感想置き場

小説・ゲーム・稀に映画の感想置き場。ミステリーとBLとアサシンクリードが好き。

京極夏彦『百器徒然袋—雨』感想

 やっぱり榎木津礼二郎はサイコ〜!
 全体的に軽くてコミカルな仕上がりだったけどスピンオフだからというより榎木津を中心に据えたら自ずとこうなるって感じだったな。理屈より先に正解がわかるとかいうチートと、まどろっこしいことを嫌う性質によって生み出される破壊。もはや台風の擬人化かと思った。
 しかし本島くんの名前を最後の最後まで引っ張る意味はよくわからなかったな(赤城山くんとか読んでたから実際もご大層な名前なのかと思ったら、意外に普通だったので拍子抜け)。本島くんはうじうじしない関口くんって感じで、よく言えば読者が同調しやすく悪く言えば面白みがないって感じかな。私はフィクション人物に癖がないとかつまらない派だからそこまで好きではない。でも興味本位というか榎木津礼二郎の存在と行動が気になって仕方がないしあわよくば一味に入りたいというのは、まさに礼二郎主役スピンオフに大喜びしている私のような読者そのまんまの心境である。

以下キャラごとの感想

榎木津礼二郎
 礼二郎くんは相変わらず噛めば噛むほど味が出て知れば知るほどわからなくなる男だな。『百鬼夜行-陽-』で一人称やってるときとか過去話とかを読んで、「意外に常識的で地に足着いてる所あるよな…… さすがに生まれたときからあんな傍若無人でぶっ飛んだ価値観してるわけないか…… 榎木津も人間なのに私は神格化しすぎていたかもしれない。」と反省していたのだがそんなのまったくの杞憂だった気がしてきた。
 コイツ探偵始めてから躁病に拍車がかかったんじゃないか?
 「法律に反しているからではなく僕が気に入らないからやっつける。僕は神だから僕が気に入るものは善で気に入らないものは悪。」とか字面にすると凶悪すぎてすごい。冷静になると私刑の容認に他ならないんだけど神だから天罰になっちゃうんだよな……。そんな道理があるかと思うのだが""神""には謎の説得力だけは死ぬほどあるからつい飲まれちまう。

 本島くんが「僕ら周りの人間は、もしや榎木津のこの上なく馬鹿っぽい振る舞いにむしろ救われているのかもしれない。」と言っているが、それは私も何かにつけて思っていることである。この"美貌の帝王(原文ママ)"に礼儀正しい所作で常識的な対応をされ、にこりと微笑まれたりしたときには多くの人間は問答無用で平伏してしまうのでは……という気がしてならない。その気になれば人を籠絡させることなんて苦もなくできそうなんだよな。榎さんがその才能をまるで活用する気がない人で本当に良かった……。
 でも「お腹ぺこぺこのペコちゃんだ!」はない(爆笑)。何その語彙!?キッズかよ。違う意味で籠絡される人が出てきそうだから!
 ところでカマを侮蔑の意味で使いまくっている『鳴釜』は読んでいてあまり良い気分はしなかった(時代設定が戦後すぐだからそうなるよなとは思う)のだが、こと榎木津においては「僕はカマを差別はしないがカマは嫌いだ」という言葉と行動が正確に一致している珍しい例だった。実際、金ちゃんに対する礼節は他の人へのものと同じくらいにもっていたし、個人的に嫌いだと思うことを制限することはできない。個人的に関係を迫られて拒否する自由と差別する自由はまったく別のものだから。でももし相手が女だったら、恋愛対象にできない人に迫られたからといって結果女全部まで嫌いになるということはないのに……?と思わないでもない。

 というか益田くんのカマオロカってあだ名、私はてっきりカマドウマから取られてるのだと思っていたがオカマの方のカマかよ。もしや恋されてることに気づいてるのか?
 しかし親と自分は一切関係ないとか言いながら元華族の財閥令息という立場を利用して高級料亭に行くのはいいんだ……。けっこう立場を利用していろんな所に乗り込んでるけど……。まあ立場がなくても押しかけるだろうから法に則って穏便にお邪魔できるだけマシなのか……?榎さんが立場をひけらかしてるんじゃなくて相手が勝手に忖度してくるんだし。

・益田龍一
 好きだ……Love……愛おしい……。何でこんなに好きなのか自分でもよくわからないのだけどめちゃくちゃ好き。
 今回前髪が長いことをやたら何度も何度も書かれてるんだけど、伸ばしてる理由がオシャレとかじゃなくて「ひ弱そうに見えれば攻撃されるときに手加減してもらえるかもしれないから」なの打算的すぎて大好き。おチャラけているようで内心は計算尽くなところマジ策士。
 邪魅で買った鞭を愛用していて会話の途中で何の脈絡もなく取り出してくるのは何なの?コントなの?しかも若干サドに目覚めてるんじゃあないよ。家具をビシバシ叩きながら話してくる人、冷静になって考えると嫌すぎる。邪魅の「僕は適当にお茶を濁します」で何かが吹っ切れたか?かと思えば警察官時代の明晰さを発揮したり変なところで真面目だったりして読む側を飽きさせないよね。
 でも榎さん大好きなのは変わりないようで良かった。付き合いが長くなるほど憎まれ口も増えて意地の悪さを覗かせるようになったけど、それと愛は表裏一体というか、好きだからこそ認められたくて、でも榎木津は自由だから思い通りになってくれなくて、だからこそ好きなんだけどそれゆえに憎らしいというか複雑な心境なんだよ。

 和寅と「どっちか榎木津さんをより理解してるか」で張り合うの読んでるこっちが恥ずかしいんですが!?河原崎さんが榎さんに恋愛的な意味で惚れたんじゃないかって動揺したのだって自分にも少しくらい心当たりがあるからじゃあないの?と思う(ホモフォビアをもった男というのは、"真の男"から外れるようなことをしてしまう自分への嫌悪からゲイに攻撃的になるという例があるから)。

 別に益田くんに限らないが、ぐだぐだ言い訳なんかしないで「好ましいからそばで見てたい」って言えたら良いのにね。実際これは恋愛的な意味(だったら私個人としては嬉しいが)でも友情的意味でも単なる興味関心的意味でもなんでもいいんだよ。変なプライドのために欲しいもの逃すよりは正直な方が得だと私は思うけどね。そう上手くはいかないね。

    彼が榎さんに間近で見つめられてドキリとして固まってるシーン、私に有難すぎてお祈りした。私は恋に敗北する男が大好きだから絶対成就しない益×榎を推してる。

中禅寺秋彦
 秋彦……Love……。榎さんに振り回される中禅寺本当好き。この男を振り回せるのなんてこの世で榎木津くらいしかいなくない?
 2人の見ている方向が合っている内はいいけどこれで反発するようなことがあったらそれこそ神々の争い級の惨事になりそうで嫌だ……。中禅寺は過去に「あれと意見が合わないようなら僕の方が間違っているということだ」とまで言ってるから2人の方向性が食い違うなんてことはまずないだろうけど、喧嘩するところを見てみたいと思う欲深い自分もいる。
 憑き物落としするときの中禅寺はなるべく私情を挟まずにシステムでいることを心がけてる節があるけど、榎さんといるとき(正確には塗仏の後)はけっこう素の人格が出てる気がするな。というか榎さんが意識的半分無意識的半分でそうさせているのかな。本来の性格(と言っていいのかはわからないが)はけっこう悪戯好きだし実はいじめっ子メンタルなんじゃあないか?「人をからかって遊ぶのが楽しい」という気持ちと「合理的でありたい」という気持ちがぶつかり合っているというのが正しいかな。やろうと思えばかなりサディスティックなことも思いつくしそれなりに楽しんでしまえる才能はあるんだよ。しかし合理性を希求する気持ちの圧力(?)が人一倍大きいために自制心が働いて、あの滅多に動かないスタンスに落ち着いているというわけだな。

 しかし「さあて——これから果心居士が君達に愉しい呪いをかけてあげるよ」とか言っちゃってて「ノリノリじゃん!!」と思った。これほど""暗黒微笑""の言葉を当てはめるのがふさわしい状況と人物ある!?私だって中禅寺に呪いかけられてえ〜〜〜!「釜鳴りは由緒正しいうんぬんかんぬん」と語って人を掌の上で踊らせてるときもなんか楽しそうだし(白々しい持ち上げ演技は読んでて死ぬほど笑った)、関口くんが足痺れて悶えてるときに膝に手を置いて揺らすとか絶対楽しんでたねアレは。真性のサドじゃねーか。
 榎さんの作業着姿見て腹を抱えて大笑いしたり「桜田組の木場」に笑いを堪えられなかったり、宇宙が三回終わったようなとか形容される仏頂面のくせに意外と表情豊かな中禅寺が好きだよ。

 個人的には常信様がまた出てきてくれたのがめちゃめちゃ嬉しかった 。ファンなので。