感想置き場

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京極夏彦『百器徒然袋—風』感想

 こういう陰謀めいた話は真相判明するまでは居心地が悪すぎてあんまり好かないんだよな〜って比較的ローテンションで読んでたら、最後の最後で興奮しすぎて半狂乱になってしまった。

 毎回毎回大立ち回りしてもはや水戸黄門?(水戸黄門は戦わないが)。終始テンションが高くて躁病って疲れそうだな……と今更思った。

 スピンオフだからだけど関口くんの出番がさっぱりないのは寂しい(個人的に本島くんは好かんので)。

以下キャラごとの感想

榎木津礼二郎
 れ、礼二郎〜〜〜〜〜〜〜〜!?そ、それはズルくなぁい!?そんな、そんなのもうツンデレとかいうレベルじゃねえぞ!?あれだけバカだオロカだ不細工だと罵詈雑言投げかけ、「貴様が死のうが生きようが逮捕されようがどうでもいいわい」などと言われ、傍若無人荒唐無稽な展開を繰り広げられ、こちらもようやく「この人に見返りを期待してはいけない……」と受け入れかけたところに急に優しさを見せてくるのは卑怯!泣いてしまう!ナキヤマになるしかねえ!しかもそういうときだけまともに名前を呼ぶ!身体が勝手に礼二郎様に平伏してしまう……。ツンデレ王。神。優勝。泣いた……感激というかびっくりして泣いた……未知の体験をありがとう……。
 今回榎木津と中禅寺の冷たさが尋常じゃないように感じて、読んでる私も益田くん同様かなり自信を無くしていたというか、「この人たちに優しさを望んでいるのも私の勝手な願望に過ぎない、ただの押し付けなのかな……」ってなっていたんですが、もう最後のページでそんな気持ちすべてぶっ飛んでしまった。我ながら現金である。

 別の巻の感想でも書いたけど、榎さんは自分の周りにいる人が大切じゃないわけじゃないんだよたぶん。大切にする方法が常軌を逸しているだけで……。
 「榎木津に関わると馬鹿になる」ってもう何遍も言われてるし、彼が何にも頓着しないから無傷でいられても私のようなのはそんな風にはなれなくて、逮捕をちらつかされるだけですくみ上ってしまうようなちっぽけな自信しかもっていないのもわかってるし、彼のあまりの規格外さに比べたら自分がどうしようもなく愚かだと思えてしまう悔しさも全部わかってる。それでも見ていたいし関わりたいと思ってしまうんだね〜。みんな難儀なドMだよ。
 それはそれとしてお父さんに対して非常識と憤慨したり困惑してる榎さん見るのがなぜかめちゃくちゃ好き。ヒエラルキー最上位はお父さんなのでは……。というかお父さんも超絶美形なのかと思ったらそうでもないっぽいな。黒髪だし。まあ品のいい老紳士だしイケ爺ではあるのか。美貌の帝王は何?突然変異?
 私は事件の筋とかこの話限りのゲストとかには大して関心がもてないタチであるのだけど、『雲外鏡』での神無月はお粗末だったとはいえ、榎さんの能力をここまで正確に理解したうえで利用しようとするキャラクターは未だかつていなかったのでなかなか面白かった。

 榎さんの体質って能動的に見てるわけではないからどの記憶が再現されるかは選べないんだよな。場所なり連想させるものなりを用意すればある程度誘導はできるのだろうけど、見る方も見られる方も再生される映像を指定できないなら、24時間目をつぶって過ごすとかしない限り完全な計画にはならないだろうね。

 あの目に見つめられて平然としてられる人は余程の傑物だわ。証拠能力は一切ないけど「正しい」と知っている人にとっては指針になるからなあ。存在感のない人が言っても事実無根の中傷って思われるだろうけどなにせ神だから……。
 『面霊気』で人はみな面を被って暮らしていると語られるけど、それは時と場合や相手によって使い分けているのだし、自分が感じている"自分"と他人に見える"自分"もまた違っているという。自分ですら本当の自分なんてものはわかっていなくて面こそが自分そのものだと思っている場合もある。面は紛れもなく自分の一部であるのだけど一つの面だけがその人の全てではない。

 榎さんは「面なんて被らずに素でいればいい」と言うし実際神として振る舞うし、私たちもそう認識してしまうしそうあってほしいと期待もするのだけど、やっぱり榎さんも面を被っているんだってことに驚く。榎さんは神でもあるし、やっぱり人間でもあって、そのどちらも本当だから過剰に神格化したり逆に自分と同じく"当たり前"な存在だと矮小化するのも違うってことなんだろうな。
 不確かで多様な世界を無理矢理カテゴリ分けして整頓されているように見せて安心しているのが私たちだけど、世界は私が思っているよりずっと広くて複雑なのだと知る瞬間は恐ろしくもあるがやっぱり面白い。
 そして榎木津礼二郎は最高。

中禅寺秋彦
 コイツもコイツで今回くっそ冷たくてブリザード!?って感じだったけどやっぱ殺人や殺人未遂が起こってるか否かってのが重要なのかなあ。
 「警察は無能じゃないんだから無実なら堂々としていれば大丈夫でしょう」というのが彼の持論っぽいけど、実際誤認逮捕はされてるじゃん!しかも現代日本(現代ではないが)では誤認だって一度逮捕されりゃ社会が許しても世間が許さんとかいって差別されたり中傷されたりして人生立ち行かなくなったりするわけですよ。逮捕ぐらいはセーフと思ってそうなところが中禅寺の怖いところだよな〜。
 まあ益田くんは中禅寺からしたら守る対象ってほどではないんだろうな。関口くんのことはもはや自分の一部レベルに面倒見る腹づもりでいるような気がするし、敦子も兄妹だからということで他よりは熱心に守るかもしれないが、冷静に考えると益田くんや本島くんは本来中禅寺の管轄外と言っていいんだよな。旧友じゃないし、彼らは好き好んで自分から厄介事に飛び込むドMだからね。

 中禅寺は無敵に見えるからつい頼りたくなっちゃうんだけど、彼が「諦めろ」って言うときは羽田や堂島相手みたいに本当に勝ち筋が見えないときなんだな~。今回の『面霊気』では元子爵という綻びが見つかったからよかったけど、それだって元子爵が協力してくれなきゃ"おじゃん"だったし、というかなんでお父さんが協力してくれたかが一番謎だし。薄情もなにも事実勝てないか戦うだけ悲劇が増えるかなんだから、むしろ変に期待させずに事実を包み隠さず伝えてくれるのは親切ですらあるんだろう。でもそんな風に突き放されたらやっぱり悲しくなっちゃうから凡人はナキヤマになるしかないのである。
 ところで中禅寺が榎木津に"視"られるのを反射的に避けたシーンがあったの、「中禅寺も見られたくないことがあるんだなあ」と思ってしまった(私は彼を何だと思っているんだ)。

・益田龍一
 益田くんは巻を追うごとにどんどん可哀想になっていって申し訳ないけどめちゃくちゃかわいい……。最後の方とか終始泣きっぱなしだっのがかわいいね♡
 前回優秀な捜査力を発揮して、読んでいるこちらを「おっ!」と思わせたのに今回尾行も聞き込みも下手くそで「ウソォ!?」ってなった。そんな「いかにも怪しい人でござい」な風貌で挙動不審だったらそりゃ怪しいわ。しかも応対してる間に鞭盗まれるか普通!?第一初対面のお客相手の会話中に鞭を振り回すな!(爆笑)警察辞めてから明らかにおかしくなってるでしょ!

    探偵だとバレちゃいけないって言うけどそんな露骨に怪しまれるくらいなら探偵って言っちゃった方がまだマシな気がする。まあ私は探偵エアプだし調査結果は正確なんだったらいいのか……。
 榎さんはやりたくもないことを嫌々やっている人間を見るのが嫌みたいだけど、益田くんなんかは普段のお調子者スタイルも"仮面"だしコソコソ嗅ぎ回って怪しまれたり疑われたりする職業スタイルも"仮面"だし二重に駄目なんじゃあ……?でも邪魅では「身の丈にあった役をやればいい」とも言われているしどうすればいいんだ……?たぶんだけど「自分の納得できる仮面くらい自分で選んで、選んだのだったら卑屈になったり泣いたりしないで開き直ってろ」ってことか?そうだとしたら難しいこと言うなあ。
 しかしまあ、「僕は尽くしてきたじゃないですか」とか「同じ薔薇十字団員じゃないですか」とか哀れっぽく仲間を求めている感じがめちゃくちゃかわいい……。「きゅう」なんて鳴き声まで発しちゃってもう完全に捨てられた犬!そして自分の身を守るためなら守秘義務なんてドブに捨ててやるという卑怯根性!Love……。

 あれだけ冷遇されてもまだ榎さんに自分の価値基準内の"情"を求めてるの、よく懲りないなと思うが懲りないからこそ下僕なんてものがやっていられるのだろう。