだし。自分が使わないとしてもその力を他の誰かが手にしてしまったらと考えたら怖いし、かと言って持っていても永遠に争いの中で生きることになるだろうし、破棄できるとしても秘宝が失われることは単純に世界にとって重大な損失になるレベルのものだから、その扱いを決める責任はあまりにも重すぎる。秘宝というのは存在を知ってしまったが最後、どうやってもそれから逃れられなくさせる厄介な代物だ。

 あ〜面白かった。やっぱり最初から自分の手でやるっていうことには大きな意味があったな。伝聞で聞くアルタイルに対する感情と自分で動かしたアルタイルに対する感情って全然違うもの。それとオリジンズ以降の現代編に対しては「へー」みたいな感情しかもてなかったけど、これはスタート地点だからデズモンドに対する愛着は普通に湧いてくるし。スタッフロールが流れ始めたとき「やってよかった……」と心から思った。ファンの間で傑作と名高い2ももちろんやろうと思う。

『Assassin's Creed Valhalla』感想

 超〜〜楽しかった!好きなゲームと面白いゲームとずっとそこにいたいゲームって微妙に違うと思うんだけど、このゲームは3番目かな。今までやったゲームの中でも指折りの楽しさ。前作までは砦とか大規模な野営地をいくつも1人で攻略しなきゃいけなかったから、好機を待つための待機時間が死ぬほど長いとか同じことの繰り返しだとかでダレる部分がどうしてもあったけど、襲撃システムのおかげで正面から戦うことがやりやすくなったことがとても大きい。それでいていつも通りの単独潜入も選べるし、メインストーリー等で1人を強制されたりもするんだけど「またか」と思うほどの頻度ではなくてちょうどいい感じ(見つかっても仲間が加勢してくれるパターンがあったり)。クエストの都合で同伴者がいる時、ステルスで進む場合と正面突破する場合の両方のセリフがちゃんと用意されている細かさにも感動した。それらに加えて、居住地を築いてイングランドを支配するための同盟やら政治的駆け引きという新要素もぶち込んでくるというチャレンジ精神に痺れた。

 このゲームでできる全ての要素を全て合わせたらボリュームが半端ない(ただ進行不能・アプリケーション強制終了系バグが頻発するのだけはあんまり許せない)。まずヴァイキングの人生がリアルに体験できるという時点で他では体験できない楽しさがある。北欧神話自体は今でもそれなりに知名度があるけど、それが人生に根ざしていた人達のことを私は全然知らないから、彼らのやることなすこと全てが新鮮で眼を見張ることばかり。特にヴァイキングの、死を恐れない、むしろ勇敢な死を迎えてヴァルハラにたどり着くことこそが真の幸福という価値観を度々見せられるので、現代的な「死は避けるべきものである」という常識の中で生きてきた私とは根本的な基準が違うのだなとしみじみ感じた。そのうえ死後も永遠に戦い続けるなんて私は絶対に真似できないと思った。

 

雪の降る定住地は夢のように素敵f:id:pmoon1228:20210121064406j:image

 

バカみたいな量の酒を飲むミニゲームがある

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オーログというサイコロゲームも奥が深くて楽しい

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 あとやっぱり最高だったのはイングランドの情景!ギリシアがどうしてあんなに合わなかったのか未だにわからないけど、イングランドは本当に全てのピースがハマる感じがして落ち着く……(実際に行ったことはないのだけど)。霧の陰気臭さすら愛せる。木々の間から差し込む光!川のせせらぎ!花畑!そこに佇む石造りの教会〜〜!最高〜〜!

 

豊かな自然を横目にロングシップで優雅に川下り

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 昔から私は、キリスト教徒でもないのになぜか「死ぬまでここにに居たい……」と思うレベルで教会が好きだった。立派な作りのものはもちろん最高だけど、小さな村の超簡易的なものでも、ボロボロに崩れかけたものでも何でも好き。だから今回どこに行ってもその類いのものが絶対に見つかるので天国みたいだった。

 

そこら辺の町の教会でもこのクオリティ……!

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特にリンカンシャーは教会と治療所が並んでいるところが最高

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信者じゃないけど擬態のためならお祈りだってしてやるわ

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平屋の真ん中に十字架だけがデカデカと鎮座しているのも非常にグッド

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ド迫力のオールド・ミンスター

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 それからローマ帝国時代の建造物が本当に至る所にあって、9世紀のイングランドについては教科書でふんわり教わったことしか知らないのだけど、まだイギリスというよりローマの属州としての姿の方が強烈に感じられた。ローマの影響力の圧倒的強さを感じて感慨深い。アサクリでのローマ帝国関連はエジプトでカエサルに会ったことぐらいしかないから、華やかだったらしいローマ世界がどんなだったかはあんまり想像がつかない。しかしローマ製の彫像や建造物を見るとギリシアの息吹(?)のようなものが感じられて(ローマ文化はギリシア文化を参考にしているらしいため)、過去作のアレクサンドリアギリシアでの体験のおかげでまるで本当に当時生きていた人みたいに「この趣き懐かし!」なんて思えてしまうからアサクリが本当に好きだ。

 

こういう物が完全な状態だった時代を知っているから「兵どもが夢の跡」って感じがしてしまった

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「ルンデン=ロンドン」だとテムズ川の名前を聞いて初めて知ったので比較のために撮った地図 千年後にはここにタワーブリッジが立つんだって……!

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 そしてイングランドに生きる人々もノース人はもちろんのこと、デーン人サクソン人ブリトン人ピクト人ケルト人と本当に多種多様で、まさに「今混沌の時代を駆け抜けている!」という実感があった。街並みもヴァイキングのロングハウスやらキリスト教の教会やらローマ劇場やらが混ざり合っていて、そこで暮らす人々が宗教的な信条の違いや生活様式の違いで時に衝突し殺し合い、時に互いへの理解を深め尊重している様を垣間見ることができて、歴史の文字の羅列ではなくそれぞれの「人生」があったのだと感じ取ることができた。

 

ノースとサクソンとローマが共存する街ヨルヴィック

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 さらに現世だけでは飽き足らず、アースガルズ編とヨトゥンヘイム 編なんてものまである。 というか幻視クエストって言っても冒頭の予言シーンみたいに狭い特別マップでほぼムービーみたいなものを想定していたから、いざ行ってみてアースガルズとヨトゥンヘイムの広大なマップが用意されていると知ってびっくりした。アースガルズは信じられないくらい高い塔に吹きっさらしの玉座があったり、そうかと思えば神々が割と常識的な人間サイズで歩き回っていたり、猫の足音を捕まえる(!?)なんてことができたり、巨人が動物に変身して攻撃してきたり、現世とは違う新鮮な驚きが盛りだくさん(余談だが神々に恐れを抱けるのはそれが神秘だからであって、肉体や生活が具体的に描写されてしまうと「神々でも崖を登ったり降りたりするんだ……」とか「神々でもお使い頼まれたりするんだ……」とか「万物の父なのに知らないことあるんだ……」とか思い始めてしまって、畏敬の念のようなものはどうしても薄れてしまう)。

 

煌びやか過ぎ規模でか過ぎ(最終幕に撮ったので空が暗い)

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 それからまあ〜〜メインストーリー(シグルドとエイヴォル周りの話)が最高。続きが気になりすぎてなかなか止まることができなかった。夢中になっているせいでスクショを撮ることが頭からすっぽ抜けるレベルなのであまり写真が残らなかった。メインが面白いなら他がクソでも帳消しにしてしまうくらい私にとっては最重要事項だから、これだけでも今作には感謝している。

 序盤からエイヴォルさんがシグルドのこと大好きすぎて笑顔が止まらなかった。シグルドの言うことなら何でも聞く感がすごかった。そんでシグルドもエイヴォルさんを大好きすぎ。エイヴォルが俺を裏切るはずがない感がヤバすぎ。「いつでも近くにいて欲しいんだ」みたいなこと言ってくるし。蜜月か?でもプレイヤーはシグルドの人となりを知る前に「エイヴォルはシグルドを裏切る」なんて予言を聞かされてしまっているので、メタ的に考えてあんな壮大な演出も添えられた予言が外れるわけがないだろと勘繰ってしまっている。この幸せは今だけだと先んじて宣言してくるこの構成……。そのせいでシグルドを手放しで信じられないのにエイヴォルさんはどうにかして信じたがっているこのやりきれなさ……!悔しいけど面白い……!「国を外敵に売り渡したクソ親父なんか捨てて新しい土地でやり直そうぜ!」という希望に満ち溢れた旅立ちからのタイトルコールは痺れた。でも予言の件が尾を引いて、行く先に楽しいことばかりではないという予感も同時にもたらしてくる。「これからどうなっちゃうの〜!」という見事な引き……上手すぎ……。

 そして辿り着いた新天地イングランド。いくら戦が本分のヴァイキングでも現地人への根回しは必要だからと、どうにか同盟を組んでもらおうと鴉の戦士団の居場所を作るために東西奔走するエイヴォルさん。しかしシグルドとはどういうわけか別々に行動することが多くて、しかもシグルド本人は「エイヴォルに従っとけば大丈夫だから!」と全幅の信頼を置いたクソアバウトな指令を仲間にかましてさっさと行ってしまったので、もうここら辺から「これはエイヴォルの方の人望が上がりすぎて内部分裂的展開になるか?」みたいな予感がしてしまった(実際はレイヴンズソープ内でのシグルドが予想以上に好かれていたのでそういう方向にはならなかった)。

 

シグルドがエイヴォルのために用意してくれた個室 大事にされているのが丸わかりf:id:pmoon1228:20210121064137j:image

 

 そんな少しの疑念は残しつつも、同盟になってくれそうな人たちに一癖も二癖もありすぎ、エピソードもバリエーションに富みすぎていたおかげで、あっちこっち忙しいわ楽しいわでシグルドのことを考える余地があんまりなくなっていて、そういう体感が「会わない時間が続く間に相手の心が見えなくなっていた」というストーリーの説得力になっているのが上手いな〜と思った。チェオウルフ即位の時までは普通だったのに、次に会ったシグルドは「俺は神なんだ!」とか言い出してサーガストーンとやらにご執心な様子で、エイヴォルじゃなくても「何言ってるんだ?ラリったのか?」と言いたくなると思う。「しばらく見ない間にどうしちまったんだシグルド!俺が各地を駆けずり回って同盟組んでる間に石ころ探してたんか!?」ってなるわ。しかも「俺は"神だから"この土地を所有する正当な権利がある」とかなんとか言うから、「土地を所有するのに力(金と権力でも可)以外の要素いるの!?」とびっくりしてしまった。これが王権神授説か……。よく考えたら正当な権利とか言い出したら移民にそれがあるのか?って話になるしさらに突き詰めれば人間が地面を"所有"できるという発想自体誰が決めたんだ?という話になってしまうから、人間より上の存在である神が認めたという設定が必要なのかもしれない。しかしおとぎ話でなく行動で信頼を勝ち取って人脈を築く大切さをエイヴォルを通じて肌で感じてきたプレイヤーとしては「必要なのは石じゃなくて利害の一致と繋がりを作ることだろ!夢見てんじゃねえ!」と自然に思うようになっている。構成が上手いな〜。それであんなに仲が良かった2人なのに口を開けばいがみ合いになってしまい、どうしてこうなってしまったんだ……と頭を抱えるしかない。

 しかしエイヴォルからしたら神だなんて馬鹿馬鹿しいと思うだろうけど、プレイヤーは「来りし者」とその子孫とアイータの生まれ変わりのことを知っているからあながち否定もできない。本当にシグルドが来りし者の生まれ変わりだったらと思うとどうしていいのかわからない!という状況で立ち往生していたら、そこにかの有名なアルフレッド王(cv子安武人)が!そのうえシグルドに「最強の戦士を捕虜として交換だ」って言われて「まさか……文句ばかり言う俺を厄介払い!?」とあたふた。そこから今度はフルケにそそのかされてシグルド自ら捕虜になってしまうし!?「自分から捕虜になりに行く首長がどこの世界にいるだァ〜〜!?」って叫びたかった。このクソボケふざけんなよ!ランヴィさんが「政略結婚だからシグルドが夫って実感がない。本当はあなたのことが好きなの」とか告白してきた時も、シグルドと修羅場になんかなったら集落が終わると思って断ったのに!まあ私としては罵りつつも「しょうがねえやつだなァ!」的なノリで助けに行くのでそこまで辛くはなかったが、その後のバシムとの会話でエイヴォルさんの「両親がいなくてもシグルドがいたから……今も……」というセリフを聞いたらウワ〜〜となってしまった。エイヴォルさんは首長の座を狙ってるんじゃないかとかダグに疑われていたけど、自分が首長になりたいなんてこれっぽっちも思ってないんだよ!シグルドがいたから1人じゃなかったしシグルドのためと思えば頑張れたんだよ!全ては仲間のため、みんなの未来と安定のためじゃないか!なんでこうなっちまうんだ!と暴れまわりたい気持ちになった。

 そうして探しに行った先ではシグルドの腕だけ見つかるという衝撃展開。実はシグルドの腕じゃないというフェイクかもしれないだろうと私が往生際悪くいたら、手紙に堂々と「頭に万力を締めたら覚醒した」とか書いてあって「終わった〜〜もうダメだ〜〜!」となってしまった。次に会う時今までのシグルドはもういないかもしれないと思ったら会いに行きたくない気持ちが重くのしかかり、しばらく他の地域でグダグダしていた。

 それで集落でちょっと休も〜と思ったら次はダグおじさんの直訴!でも実際、首長の弟ってだけでデカイ顔しやがってって思われるのも一理あるし、集落になかなか帰らないであっちもこっちもとやってたのは事実。都合のいい時だけロングシップを呼びつけてたのも認める(システム的にそうなるように作られてるんだけど)。シグルド奪還が全然上手くいってないのも事実。だから「うわメンドクセ!」と思いはすれどダグだけが間違っているとは思わない。ただそれは「俺は神の子なんだ!」と唱えながら自分から捕まりに行ったバカにも言ってくれないか?その時のみんなの目があまりにも冷たいから「え、そんなに?そんなに俺ダメだった?」ってなったし、ロングシップに乗ってるやつらにも俺(エイヴォルさん)のこと信用できないと思われてるのかなと思ったら人間不信になりそうだった。そのイベントの後グンナルが「お前は正しいことをした」と言ってくれて救われた思いがしたが、レダにダグは愚か者だと言われたときは、悪口言われるのもそれはそれで腹立つという複雑な心境でもあった。相手が首長だとしても間違っていると思ったら指摘する人がいないと困るし、裏切られたとも別に思っていないから。

 色んな人に助けてもらってようやく取り戻したシグルドは、予想していたほど超然としてはいなかったけど何かが変わってしまっていて、エイヴォルさんと話しても違う世界の方ばかり見ているようでどうしようもない程の心の距離を感じた。あんなに目を輝かせていたイングランド制覇の野望にも全然興味がなさそう。そのうえ「もたもたしていたのはわざとだろう?」とか嫌味を言ってくる始末。その時のエイヴォルさんの「え?」という表情と声を聞いたら可哀想すぎて一周回って笑えてきた。全部テメーのためだっつーのに!「シグルドが興味ないのに俺は一体なんのために頑張っているんだろう……」と思いながらとりあえずウィンチェスターまで終了すると、今度は彼から「ノルウェーに帰るぞ!」とのお達し。そのうえ「戦士の館で栄光を掴む!」と言い出した。戦士の館=死後の世界なので当然驚くエイヴォルさん。さらに「死ぬのではなく新たな世界へ行くのだ!」と力説され、わけわからなさが加速するにもかかわらず「この世界の内ならどこまででも付いて行こう」と言い切るエイヴォルさん。ここまで振り回されてなお揺るがぬ信頼と忠誠に感心した。どんだけシグルド大好きなのか。しかし向こうも救出直後のように突然癇癪を起こしたりせず結構普通に話せるし、神々の世界だけでなく現世の話題にもちゃんと反応してくれるようになっていたので少しの希望が見えていた気がする。それと冒険の最終局面で始まりの土地に再び戻ってくるという展開はやはり王道でテンションが上がる。てっきりハーラルとひと悶着あるのかと予想していたのだけど、もうノルウェーは過去の土地とばかりに決別をあっさり済ませたのは意外だった。

 その後はもう怒涛の展開で息もつけないまま走り抜けた。

 名誉ある戦死者だけが集まる楽園に辿り着いたと思ったら、結局そこは使用者の見たいものを見せてくれるバーチャルシミュレーターのようなものだったらしい。というかイスの未来的な雰囲気と北欧神話のファンタジー的雰囲気がなかなか結びつかなくて、最初に見たときはアース神族達の生きていた世界自体がバーチャルシミュレーションに過ぎなかったのかと思った。しかしその後アニムスの異常現象をやりきったら「大変動」=ラグナロクなのではないか?と思い至り、あの神話世界はあくまでエイヴォルさんにとっての常識というフィルターを通して見たイスの世界だったのかもという結論になった(オデッセイのDLCでも同じようなことがあったらしいが私はやってないからね)。つまりエピソード自体は本当にあったことだが、魔法っぽいものなどは要するに「発達し過ぎた科学はそう見える」みたいな話だったのかもしれない。

 でもそうするとあのバーチャル装置は一体何だったのだという疑問が残る。過去映像ではユグドラシル=遺伝子を人間の身体に移す場所のようだったけどシミュレーション要素はなかったから。

 

来りし者たちの遺跡に入った瞬間の圧倒的異質さを感じると痺れる

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一目見た瞬間「やばいところに来ちまった……!」と理解する巨大建造物 

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 それはともかくエイヴォルさんは「ここでの栄光など虚構だ」とおっしゃってシグルドと共にバーチャル世界から帰ろうとする(私はここで「それを言ってしまうとヴァイキング全員が信じている戦士の館とやらも"そういう設定"の虚構ということになるのでは……?」と若干の疑問が湧いたのだが、他のプレイヤーの感想とか後の彼の台詞等をみる限り、そこまで含めてエイヴォルさんにとって大切なものはそういうものではないと判断したのかなと思った)。

 たしかにシグルドの言っていたことは事実だったし、神(来りし者)の生まれ変わりだか子孫だかという話も本当だった(実はシグルド=テュールだということに他の人の感想を見るまで私は気がつかなかった)。しかし言ってしまえばそれは「かつてそうだった」というだけの話であり、今のシグルドに何か特別な魔法が使えるとかそういうことではなかったようだ(来りし者の因子が濃いと宝物庫を開けられるなどは確かにあるが、秘宝が絡まなければただの人とそんなに変わらなかったはず)。シグルドの話を聞くに、どうやら彼は今の自分に納得がいかないあまり「かつて偉大だった自分」という夢にすがりたくなってしまったみたいだった。そういう気持ちが時に起こってしまうことは仕方がないとしか言い様がない。私の場合は選んだ選択肢が良かったのか、少しの説得でシグルドも帰ることを納得してくれたが、過去に彼を殴ったり彼に強く反発したりしていたら離別する展開もあったのだろうか。そんなこんなでなんとかうまく行きそうで安堵していたら、そう簡単に行かせるかとばかりに「待てい!」と割り込んでくるオーディンとすったもんだしたり、バシムとかいう恨み野郎(後述)とすったもんだしたり大変だった。しかし何にせよ2人が前のように確かな絆で繋がり直せて本当〜〜に良かった。シグルドがエイヴォルさんのこれまでの頑張りをちゃんとわかっていてくれたことがわかるシーンには泣かずにいられなかった。
    バシムのことは前々から怪しんでいたので本性を表されたときには驚きはしなかったけど、味方だった頃の彼の踊るような戦い方を見て「こっわ……」と思っていたのでいざ敵対されると本当に厄介だった。ロープランチャーみたいなものも持ってるわ煙幕使うわエアアサシンしてくるわでやりたい放題。なんとか機械の中に閉じ込めたと思ったらなんと千年の時を超えて現代に返り咲いてきた!あの展開には度肝を抜かれた。まさかこれからはレイラの代わりにコイツなのか!?複雑な気分だ……。変なTシャツ着てんじゃないよ!

 

・主人公エイヴォルの話

 ヴァルハラ云々とか雪国の景色とかを見ているとスカイリムの思い出がよぎることが多いのだけど(スカイリムも北欧神話に寄せた世界観のため)、私はやっぱりプレイヤーが自分でストーリーを思い描くようなゲームよりも細部までがっつり主人公の人生を描いてくれる方が好みだと思った。その代わり主人公のことが好きになれるかどうかに全てがかかってしまうけど。その点エイヴォルさんは行動理念も性格も見た目も全体的に良いのでほぼ不快なところが無くてよかった。ヴァイキングだからもっと血に飢えているのがデフォルトかと思ったのだけど、戦わず話し合いで収める方向にも結構もっていく。異文化圏の人の話もちゃんと聞くのでデーン人ともサクソン人ともブリトン人ともそれなりに上手くやれる彼は本当にすごいと思う。

 というか「生まれ故郷を捨てて新天地で富と権力を得るぞ!」って意気揚々と来られても、もともとそこに住んでた人からしたら「来んなよ!生まれた土地で大人しくしとけや!」と邪険にされて当然な気がするので、相手の対応がトゲトゲしくてもあまり腹は立たなかった。こっちは略奪とか殺しとかしまくってるし……。まあサクソン人だって移民な訳だから「俺らの土地」と言い切るのは正確ではないという気がするが。

 

ノルウェーは綺麗なところだけどやっぱり人間が暮らすには厳しい

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 エイヴォルさんの中で略奪の正当性と「"俺たち"の国を守るために一致団結しよう」と呼びかけることのダブスタっぽさにどうやって整理をつけているのかが少し疑問。同じヴァイキングのルエドを「この国にとって害だから始末しよう」というストーリーの流れになった時、私は「自分たちの修道院略奪とかはノーカンなのか!?」と驚いてしまった。一般人でなく兵士しか殺してないと主張するのはわからなくもないが、それを差し引いても物資を奪われるとか家が焼かれるとかされたらたとえ命が助かったとしても結構エグくないか……?いいのか……(ワールドイベントでヴァイキングに家を焼かれ仕事を失った人たちが旅人を脅して身包みを奪う話が出てきて「ですよね〜……」と思った)?一応私の憶測では、エイヴォルさんとしては仲間たちの生活する場を整えることが目的だから、必要以上の殺戮がしたいわけではないのだろうと思っている。それに、生きるために奪うのが普通で人の命が現代よりもっと儚かった時代では「ここまでは許されるべきライン」というべきものが今とは違うというのもあるかもしれない。

 しかしそんな風に冷静に振る舞えるエイヴォルさんでも「もし戦わなくていい状況になったとしたら戦士以外の何をして暮らしたい?」と問われて「戦士だから戦うんじゃない。俺の魂が戦いを求めているから戦士なんだ(つまり戦わなくてもいいという状況自体がありえない)」と言い切るぐらいには戦いが大好きで、キレた時は本当に"殺る"ってところがやっぱりヴァイキングだなと思う。「目玉をくりぬいて狼の餌にしてやる」と言ったら本当に"やる"んだよ彼は。それと面子が潰れることに人一倍厳しくて、恐ろしいほど口が回るから罵倒のレパートリーがものすごく多いところがいい。口論詞とかいうフリースタイルラップバトルができるのも今作の超楽しいところなんだけど、プレイヤーは三択から選ぶだけだからできるとして、エイヴォルさんは韻を踏んだうえで相手に刺さる言葉を秒で考えてくるから敵に回したくないなと思った。

 

酒に強いけど泥酔すると未知への船出をしたがったり道端でもどこでも寝てしまうところが微笑ましい

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 しかしハムトンシャー制圧の最後のシーンで、エイヴォルさんが「死は死でしかない」と言い切ったのは結構意外だった。名誉のために死に、死後も戦い続けることが理想だというヴァイキングの信条にこれまでずっと従っていたのに。やはりあのオーディンとの決別が転機だったのか。「栄光や富や永遠の命以外の何を求めるというのだ!」と問うオーディンに「それ以外を」と答えたあの瞬間に決まったのか。キリスト教徒の生き方に触れたのも要因の一つか?歴戦の戦士であるグスルムが「戦っても戦っても満たされることはない。本当にこの生き方は正しかったのか?死後にあるのが永遠の名誉ではなく安らぎだとしたら?」と問い、エイヴォルが「死後の世界とは生きていた頃の後悔の写し鏡だ」と返すシーンは真理を突いているという気がした。死後の幸せを夢見るよりも今の後悔を一つでも減らすために戦うというのがエイヴォルさんの答えなのかな。結社クエストが終わった時ハイサムに向けた「俺は愛する者と愛してくれる者のために人生の一時を捧げる。お前のためにもな。」というセリフがすごくよかった(ハイサムがとっくに身内に入っているという事実も)。そういう結論は結構好きだぞ!
    大きな戦いのとき、今まで同盟を組んだ人たちがエイヴォルのために駆けつけてくれて、彼らの顔を見たら各地でのエピソードの数々が蘇ってきて胸が熱くなった。だからこそ戦いの中でその何人かが命を落とすことがあると涙が止まらなかった(特にフンワルドが死んだこととヨールが死んで打ちひしがれるリュビナを見たのがかなり辛かった)。死んだ彼らはきっとヴァルハラにいると唱えることは「そうであったらいいな」という生者のための祈りであって、大切な存在を失った欠落はその祈りがあっても完全に癒えることはない。死後の幸せを信じるなと言うわけではないけど、結局「失わないように出来るだけ頑張る」しかないのかなという気がする。

 

・印象深かったキャラクターの話

 中盤までだったらやっぱりアイヴァーかな。あいつは本当に強烈なキャラだったわ。初対面の時、密偵の残酷な殺し方を見せられて「え、こいつ仲間?敵じゃなくて?」ってなった。仲間じゃなかったら速攻暗殺してるタイプの人間じゃないか。それだけならまだ血の気がちょっと多いだけで済んでたかもしれないけど……まさか戦いのための自作自演までするとは……。交渉の邪魔をされたところまでは、本当にロドリが畜生なのかもしれないしまだ信じるには早いというのは一理あるかもと思ってたのに!チェオベルトくんがせっっかくいろんな経験積んで武力も思慮も成長して、これからって時に!「アイヴァーにも素直なところがあるんですよ」って言ってくれてたじゃん!でもそんなことを言いながら、私は実はそこまでアイヴァーに腹は立っていなかった。なんというか「ヴァイキングの生き方ってつまりはこういうことなのかも」という気がしてしまったから。アイヴァーが特別過激なのは間違いないけど、何かのために戦うというよりも戦うことそのものが目的みたいなところは多かれ少なかれヴァイキングはみんなそうだし。だから、勇敢に死んだ者が死後オーディンの館に行くというのが本当にしろ嘘にしろ、そこまで行きたがっているならまあ死ぬ瞬間くらい夢見てもいいだろうと思ってアイヴァーに斧を渡してしまった。

 ただオーディンがコイツを受け入れてダグを受け入れないのだけは解せない。ほぼ同じようなもんだろ?あのジジイ、選り好みが激しすぎるだろ。

 

 オーディンもこのゲームに欠かせない存在だが、正直行動理念がよくわからない。ヴァイキングたちはコイツを信奉しているけど彼らはもっとわかりやすいから。まず初めに会ったときは「急に話しかけてきて誰だコイツ?」だった。次に字幕にオーディンって出てきて「風貌が案外普通のジジイ!」と驚愕。

 

ペルソナのオーディンの変な格好に慣れてしまったからだろうな

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エイヴォルさんはこのジジイの生まれ変わりらしいが、そのままの性格ではないので意見の対立もしょっちゅう。仲間たちが「オーディンのために!」と勇んで戦う姿に「オーディンここにいますけど……そんなに尽くすような相手かな……?」みたいな気持ちになってしまう。重大な選択のときにいちいち話しかけてきて血生臭い方向に誘導しようとしてくるので「ちょっと黙っててくれないかなぁ!?」と言いたくなることが多かった。しかしメインストーリーラストでバーチャル世界から抜け出そうとするエイヴォルの前に立ちはだかって「ここにいれば未来永劫幸せでいられるのになんで!?行かないで!(意訳)」と縋る姿はヤンデレみたいでちょっと良かった。すげなく振られる姿まで見せてくれるとそんなに嫌いでもないと思えてくるから不思議だ。

 

 そして絶対に外せないのがバシム。ストーリーのラスボス的立ち位置だと思われるが、こいつに関してはいろいろ言いたいことがある。まず初めて会った時、誓いを立てるどころか信条を理解していないエイヴォルにアサシンブレードを授けてくれるので「え?そんな簡単に渡していいの?」と訝しみながらも、プレイヤーが暗殺できないとさすがにアサシンクリードを名乗れないのでありがたく受け取った。アサシンのことを何も知らなかったらハイサムを気難しいやつと思うかもしれないけど、切り札を易々と公開されたら反発するのは当たり前よ(バシムを倒した後の教団からの手紙で、最近の彼が信条に対する熱意を失っていたという内容のことが書かれていたので、シグルドたちに信用してもらうことの方が重要になっていたのではないかと思う)。まあそこまでは「よく知らないけど親切な人」ぐらいの認識だった。しかし次に会ったときはもう既に「シグルドは私が調教しときました」みたいなツラで態度ドデカマンになっていて驚愕。俺のシグルドに変なこと吹き込みやがったのはお前か!?シグルドが囚われたあと、追跡するとは言うものの妙に冷静なので「アイツに任せておいて本当に大丈夫なのか……」と不安が芽生える。でもここまではまだ小さな不安レベルで、転機が訪れたのは修道士を誘拐して別の修道士に助けさせるというお芝居をしたとき。砦を制圧したあと財宝をいただくためにオーディンの目を使ってみると敵兵の赤い印が!イベントは終わったのに撃ち漏らしがあるなんてあり得るのかと疑問に思い見に行ってみると、なんと馬上のバシムではないか!今まで味方の緑の印だったのに!そのあと誘拐した修道士がなぜか服毒死を遂げてしまい、明らかに自分が死ぬことに驚愕していた死に方だったのにバシムが「自決されてしまったようだ」とか宣うものだから「コイツ……やったな……?」となった。そのときはシグルドを奪還させないことでバシムに何の利があるのかわからなかったけど、今考えると宿敵(と勘違いしている)シグルドが痛めつけられるのは望むところだし、ついでに神々だった頃の記憶を思い出してくれるなら好都合ということだったのかもしれない。

 この神々の記憶というのがすべての根源だったとあとで明かされるのだけど、私は幻視クエストは後でいいやと思ってそれまで一切やっていなかったのでバシムの一族を殺された話とか「息子を殺しただろ!」とか何が何やら意味不明。後にアースガルズに行って何が起こったのかは理解できたが、最初はロキの言ってることはほぼ逆恨みじゃないかと思っていた。狼に滅ぼされるという予言に怯えて国中の狼を殺そうとしたオーディンがやりすぎという話なら一理あるとして、檻から逃げ出した狼を追ったら襲いかかってきたから倒したのは仕方なく見えたから、それを「俺の息子をあんな風にしやがって!」とかキレられても知らね〜〜という感じだった。しかしテュールから「フェンリルは最初は優しい狼だったが我々の疑心と酷い仕打ちのせいで憎しみに支配されてしまったのだ」と聞かされ、さらにグレイプニルが無害だと嘘をついてテュールの腕まで犠牲にしたのに平然としているオーディンを見たら、このジジイもだいぶ悪いなと思い直してきた。確かに恐怖心に突き動かされるばかりでフェンリルを初めから悪いやつだと決めてかかっていたからね。話そうと思えば話せたはずの瞬間さえ不意にしてきたからこういうことになってしまったんじゃないの?こうなるとロキだけが悪いとは言えなくなってきた。当のエイヴォルさんもジジイの無情っぷりに引いていた様子で、やっぱり転生とはいえ別人格なので、バシム(ロキ)に「全部お前のせいだ!」と突っかかられるのは可哀想な気がする。

 奇跡の生還を遂げたバシムおじさんは「子供たちを見つける」と宣言していたけど、子供たちも同じように転生しているのかね?そもそもイメージ映像でない実際のイスの世界でのフェンリルってどういう存在なんだ?彼が今後どういう行動に出るのか全く予想がつかない。

 

「絶対怪しいけどカッコイイから撮っとくか……」という衝動に飲まれた結果の写真

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 最後はもちろんアルフレッド王。

 でも最初に予想した人物像からかな〜り違った終幕を迎えてなんとなくスッキリしない何かが残ってしまった。というか結社のトップ自らが組織を破壊してもらおうと他力本願なのってオデッセイと全く同じじゃないか!?テメーの組織の舵取りもできない人ってなると、よく言えば人間味があるけど悪く言えば小物くさいわよ!トップゆえの苦労というものがあるとしても!そしてイングランド制圧のフィナーレなのに相手は王でなくグッドウィンとかいうカスっていうこの……やるせなさ?当の王様は玉座を追われたら田舎でスローライフを満喫していらっしゃるし。

 

穏やかな顔でケーキなんか焼いてしまってるからね

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本当はこういう暮らしがしたかったのかと思ったら憎めないような気がしてしまうけど、そんなことしながら元王は相変わらず「君もいつかは神に従うことになるよ」とかキリスト教徒の嫌なところバリバリ発揮してくるし。曇りなき眼で言ってくるところがめちゃくちゃタチが悪い。史実だとこの後デーン人に反撃して王に返り咲くらしいけどまあこんな強かな人がこのままで終わるわけないよねと思った。

 

・隠れし者の話

 「これもうアサシンじゃねーだろ!」とはオデッセイから叫ばれていたが、そこのところは私としてはもういい。暗殺者って実際地味というか泥臭いというか、耐える時間の方が圧倒的に長くて華々しさには欠けるものなんだろうと思うので、ゲームとしての新鮮さや爽快さを求めたらアサシン全振りはやってられないのはわかる。でもやっぱりアサシンクリードだから、ターゲットが提示されてそいつにどんどん近づいていく過程が他の何よりも一番楽しい!同盟相手との心温まる話とかもいいんだけど……いいんだけど!
    私がアサシンクリードで特に良いと思っている点は、隠れし者は単なる殺人鬼でなく人々の自由意志と健全な生活を守るという大義のために存在するというところと、潜入という孤独な戦いの中でも志を同じくする仲間が世界中にいると思えば頑張れるという、付かず離れずの絆があるところ。だから今作ではイングランドから撤退したかつての隠れし者たちの支部を発見できるのが最高に楽しかった。教団という大勢の中の一人ひとりに思いがあって人生があったという痕跡を感じ取れると心が沸き立った(隠れし者の装備が唐草模様っぽくてクソダサなのは許していない)。

 

支部の入り口付近に上空からわかるように印がしてあるのがものすごく好きなんだけど2つは見つけられなかったf:id:pmoon1228:20210121065657j:image

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最後に訪れた支部で爆発で壁を壊したらその残り火でシンボルマークが浮かび上がるとかいう小粋な演出

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 バエクとアヤのこととおぼしき物語を集落でレダが聞かせてくれるイベントがあったのだが、物語というものは諸所脚色されて妙に綺麗にされていたり省略されたりしている部分があることがどうにも居心地が悪かった。そういうときに端折られてしまうような細々としたものこそが個人を形作る一番大事なものではないかと思うから。生(ナマ)のままの書簡を読めるのとは全然違う。だから実在した人たちの人生を物語にされるのは私はあまり好きではないなと感じた。
   しかしハイサムの依頼を完了するとなんとバエクさんの声付きでアヤ宛の本物の手紙を読んでくれるイベントがあるのは度肝を抜かれた。別れるときは聞き分けが良かったのに未だに「お前は俺のイシスで俺はお前のオシリスだ」とか熱烈な恋文を送りつけていたのには笑ってしまった。大義よりも個人的な情を大事にするところが変わってなさすぎ。やっぱこれだよこれ!物語じゃ聞けない"リアル"がここにある!こういうのを求めていたんだ!
    

 本当に神ゲーと言って差し支えない楽しさだった。願うならバグがもっと少なければ!    

 最後に、このゲームで出会えた可愛すぎる動物たちの写真を載せておく。

 

犬を撫でたらしばらく付いてきてくれる神ゲーf:id:pmoon1228:20210121073331j:image

 

猫に頬ずりできる神ゲー

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部屋に狼が居着いてくれる神ゲー

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喋る白い鹿まで見られちゃう(ラリってるクエストだから)

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うさぎのことをロキだと思って一生懸命話しかけてる人マジで好き

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アースガルズではトナカイにだって乗れちゃう

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『Assassin's Creed Origins』感想(Odysseyも少々)

    いや〜〜面白かった〜〜!

 実はオデッセイから先にやっちゃったんだけど、ギリシアの雰囲気にそこまで惹かれなかったからか、スパルタに与するのに気が進まなかったからか、家族の修復にそこまで興味がなかったからか、ピタゴラスいけ好かないと思ってしまったからか、巨大怪物と戦うためにアサクリ買ったわけじゃないからか、「呼吸しない、の答えが魚っておかしいだろ!えら呼吸知らんのか!?」と憤慨したからか、傭兵システムに超イライラしたからか、まあまあ楽しいんだけどイマイチ乗りきれなかったんだよ。(同性愛要素がたっぷりあったのとバルナバスくんが可愛かったのはめちゃくちゃ好きな点だけど)。

 そうなってみて、じゃあほぼ同じシステムらしいオリジンズはどうなのかと若干心配していたのだけど、ところがどっこい超楽しい。やっぱり主人公が好きになれるかどうかと、行動指針に同調できるかどうかが私にとっては一番大事だと思った。思うに、私はゲームがやりたいというよりは物語を堪能したいだけだから、魅力的なストーリーが無いと何にもやる気になれないようだ。自由度よりもどれだけ没入できるかの方を重要視してしまう。アレクシオス が悪いわけではないけど、前述の通り、ストーリー上用意される目的に私はそこまで燃えられなかった(唯一興味が湧いたコスモス門徒との悶着もラストが微妙にあっけなく感じて……)。その点今回はアサシン教団設立までを辿れるという大筋にもワクワクしたし、主人公バエクくんの復讐がどんな結末を迎えるかにも興味津々だったし、プトレマイオスの圧政に苦しむ人々を助けるというのもわかりやすいし共感しやすいし、何よりエジプトの風景に感動の嵐!れはもう完全に私の趣味でギリシアよりエジプトが好きというだけなのだけど、どこか不気味なのについ近寄ってみたくなってしまうような神秘的な美しさを纏った人工建造物の数々!完璧なシンメトリーで構成された神殿!最高!メンフィスのプタハ神殿なんてあまりの素晴らしさに卒倒しそう。

 

 命の家 巨大すぎる二対の像

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セクメト神殿のかっちょいいモノリス

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最高プタハ神殿

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バエクさんに「思ったより小さい」とか言われた大スフィンクス

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絶対外せないギザのピラミッド

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  どうやら私は広大な山々や海よりも、意味不明な大きさと気の遠くなるような精巧さで作られた人口建造物を眺めて「うおおおお!」となる方が好きなようだ。それが巨大であればあるほど良い。「これを作ろうと思った人も実際に作ってしまう人も到底正気とは思えない……。」と唖然としたい。そしてあわよくばアサシンの超身体能力でその頂上に登り、ダイナミックにイーグルダイブ!なんてことが出来ようものならもう思い残すことはない。(その点ではギリシアの巨大なゼウス像とかアテナ像とかポセイドン像とかもなかなか良かったが、いかんせん神殿類が小さすぎた。)

 でもオデッセイからやって良かったと思った点は、いくつかの街を構成するギリシャ風建築に対して「懐かしい〜!」と思うようになったこと(まるで当時生きてた人みたいだ)。散々聞かされたゼウスだのアポロ(ン)だのを変わらず聞けることもあるし、ギリシア人のような服を着たセラピスとかいう聞きなれない名前の神の名前もあって、それがエジプト人にも信仰されているという事実に、征服者は己の正当性を謳うために神から変えていくのかと戦慄を覚えたりもした。

 

もはや懐かしいゼウス神殿

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「セラピスって誰よ!」なアレクサンドリア大図書館

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    そしてもちろんアヌビスやオシリスなど有名なエジプトの神々の話が人々の生活に溶け込んでいる様もよかった。バエクも当たり前のように信心深くて、遺体を火で燃やすことを冒涜だと言ったり、「葦の原野を渡れなくなるぞ」が最大級の脅し文句になったり、「この街は儀式によって砂漠に捧げられたのだから掘り起こすのは摂理に反している」とか、その時代を生きている人の生(ナマ)の感覚に驚くことばかりだった。やっぱり「時代の空気を肌で感じられる」という点がアサシンクリード最大の持ち味であると私は思う。 
    あと細かいところでは、トカゲの暗殺の時にいつもみたいな高警戒地域ではなくて堂々と正面から入れて、「5人の中で本物のターゲットは誰でしょう?」って展開だったのが一番好きだった。それから象に乗ったターゲットと戦わされて、倒したターゲットが落下死?圧死?したところも好き。それからスカラベに砂に埋められたとき、呼んだ馬がなかなか近寄らなくて困ってたら痺れを切らしたセヌくんが「ピィーッ!」って追い立ててくれたところも超好き。セヌくんが有能すぎて一生愛す。

 

 ここからはバエクとアヤ周りの話。
 バエクくんホント好きだわ〜。真面目で誠実、弱き者に優しいところはもちろん、悪に対しては一転して容赦なく切り刻み殴りつける苛烈なところも好き。そして子供に対してはどんな子にでもめちゃくちゃ甘ちゃんなところがマジで可愛い。あと目の周りが黒いところも超好き。さらにとりわけ好きな点は、大義よりも個人的な幸せを大事にする派なところだな。バエクくんは復讐さえ成せられれば後は夫婦仲良く暮らせればそれでいいという感じで、妻のアヤの方がエジプト全土を救うという大きな目的に身を捧げたい派なんだよね。大抵のフィクションだと男女逆になってると思うので新鮮だった。最初あんなにラブラブシーンをプレイヤーに見せつけてきたのに中盤からだんだんすれ違うようになってしまって、最後には2人が夫婦関係を解消してしまったのはかなり悲しかった。「別に前と同じ性質の愛でなくても、別れるまではしなくてよくない?遠くでも繋がっているよでよくない?」と思ってしまったんだけど、やっぱり個人的に愛する夫という存在をもっていると、それが弱みになったり夫と信条を天秤にかけなければいけない時がどうしても訪れるだろうから、そうするしかないというのもわかる。身の回りの人を大切にすることの延長に自らの国を大切にすることはあるから、決して2人の絆が切れたわけでも愛がなくなったわけでもないんだけど、ただ優先順位が違う。それだけで側にいられなくなってしまうこともある。人間関係って儚い……。アヤの「二度と私のような母親が出ないようにしたい」という信念も、散々人を殺しまくった自分たちが日の当たる人生なんて歩んじゃいけないという気持ちも理解できるが故に。
    しかしアヤはバエクの関与していないところでターゲットを殺っちゃってたり船旅してたりラストのセプ何とかとカエサルという美味しいところをもってっちゃったりいろいろしてたわりに、装備変更不可とかシステム的には妙にとってつけた感じだったな。雰囲気はおまけっぽいけどめちゃくちゃ重要な本編だからチグハグだった。特にセヌがいなくて敵をマークできないのがだいぶ困った。いっそのことフライ姉弟みたいにダブル主人公だったらしっくりきたかもしれない。やっぱカエサルという超大物を殺るのは一から育てた主人公でやりたいという気持ちは無いでもないよね。
    私はバエクくんが伝説級の戦士でありながら名声や権力に頓着しないところが大好き。メインストーリー最後のムービーでバエクが子供を支部に連れて行くのではなくただ手を繋いで家に送り届けるシーン、心底彼らしくて胸が熱くなった。大義のために戦う姿ももちろんいいけど、ただ身の回りの人が健やかに暮らすために思いやりをもてることも、ものすごく大切なことだと思う。
    クレオパトラを信じて彼女のために働いたのに結局裏切られたのは痛手だったけど、そのおかげで人々のために戦いたいという志をもった同志たちに出会えて「隠れし者」となったという展開もかなり熱かった。たとえ時代が違って地域が違ったとしても、虐げられるままを良しとしない人々の意思は必ず存在するから隠れし者の精神は不滅、っていうね……熱いわ……。
    最後バエクはメンフィスにいるし支部もそこにあるから、彼の帰る場所はメンフィスってことになるのかな。シワのバエクではあるけどケムもアヤもいない家に帰ったところで……って感じだろうし(そもそも物語開始時点からホームは塞がれてたし)、シワは故郷であってももう「帰る場所」ではないんじゃないかとなんとなく思う。彼はもうただのバエクになって、隠れし者として皆のために生きることが目的になるのかな。でも彼には彼だけのささやかな幸せを見つけてほしいという気持ちがどうしても湧いてきてしまうね。彼の心が穏やかであってほしい!もう何も損なってほしくない!暗殺者をやっている限り難しいだろうけど……。
 う〜んとにかく面白かった!オデッセイで少々不安になったがヴァルハラにも期待。

 

ホルスに似てるけどホルスではない何か 意味がわからなくてもカッコいい 来たりし者と関係がある?

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「ただのバエク」として放浪した白い砂漠で迎える朝

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メンフィス支部だけにあるホルスの目

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メインストーリーの終わり

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『Assassin's Creed Syndicate』感想

 アクションゲーム、特にスニークの類いが苦手でつい突撃してしまうタチの私が一番苦手そうに見えたアサシンクリードシリーズ。果たしてクリアできるのか心配だったが、「実在の都市を縦横無尽に飛び回れて時代の空気を肌で感じられるゲーム」への好奇心で購入。もちろん詰んだりしたら肌で感じるどころではないので、レビューで一番簡単そうに言われているやつを探した。ゲーマーの言う「簡単」「ヌルい」は私にとってはあまり当てにならないので、シリーズ初プレイの人やゲーム自体にあまり慣れていなさそうな人の意見を参考にした。このシンジケートと、初めてeasyが導入されたというオリジンズで迷ったが、どうせなら古い方を先にした方が後続をやりたくなったときにシステムの進化を感じられていいのではないかと思い、シンジケートに決定した。
    

 その結果どうだったかというと、た〜〜のしかった〜〜!大満足!

 懸念材料だったスニークは、最初は何をどうしたらいいのかわからなくて敵に見つかりまくってボコボコにされたり、ターゲットに逃走されたことに動揺して間違えて殺しちゃって死体を担いで逃げようとしてボコボコにされたりして、あまりのドジっ子アサシン珍道中ぶりに落ち込んでいたのだが、電気爆弾を入手する頃には何とか板についた程度にはなり、メインストーリー最終幕では時間制限ありでも落ち着いてキルし、煙幕を投げて3人以上でも対処できるようになって成長を感じた。

 まず鉄則は物理戦闘をなるべく避けること!アサシンなのだから当たり前といえば当たり前なのだが、序盤はパニクってつい殴りかかってしまうことが多かったので「まず何はともあれ逃げる!」をモットーにしたらだいぶ調子が出てきた。そして何よりも大切なのは状況把握!目標地点に近づいたらまず索敵!周りにどれだけ敵がいるのか、今自分が持っているもの・使えるものは何か、制圧した区域の宝箱は取ったか、等をちゃんと把握しておくことを心がける。特にミッション中は己の反射神経を一切信用しないことがミソ。ゲームの上手い人だったなら多少想定外が起こっても対処できるのかもしれないが、私にそういうことを期待してはいけない。目的だけでなく逃げ道までをちゃんとシュミレートしておく。それでもターゲットを生かして捉える賞金首狩りや、気づかれずに盗め等のミッションは結構苦手なままで、殺せば済むタイプのミッションの方が遥かに楽だなと思った。その中でも苦手だったのが馬車。ふらふらしまくりぶつかりまくりUターン出来なさすぎ。まずバックがL2でできることを知らなかったため序盤はかなり苦戦した。目的地で煙幕を使えば囲まれていてもミッション達成になることを攻略サイトで知れたのは相当ありがたかった。「馬車は嫌だ〜馬車は嫌だ〜……って結局馬車か〜〜〜い!」ってシーンがめちゃくちゃあったので疲れた。それでも何度も何度もやらされるうちにさすがに慣れてきて、ヒーコラ言いながらも何とかクリア。
  そんな風に諸所で悲鳴を上げながらも最後まで楽しくプレイできた理由は、やっぱりロンドンの街中を好き勝手に歩き回り飛び回りできること!ロンドンの街並みも教会も宮殿も庭園も、とにかく見るスポット全てに感動!(PS4自体のスクショ機能をすっかり忘れていたために、クエスト専用マップ内の写真が取れていなくて大変無念……。)ビッグベンの時計の部分にぶら下がれたときは全身に震えが走った。時計の部分が光って月夜に浮かび上がる姿はもう垂涎モノ。それとメインストーリークリア後にバッキンガム宮殿を歩き回れることには痺れたし、セント・ポール大聖堂の屋根についてる3人のジジイの像を間近で見られる機会なんて生涯無いよ。

 

時計にへばりつくミスター・フライ

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宵闇に浮かび上がるビッグベンの光

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華美~な宮殿内部

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セント・ポールの爺

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あとお気に入りはきったねえテムズ川にダイブすること。ロンドンはたしかに綺麗だけど産業革命期だからそこかしこが煙いしきったない。でもそこがリアリティを感じられていい(住む人間にとっては冗談じゃないと思うけど)。ロンドン最高!

 

きったねえ街でも変わらず夕日は美しいね

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 そんな有名スポット群だけでは飽き足らず、その時代を生きた偉人たちの人生に関われることも楽しすぎた。史実とは異なるんだろうけど、教科書等で知るのと実際に時代を「生きている」姿を見られるのは全く臨場感が違う。ナイチンゲールとかベルとかディズレーリとか盛りだくさんだったけど私のお気に入りはジジイ3人衆。ディケンズのジジイもマルクスのジジイもダーウィンのジジイも人使いの荒い奴らばっかりだったけど、面白かったしタフな奴らばっかりだったから許しちゃう。別れの時は「達者で暮らせよ……(涙)」となった。そして満を持して登場したヴィクトリア女王!「肖像画のまんまだ!」って大興奮してしまった。
    それとこのゲームを語るうえで絶対外せないのはもちろんジェイコブとエヴィー。このゲーム時々日本語訳があやふやなことがあって、今何の話してるのか見えないときがあったんだけど、とりあえず姉弟の中が険悪なのはバリバリ伝わってきた。でもブラコン・シスコンばっかりのフィクションとは違って実際の兄弟関係ってけっこうこんな感じだと思うので、私にはこういう方が好ましいかもしれない。

    まずジェイコブが派手好きで細かいこと考えずに戦いたいタイプって時点でアサシン向いてなくない!?って思う。実際ミッションをやるにしてもステルススキルが豊富で投げナイフ大量持ちのエヴィーの方がやりやすいし(ジェイコブのデータベースの人物欄にも「No.2のアサシン(No.1はエヴィー)として名を馳せていた」って書いてあって、「ですよね〜」と思った)。それでもジェイコブの、貧しい人々や子供を守りたいって気持ちは本当だったっぽいので、エヴィーさんの棘のある発言には「そこまでこき下ろさなくても!」と擁護したくなる。というかエヴィーさんだってしっかりしてるかと思いきや、尾行に気付かず鍵取られたり、ヘンリーへの愛を優先して設計図逃したり、催眠術にうっかりかけられたり、最終幕の大事な局面でまたしてもラスボスに鍵を取られたり、けっこうやってますからね。特に催眠術にかけられて警察にパクられ、檻の中で動物のように奇声を発してたなんてアサシン的にクソダサですよ。ジェイコブにバレたら一生ネタにされるレベル。あまりにもエヴィーさんが簡単に催眠にかかりにいくもんだから、最初私「これは演技なのかな!?」と期待しちゃった。でも結果は、はした金盗んでまんまとパクられてた。そんなギッスギスの2人がいつか決別してしまいそうでハラハラしながらプレイしてたんだけど、最後には仲直りしてくれてホンッットによかった!やっぱり2人で助け合ってスターリックとの死闘を制したのが効いたのかなあ?それとジェイコブが自分の悪かったところを認めたのがめちゃめちゃデカいと思う。尻拭いしてもらったって申し訳なさそうにしてたし、何より喧嘩してる間のこと「寂しかった」の一言よ!これが言える勇気!ジェイコブ君偉い!その前にエヴィーが「(エデンの布を纏っていたら)私が不死になってジェイコブだけおじさんになっちゃう」って言ったのも、2人がこれからも運命共同体でいるつもりって感じでグッと来た。エヴィーの方も「父親が全て正しいわけじゃない」って折れたし。2人が最後に「列車まで競争だ」て言いながら走り出していくシーンがめっちゃ心に沁みた。達者でやれよ……。
    それから忘れちゃいけないのがヘンリー。任務中に「僕が引きつけるよ」と申し出られたが私は一切信用しなかった。自分でやった方が早そうだから。そうしたらまさかの拉致られ姫ポジの男だった。流石のエヴィーさんも任務失敗に責任を感じて彼との関係を断ち、「どうなる2人の関係!」とワクワクしてしまったのも事実。その時点でアーカイブを見て、ヘンリーが肉体よりも頭脳派だという情報を得たのだが、まさかまさかのラストバトルで名誉挽回してくるなんて思わなかった。
    あと個人的に心に刺さったのはマクスウェル・ロスだな。散々殺しまくってきたブライターズのボスと協力なんて、利用されてるんじゃないの!?と相当疑ってしまったのだけど、子供の命を巡ってジェイコブと決別したってことは、それまでは本心から協力したかったってことだよね。疑って悪かったよ。  楽しくて刺激的なことのためにギャングやってるんだって話も完全に本当のことしか言ってなかったんだな。あまりに怪しすぎて一周回って怪しくないパターンだったか。特に死に際で、実はジェイコブに惚れてたって事実がわかったのが相当キた。たしかに自由と享楽を愛するジェイコブとは相性良さそう。でもジェイコブの方は、罪なき子供達の命をどうでもいいと思えるほど己の楽しみ一辺倒にはなれない人だから、譲れない一線を守るためには別れるしかなかった。というかジェイコブくんはちょっと目立ちたがりで派手好きで頭よりも体が先に動いちゃうタイプなだけで、他人のことがどうでもいいわけではないからね。好むものが同じなら上手くやれると思ってたのに思い通りにいかなくて、ロスの愛と憎しみの混ざり合った炎が燃え上がっちゃったわけね。愛って簡単に人を見境なくさせちゃうから怖い。でも愛憎で燃える劇場は最高にグッドだった。いいボーイズラブを見せてもらったわ……。
     しみじみと思うけど、ストーリーが良かった〜。最初にラスボスが提示されてて、関係者を暗殺するごとに近づいていくって基本スタイルも心が沸き立ったし、個々の暗殺ミッションも病院だったり銀行だったり劇場だったりバリエーション豊富で、侵入も普通に窓から入ったり変装したり協力者を得て堂々と突入したりで、緊張はするけどそれ以上に次は何が待ってるんだろうってワクワクした(馬車だけはもう勘弁だけど)。本当にやって良かった。オリジンズとかオデッセイとかも視野に入れようと思う。

 しかしこのゲームに慣れてしまうと他のをやったときに「ここ登れたらなあ……」とか考えてしまいそう。

 

追記 :無料DLCでできる事件捜査もミステリーオタクとしてめちゃくちゃ楽しかった!アサシン一切関係ないけど!鷹の目ってこういう使い方もできるんだなぁと感心してしまった。でもこっちはむしろ殺す側なのにどのツラ下げて犯人を警察に突き出してるんだろう……とは思った。むしろ今までの殺人量を考えたらこっちの方が遥かに凶悪犯……。

 

列車の隠れ家とかいう発想超好き

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男爵の装束を着ていったらNo.1アサシンのエヴィー様が「いい服ね」と褒めてくれた

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「外を見る」中にLスティックで四方から列車を見られるという素敵機能に最後の最後で気づいた

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樋野まつり『ヴァンパイア騎士』の話

 ヴァンパイア騎士……私の人生でトップクラスに大好きな漫画……。

 memories6巻を読んだ後また本編を全部読み直した。以前の私は優姫と零の関係に想いを馳せることに忙しかったのだが、最近は「枢はこのときどんな気持ちでいたんだろう」と考えるようになって、その視点で読むと新たに気づくことがいろいろあって楽しかった。

 一番印象的だったのは、「この漫画は絶対に"3人"をやり通す」という気概を感じたことだ。 少女漫画においてダブルヒーローモノは鉄板中の鉄板で、古来からさまざまな物語で展開されてきた。しかし現代の一般的な価値観として、恋愛関係というものは「最終的に特別な"2人"の間だけで完結しなければならない」というように浸透している。ダブルヒーローモノでも、ヒロインは話の途中で2人の間で揺れたあと必ずどちらかを選ばなければならない展開になるのが定石だ。しかし『ヴァンパイア騎士』はそうではない。本気で「どちらも大切」をやり切るつもりだと私は確信している。枢が封印され、話もできない状態になっても決して彼を"過去の人"にはしない。それは彼が死なない純血のヴァンパイアだから、という理由だけではないと思う。仮に枢が本当に死んでいたとしても、優姫の中の彼への思いが吹っ切れるなんてことはきっとありえない。正直を言うとmemories6巻の「君に悪役は似合わないよ」のシーンを見たとき、「か、勝てない……」と思ってしまった。零が優姫の心臓を鷲掴みにするという大胆な行動に出た直後にコレ。突如現れる枢の鮮明すぎるイメージ、もはや生き霊。絶対に離れないし離さないという気概が溢れ出て、圧倒的な存在感を放っていた。

 またそれに関連して、memories2巻に私の大好きなシーンがある。仲睦まじい英くんと頼ちゃんを見て零と優姫が「試しに繋いでみるか」と手を繋いでみるシーン。優姫の「こうするとあの人(枢)のこと思い出す……」という言葉に零も「俺もだ……」と返すところ。2人でいるはずなのに違う人のことを考えている。これはどこからどう見ても世間一般でいうラブラブな恋人とは程遠い状況ではある。幸せいっぱいどころか寂寥感さえ漂っている有様。しかし彼ら(もちろん枢を含め)にとってこれは決して間違った関係でも歪んだ関係でもないと私は思う。枢が優姫と零の間に割り込んでいるとか零が枢を失った優姫の心の隙間に取り入ってるとかでもなく、優姫が2人の気持ちを弄んでいるとかでもなく、"3人"はこれで完成しているのだ。優姫が零と向き合うことは枢を捨てるということには決してならない。枢を愛する優姫ごと愛すると言い切る零の愛の深さ・大きさも相当なものだが、そんな2人に「よかったね……」と微笑むことができる枢の愛に私は激しく心を打たれ、読むたびに泣いてしまう。

 枢は優姫を世界の何よりも大切に思っていて、理性の声が無ければ永遠に閉じ込めて自分だけのものにしたいほど深く強く求めているような描写が本編にもこれでもかと出てくる。そんな枢が最後に零と優姫に託した「2人には一緒にいてほしいんだ」という言葉。彼にとって憎むべき恋敵である零に世界で一番大切な優姫を任せるという決断。優姫に対して本当に深くて大きな愛情をもっていなければそんなことはできない。

 3人の関係において、2人の男がそれぞれ優姫に矢印を向けているだけで男たちの間には何もない(どころか学園編では互いに殺したいほど嫌い合っていたりした)ように見えるのだが、実際は零が枢の血を飲んだ頃以降の2人の間には絆と言えるようなものが存在しているところがミソだと私は思っている。「同じ人間を愛する者へのある種の共感」と表現するべきか。2人にとって、自身と同じくらい物理的に強く、同じくらい強い想いで優姫を大切にしてくれると確信できる相手などお互いしかいないのだ。だからこそ優姫の心の中に住んでいるのが自分だけではないことに苛立ちながらも、その事実ごと受け入れられるほどの度量がもてるのだと思う。

 樋野先生が「昔の3人絵と今の3人絵はテーマが変わってる」とおっしゃっていたが、昔は優姫が真ん中で零枢が左右だったのが、今は枢が真ん中にいる絵が多くなっている。それは優姫と枢の間の絆だけでなく、零と枢の間にもたしかに想いが存在するということを表してるのではないかと思う。優姫が愛ゆえに枢を丸ごと信じることができるのと同時に、零は枢と同類だからこそ優姫には見えない枢の部分が鏡を見るように理解できるのかもしれない。そんな3人を見ていると、大切な人は絶対に1人でなければいけないし、その中身は絶対に恋愛感情でなければいけないという感覚も、実は思い込みに過ぎないのかもしれないという気がしてくる。もちろん恋愛も構成要素の一つであるのは間違いないのだが、その一つだけで終われるようなものでもない。友達とか恋人とか名付けるのも結局は簡易的なラベリングに過ぎなくて、人と人との関係とはすべてが本当はもっと複雑でそれぞれ唯一のものなのではないか。ただ大切だという事実さえわかっていれば本当はそれで十分なのかもしれない。

 3人の関係を語るうえで欠かせないのはやはり「想いのすれ違い」だろう。"3人"として完成している今の彼らももちろん良いけれど、本編完結までの切ないすれ違いぶりがどうしようもなく良かった。枢から優姫への想い、零から優姫への想い、優姫から2人それぞれへの想いはどれもたしかに愛であるはずなのにずっと何かが噛み合わなかった。特に学園を出てから最終回少し前までの優姫と零の「建前がないと会うこともできない」というやるせなさ。心の中ではどうしようもなく求めているくせに「お前のことはもう何とも思っていない」と言い張る意地っ張りぶり。零がそんな風に言う理由にはヴァンパイアという存在を許せない気持ちももちろんあるが、何よりも枢の側が優姫にとって1番のあるべき場所だと信じているから出た台詞であると私は思った。ヴァンパイアは誰が誰を想っているのか飢えでバレバレだから一層切ない。たとえ周りには隠せても自分には一番隠せないという切なさ。

 ところで零と枢の愛も大概だが、優姫も澄ました顔して愛が激重なところが実に良いと思う。最終回付近の枢暴走の頃、枢が何度も「こう言えば優姫も僕に対する盲信から目覚めるだろう」と考えて自身を幻滅させるように仕向けてくるけれど、既に「最後に信じるのは枢」と覚悟完了して「何をされてもいい。裏切られてもいい」と言い切ってしまっている優姫。そんな程度で優姫の愛は揺らいだりしないということを全然わかっていない枢がニクい。枢様は1人で何でもできてしまうわりに自己評価は低いからこういう感じになってしまったんだろうな。私は優姫が「枢様になら何をされても構わない」とか「あの人に呑まれて一つになりたい」とか言う時の眼差しがめちゃくちゃ好きだ。枢様のことを本気で愛していることが痛いほどわかる。

 枢は枢で優姫は零の側にいた方が幸せだと思っているから、恋い焦がれてやっと手に入れたはずの優姫を手放そうという方向に急に思い切ってしまう。「僕の愛し方じゃ優姫は心から笑わないんだ」という台詞にそんなことないよ!と言いたいのに思い当たる節がありすぎる……。優姫は「枢と一緒に堕ちていきたい」と言っているのに枢はそれではダメだというところが2人の噛み合わなさ。枢の中にも未来永劫闇の中で2人寄り添って生きることに惹かれる自分がいるから、背負わせたくないと思いながらも優姫に自分の全部を明かして受け入れてもらいたいという気持ちもある。愛ゆえの矛盾とままならなさ。枢様のこういうところが私は本当に好きだ。

 零への恋に早々に決着をつけた愛さんの決断がどれほど潔く賢いものだったかよくわかる。拗らせたまま年月を重ねてしまった結果がコレよ!

 覚悟完了といえばmemoriesの零は、本編の眉間のしわが嘘みたいに穏やかな瞳をして優姫を見ることが多くなって、紡ぐ言葉も読んでるこっちが恥ずかしくなるほど素直になってしまっていて衝撃を受けた。「どんなことがあってももう二度と俺から別れを告げることはない」と決めたから迷いが消えたのか。本来は穏やかな場所を好む優しい人だということはわかっていたけれど、本編で辛いことばかりだった彼がこんな風に笑える日が来たという事実だけで涙が出る。本編での、痛みを堪えるような切なげな瞳も大大好きだけどやっぱり彼が幸せなら私は十分だ。『ヴァンパイア騎士』はでっかい愛の漫画……。何度読んでも大好きすぎて泣ける……。

 


・余談

①李土様と玖蘭家

  個人的に私がすごく好きなのが李土様。性格極悪だけどだからこそ好きというか、捻じ曲がったまま生きて死ぬ人間が好き。最後に見せた優しさのようなものだけ見て「実はいい人だった」とか死んでも言いたくない。たしかに始まりは綺麗だったかもとか奥底では純粋な思いだったかもとか想像することはできるが、何千年生きても理性を保とうとする純血種もいるわけだから、邪悪はどれだけ好意的に見ても邪悪だ。樹里や優姫を手に入れたからといってまともな愛し方をしてくれるわけがないし。

 あとあんなにワイルドなのに一人称が僕なところがすごく好き。

 ぶっちゃけ愛情の重さとねちっこさと巨大さでいえば枢とか悠も良い勝負だと思う。玖蘭家の男は明確に描かれていないだけで相当エグいことまで考えたことはありそうなくらい独占欲が尋常でなく強い人ばかりで、恋い焦がれてるときにみんな同じ目をするから怖い。一番怖いのは悠。傘を隠して「相合傘がしたかった」などという供述には本物の狂気を感じた。李土様が樹里樹里言ってるときの雰囲気、枢様も本気出したら絶対あんな感じになると思えてゾクゾクする。でも枢様の偉いところは、獰猛な欲望を飼いならして理性的でいようと常に心がけてるところ。そういうところが王の器で、血の強制力がなくてもみんなが枢様の支えになりたいと思う要因なのだと思う。

 

②絵の上手さ

 私が『ヴァンパイア騎士』で一番好きな要素はなんだかんだ言って絵かもしれない。髪とコート類のなびきに命賭けてるところがめちゃくちゃ魂に響く。あとまつげがみんなバサバサなところ。

 

③疑問点

    生まれてから死ぬまで3000年と少しの樹里の記憶が薄れるほど昔に、日本っぽいところで女子高校生やってたってことは今は何年なの?地下高速鉄道とか言ってるから超未来なの?その割には数千年後もクラシカルな学校と家と服だし携帯電話とか機械類も無さそうだしバイクが珍しいとかどういうこと?文明レベルはどうなってるの?そして黒主学園はどこの国なの?それ以前に他の国ってあるの?

 炉の火が落とされるときとはつまりすべてのヴァンパイアが死ぬか人間になるかしたってことなんだと思うけど、愛はこの先たった1人の純血種として途方も無い時を生きる羽目になるのではないのか?恋がいるとしても完全に純血でない者と純血の者とでは能力や寿命に大きな差があるのは明らかなはず。結局最後の玖蘭は枢と同じように枯れ果てるまで生きることになるのは変わらないのか?愛のそういう覚悟はmemoriesで今後描かれるのかどうかが気になる。

  樋野先生は個人的な感情を描写するのはめちゃくちゃ上手だけど、戦闘シーンがはっきり描かれないのは苦手だからなのか必要ないからあえて端折ってるのかどっちだろう。どちらにせよ政治とかのマクロな物事描写はわりとふわっとしてる気がする。テロ行為とか示唆されても戦闘の描写が少ないから肩透かしに思うことがある。私は大きなことより個人的なことにフォーカスしてくれたほうが好みだからいいのだけど。

 

追記:また改めて最初から読み直して、枢に対する理解が少し変わった。枢には「誰かのために尽くさなければ生きられない」という根本的な性質があって、しかしどれだけ尽くしても喪失しかもたらさない世界に絶望していた。そんな中で優姫の存在は「心から守り抜きたいと思える暖かな存在」という意味で、光そのものだった。だからこそ優姫の方がいくら「枢と共に堕ちたい」と言ってくれても、枢自身が「優姫を自分だけのものとして囲いたい」と狂おしいほど思っていたとしても、そのせいで優姫の暖かさが失われてしまうことだけは許せなかった。

 それと親金になるのが枢の当初からの目的だったとずっと思ってたんだけど違ったみたい。そうではなくて、優姫が樹里の封印でずっと目覚めの兆しを見せなければそのままにするつもりで、でも10年でその封印が切れてしまったから仕方なくそばに戻すことにして、安全のために李土と元老院を潰した。そして当初の予定では、優姫の安全が確保されたら自分の命を使ってもう一度人間にするつもりだった。でも優姫が「枢と生きてたい」と言ってくれたことでその決意が揺らいで一年も理想の暮らしを享受してしまい、そのうえ明かすつもりのなかった自分の正体まで明かしてしまった。そうこうしているうちに更が純血種の頂点に立つために他の純血種を殺し始めてしまい、彼女らに自制心を期待しても無駄だと悟り皆殺しを決意した。純血種は純血種を食らって力を得たがる生き物だから、自分が儀式で死んだ後の優姫を守るために、もともとやるつもりだったかはわからない。その方針が変わったのは、途中で優姫と零の妨害にあったのもあるが、一番はハンターの親金が消失してしまったことで、それは予定にはなかった。でも武器として残れば長期的には、道を外れたバンパイアを抹殺することにはなるし、純血種皆殺しよりは穏便な方法ということで親金になった。

クレア・ノース『ハリー・オーガスト、15回目の人生 』感想

 実はこれを読むのは2回目なのだけど、1回目は世界設定やら人物名やら時系列やらを追うのに必死だったうえにラスト付近の怒涛の展開に打ちのめされて放心するばかりだったので、今回すべての前提を理解したうえでもう1度読んだことでようやくしっかりとこの物語について理解できたような気がする。
 「もし死んだときが人生の終わりではなく、完全な記憶を保ったまま同じ人生をやり直すことができたらどうするか?」という命題は、様々な人々が思い描いたことのある夢かと思われるけど、この話ではそんな特殊能力を有する者(作中用語ではカーラチャクラ、またはウロボラン)が少なくとも紀元前3000年前後から組織立って存在していたという点が面白い。「死んだときの知識をそっくりそのままもった状態で生まれた年に帰ることができる」という特性を生かして、そのとき最も若い者が最も年老いたものに伝言を伝えることで、「未来から過去へ」メッセージを届けることができるという発想には唸らされた。
 ただ少し理解できなかったのは、何をもって「世界が終わった」と認定しているのかという点。それを決めているのが神でも大いなる意思でも何でもいいのだが、「早すぎた技術革新が引き起こした核戦争による環境汚染が世界の終焉を速めた」というところまではわかるとして、「すべて」が終わったとされて巻き戻る瞬間とはいつになるのか?何にせよ観測者がいなくなれば世界がその後どうなったかは知りようがないので、人間の認識が及ぶ範囲としては当然「最後の人間が死に絶えた瞬間」か「最後のカーラチャクラが死に絶えた瞬間」になるのではないかと一応私は仮定した。しかしこの話にとって最も重要なのは「世界が終わる」という事実とそれを「どうやって阻止するか」ということなので、そういった細かいことに頭を悩ませるよりもどんどん読み進めた方が利口だったなと今となっては思う。
 そんなややこしい設定を理解する大変さに加えて、主人公ハリー・オーガストによって語られる時系列が頻繁に飛んだり戻ったり唐突な回想が挟まれたりするために「いったい今は何回目の人生なんだ?」とページを戻って確認する大変さもあったので、1度目は読むのにものすごく時間がかかった。それでも投げ出さずに楽しく読み続けられたのは、やはり生まれ変わるたびにハリーの人生が大きく様変わりし、「次はどんな波乱に巻き込まれたり自らそこに飛び込んだりするんだろう!」とわくわくさせてくれる展開が常に待っていたからだと思う。ハリーは土地の管理人、大学教授、研究者、兵士、医師、僧侶、巨大犯罪組織のボスなどの実に多岐にわたる職業に就くが、彼がカーラチャクラの中でも更に特異なネモニック(一度覚えた知識を絶対に忘れない者)であるという点を考慮してもなお、その適応力の高さや忍耐力、ここぞというときの閃きには驚かされた。いくら何百年も生きているといっても、どんな国でもどんな職業でもそれなりにハッタリが効くというのはとてつもない才能な気がする。死を恐れないカーラチャクラが最も恐れるのが「精神の死」であることから、どれほどの歳月を生きようともその重みに耐えられる強靭な精神がなければ意味はないんだろうなと思った。

 ここからはこの物語最大の面白さと私が認識している、ヴィンセント・ランキスとハリーの関係について述べる。
 私がこの本を読み終えて強く感じたのは、「愛と憎しみと殺意は全く矛盾せずに同時に存在することができるのだな」ということ。ヴィンセントとハリーの関係はとても一言で表せるようなものではない。お互いがお互いの1番大切な存在になれたらよかったと心から願っているのに、それが決して果たされないこともまた心から理解している。2人はとてもよく似ていて、相手を愛している気持ちを失わないまま、目的のためにその相手を殺すことができる人たちだ。己の行為に心が引き裂かれそうになりながらでも、どんなに涙を流しながらでも彼らにはそれができる。そういう点ではやはり2人は世界で1番の「同類」だったと思う。
 2人の関係について語るために避けて通れないのが「量子ミラー」なのだが、「量子ミラー」がいったいどんなものなのかは正直に言って私にはよくわからなかった。宇宙が量子によって作られているのだから、逆に量子から宇宙の「すべて」を知ることができる、という理論のところまではおぼろげにわかったのだがそれ以上は無理だった。仮に事細かに説明されても絶対理解できないだろう。
 とにかくヴィンセントは宇宙のすべてを知る者、つまり神になりたかった。ハリーもその崇高な目的に一度は強烈に惹かれたことは事実。ヴィンセントとハリーを分かつものは、「自分が神の目を手に入れるためには他のどんな犠牲を払っても構わない」と思っていたかどうか、この一点のみだった。カーラチャクラは人生を何度もやり直せるとはいえ、「やり直し」ゆえに自分の生きた時代より過去や未来へは行けないので、たとえ地球環境を犠牲にしてでも技術を限界まで早送りしないと「ヴィンセント自身」が量子ミラーに辿り着くことはできないようだ。ハリーはそのために犠牲になる無数の人たちの人生のためにそれを阻止したわけだが、「永遠に同じことを繰り返すだけの世界で"生きる"などということが、"神"の前でいったいどれほどの意味があるというのか?」というヴィンセントの問いには私ですら少し「た、確かに……」と思わされてしまった。普通の人(作中用語ではリニア)である私ですら揺らぐのだから、繰り返す世界の虚しさを知るハリーならより実感をもって量子ミラーの魅力を理解できたのではないか。それでもハリーは「人としての営み」を捨てるべきではない、と決めてヴィンセントに勝利した。逆にヴィンセントは、天才であるがゆえに「ただの人としての営み」を続けることに我慢ができなかったのではないかと思う。
 結局のところ、お互いの正体をまったく知らないままでひたすら宇宙について白熱した議論を交わせていた頃の幸せな日々を2人は忘れることができなかったのだろう。自分と同レベルの頭脳をもち、性格的にもウマが合う人間とする討論は、お互いにとって至上の喜びだったに違いない。決定的な決別をするまで、その関係は非常にうまく行っていたのだが前述の通り、ハリーは神よりも人であることを選んだ。しかしヴィンセントは、ハリーが心の奥底に本心を隠して上辺だけの誓いをした瞬間に全て悟っていたというのがまたニクい。ハリーが嘘をついたことも、直後に取るであろう行動もすべてヴィンセントにはわかっていた。それほどまでに2人をつなぐ絆は、良い意味でも悪い意味でも取り返しのつかないほど深く結ばれていたということだろう。
 ハリーを拷問する際にヴィンセントはギリギリまでその手段を行使することをためらい、最後まで決して自ら手を下そうとはしなかったが、私はそこにこそヴィンセントの本質があると思っている。ためらうだけの友情、もしくは愛情をもつことができると同時に、必要ならば拷問をする決断ができる合理性も持ち合わせている。そして彼の中で最後に優先されるのは常に合理性の方であった。友達が可哀想だからと止めることだけは絶対にしないのがヴィンセントの在り方。そしてその事実は決して愛情の不在とイコールではない、ということが重要だと私は思う。拷問を決めても自ら実行することは気が引けた、というのがその証拠だ。
 この物語においてヴィンセントは最終的に敗北するが、彼にとって唯一の弱点と言っていいものがこの「ハリーへの情」だと思う。もっと言うならば「自分にとって最高の友人であってほしいハリー」への情というべきか?ハリーの記憶を消去した(と思っている)ヴィンセントは、自分からハリーに会えるように仕組み、彼をいついかなるときもそばに置くようになるのだが、初期に関しては記憶が本当に消えているかどうか確かめるためで間違いない。しかしハリーの記憶が完全に消えていると確信できたなら、万が一に備えて監視は付けておくにしろ常に自分のそばに置いておく必要はないと私は思う。研究にはもはや何の役にも立たないとハリー自身も証言しているのだから。ハリーはその理由を色々と推測していて、それらすべてが揺らめきながら渦巻いていると称していたけれど、私は量子ミラーの前でヴィンセントが言った「そばにいてくれ」がすべてだと思う。友が欲しかった。理解者が欲しかった。だから負けた。 
 ではハリーが勝ったのは友情を捨てたからか?と言いたくなるのだが、実はそうではない。何度も書いているが、彼ら2人にとって愛と殺意は同時に矛盾なく存在するものなのだ。問題は配分の違いだけ。ヴィンセントはそれまで常に最終的には合理性を選択する男だったが、ハリーの狂おしいほどの献身を受けてついに愛(もっといえば誰かにわかってほしいという想い)が合理性を上回った。ハリーもまたヴィンセントを愛していたことは間違いなかったが、それでも「するべき」ことを選んだ。それが勝敗を決めたすべてだろう。

有栖川有栖『乱鴉の島』感想(ほぼ文句しか言ってない)

 おい海老原以下信者の面々!ふざけやがって!クローン人間の人権は!?クローンクローン言いますけどね、それって遺伝情報が元と同じなだけで生まれてくるのは1人の人間なわけですよ。記憶を受け継ぐわけでもないし思い通りに操れる物言わぬ人形でもない、考えて感じることのできる人格をもった人間なんだけど!?それを何だお前らは分身だの生まれ変わりだの、1人の人生を生み出すことを何だと思ってやがる。生まれさせられてみたら勝手に見ず知らずの人の人生を投影されてる人間の気持ちを考えろよ。

 そのあまりにも身勝手で自己陶酔極まった傲慢な考えに腹が立って腹が立って、その後事件解決の余韻にまったく浸れなかった。同じ世代に生まれることでしか共有できないものがあることの寂しさとか、永遠から外れたものにしか愛は抱けないとか、命は一瞬だからいいとかの理屈はわかるけど誰かの人生を操作して利用することにあまりに無責任すぎるもんだから共感できない。何が「素晴らしい計画」だよ 。生まれさせる側の感傷なんて子供にはまったく関係ないっての。そのうえ拓海くんと鮎ちゃんを実験台としてくっつけようと画策してたとか……恐ろしい……他人はあんたらのおままごとのための道具じゃないわ……。その点は有栖が「DNAが同じでも生まれてきた2人は別の人格だから愛し合う保証はない」ってツッコんでくれてたからまだいいものの、その計画を有栖ですら「祈り」とか「愛の奇跡への興味」とか美しいもののように語ってたのはいただけなかった。私にはそんな綺麗なものじゃなくてグロテスクで薄ら寒いものにしか見えなかった。そもそも子供を親の分身と捉えたり親が叶えられなかったことを子供に押し付けようとするのが嫌いだ。他人を自分の代わりにするな。
 絶海の孤島のシチュエーションは大好きだし火アリが珍しく安全圏じゃなく容疑者枠として居心地の悪い思いをしてたことも新鮮で面白かったが、これほど登場人物に腹が立つ本はそうそうない。
 有栖川有栖の描く長編の犯人の動機は(今回は直接的な動機ではないが)、初め純粋だったものが陶酔の果てにぐずぐずに歪んでることが多いので「ええ〜〜……?」となることが多くて辟易してしまう。
 あとあれだけ何度もクローン説をばっさり否定されてなお引っ張られるから別のあっと驚く真相が残されてるのかと思いきや、結局クローンじゃねーか!