感想置き場

BLとアサシンクリードが好き

ホン・トク『狐艶伝』感想

 このブログのヘッダーに「BLが好き」と書いてある割に商業BLについて書くのは初か?商業BLは読むだけで満足してしまって、感想をまとめようという気持ちがなかなか起こらなかったのだけど、今回はこの衝撃を自分の中で整理しておきたかった。

 墨香銅臭先生の『魔道祖師』が個人的に大当たりで、同作者の『天官賜福』も今日本語訳が出ている分までは読んだらそれもまた素晴らしかったので、もう中華BLに骨を埋めようかなと最近は思い始めていた。それで何か良いのがないかなと探していたらこの『狐艶伝』の表紙のものすごく上手い絵が目に留まって、アマゾンレビューを見たら「とにかく雄っぱいがすごい」「雄っぱいのデカい父親が出てきてこんなのもう乳上やんと思ったら本当に言われてた」等の文言が出てきて即購入を決めた。普段の記事でこういう話はあんまりしないし、我ながら「衝撃」とか言って深い話がしたいのかと思いきや結局エロ目的やんという感じなんだけど、個人的に令和のBLは男の雄っぱいに本気出してなんぼと思っているので、もうしばらくは雄っぱいに本気の作家の本しか買いたくない。絵が綺麗なだけだったら買わなかった。絵がものすごく綺麗な作品って確かに絵は上手いんだけど、コマの中の動きが完全に止まっていたり、人物ばかりに力が入って背景が真っ白だったり、単純にストーリーに興味が惹かれなかったりして、漫画としての上手さで考えたらそんなにでもないなと思うことがたまにある。ただこの漫画はその点でもしっかりしていて、どんどん続きが読みたくなった。

 そして肝心の(?)雄っぱいの話をするのだけど、ま~~すごかった。想像の1.5倍くらいすごかった。その「乳上」というのが表紙に描かれているメインカプとは少し離れた脇役のキャラのお父さんなのだけど、とにかく登場シーンから雄っぱいがすごい。なんだその服は!?ソシャゲの女かよ!?いや女はある程度隠さなきゃいけないからそんなすべてが丸出しの服は着ねーわ!ってくらいもうそこにしか目が行かない。それを読者が勝手に思っているわけではなくて、作者が描いている画角がもう、お父さんの雄っぱいが前面に出てその後ろに発言している人物の顔が描かれているという感じで、しかもそんなコマが一つや二つじゃない。作者が完全にこの人をエロ要因扱いしている。やべーよ令和。進みすぎだろ。しかもなんとそれだけでは飽き足らず、そのお父さんは実子(成人男性)に「甘えさせる」という名目でエロいことをさせている。やべーよ令和。巻末の相関図にその息子からお父さんに向かって「甘える」とかいう矢印が出てるんだけど、それは「甘える」とかいう次元じゃねーだろ!定義が壊れる!しかも更にやべーのが、そのお父さんの子供は一人ではなくてまだ兄がいて、その兄が二人の情事を目撃してしまうのだけど、その時抱いた感情が「敗北感」だからね。敗北感!?そこで感じるのは敗北感なのか!?普通はドン引きするところだろ!?いやーさすがBL、常識をぶち抜いてくる。どう考えても非常識なことでもあたかも常識かのように堂々と展開してくるその胆力。これだからBLはやめられない。その兄自体もまた面白くて、弟に父上を独占されているという思いから従者に父親そっくりの者を選んでしまったりとか、もう複雑で最高。しかも従者側もそのことをわかっていて彼に命を捧げている。この本、好きなタイプの男しか出てこない。

 中華BLの良い所は登場人物の多さとそこから生まれる多様な人間関係だな。登場人物が多いからこそキャラ分けのためにいろいろな性格や境遇の人間が出てくるし、それらの人々の感情が複雑に絡み合うのが面白い。『魔道祖師』もそこが素晴らしかった。あとはやっぱり知らない文化を知れることの楽しさ。天界と人間界と魔界の設定は向こうではお約束なのか?仙人やら修行やら、神から人間に生まれ変わるやらの設定は初見だったら難しかったと思うが、『魔道祖師』で散々慣らしておいたおかげで難なく理解できてよかった。

 最初に乳上の話をしてしまったのでメインカプの話もしておく。ここは割とよくある、男と女の良いとこ取りのような、美人で世話焼きの年上受けと、彼に拾われて恩義を感じている献身系年下攻めなのだけど、面白いのは受け(名前は高春)には攻め(斐進)の他に九百年前から愛し続けている男(シュイ)がいるところ。シュイはその九百年前に天界の神によって封印されたのだけど、高春は彼の復活を待ち続けているらしい。いや~好きだぜそういうの。今はもういない男を何百年も健気に愛し続けるとかそういうの。でもそんな男がいる割に斐進くんのこともまんざらでもなさそうで、コイツはどういうつもりなんだ?と気になる。単にシュイに対する当てつけに利用していると言い切るには斐進くんに対する表情が優しすぎるし。

 そして斐進の方にも面白いというか気になるところがある。高春はなんやかんやで人間界に落とされることになって、その時に多すぎる霊力を分割して送られた、つまり二人に分かれた状態(兄弟)で人間に生まれ変わったのだけど、その高春を追って斐進も人間界に降り立つことになる。そうなると人間界に存在する高春の魂を持つ者は二人いるわけで、つまり斐進は兄弟丼をすることになるわけだ。いいんだ、BLで兄弟丼って……。いやなんか、BL好きってロマンチストが多いから運命の存在とか唯一無二とか好きじゃん?真の愛によって救われるみたいな……。そういうのって一人じゃないといけないのかなと勝手に思っていた……。私も常識に囚われていたということか。いや同じ魂だから一人といえば一人なのだけど、弟側の人格が元の高春と違いすぎて普通に見てたら他人に見えるから「そういうの許されるんだ!?」とびっくりした。

 まだ一巻なのでこの先どうなるのかは全く未知数なのだけど非常に続きが楽しみ。

 

『SUPERNATURAL』Season13~15 感想

-Season13-

 一話二話が文句なしに面白い。見たいもの全部見せてくれた。ジャック周りも面白いけど、特にミカエルとルシファーの邂逅と格闘があるのが最高。この光景を見られただけでも見た価値あった。
 ジャックを導こうとする今のサムが全シーズンで一番好きかもしれない。人を救うために奔走しながらもずっとどこかで自分を汚れた存在と感じていたという経験から来た、サムというキャラクターの集大成という感じがする。今までもサムは「真の怪物になるかどうかは自分の意志で選べる」と自分のことも他人のことも信じようとしてきて、時には成功もしたけど失敗の方が多かったから、今度こそその願いが実を結んでほしい。実際サムは誰かを導くことに向いてると思う。頭は良いし、礼儀正しいし、相手に寄り添う説得ができるし、忍耐強いし(これはディーンが絡むとたまに無くなるけど)。
 サムとディーンがジャックの教育方針で揉めるの両親かな?おまけに「最後に二人で(狩りに)出かけたのはいつ?」って両親かな?
 前シーズンのつまらなさが嘘のようにめちゃくちゃ面白い。ジャックの「人を傷つけても何も感じない僕は怪物かも」に「何者でもいい。何をするかが大事」って回答が来るのは痺れた。いやでも「何も感じない」のは問題かもしれない。内心では思っていないのに「善い人間になれ」という指示に従っているだけだとすると……。
 虚無に「安らかに眠れ。自分を救え」と言われて「私はもう救われてる」って返すキャス最高にかっこよかった。それがウィンチェスターになのかジャックの存在になのかはわからないけど。
 カスティエルがジャックという最強のカードを手に入れたおかげで、あのルシファーに対して言葉責めで完全な勝利を収める日が来るなんて夢にも思わなかった。
 ガブリエルが再登場してなぜだかわからないけどめちゃくちゃ嬉しい。でもそうなるとS5ではルシファーと生身での命のやり取りをしないで、騙くらかす方を選んだということになるからちょっと複雑かもしれない。
 ルシファーの方も子供には好かれたいという気持ちがあることに驚き。かつての自分は父親に認められたくて頑張ったけど結局上手く行かなくて、今度は自分が父親になっても神と同じような振る舞いしかできないかもしれない可能性に怯えるような心があるというのは意外だった。ジャックにとっては母の遺言とカスティエルへの信頼が勝って、ルシファーはいらないと思っているところが皮肉というか因果というかで興味深い。
 ルシファー、天使を増やせるというのも翼を戻せるというのも嘘で、新しい神を気取るかと思えば具体案は無くてふんぞり返るだけって正直メタトロンといい勝負だぞ。彼が女性との関係で真心に目覚める展開になったら残念過ぎて推せなくなると思って怯えてた(一応恩寵がほとんど底を尽いたことによって生まれた孤独感があったからみたいだけど)。でもアナエルの方は最初、夫や息子が好きすぎて何でも許してしまう系の女性に見えたけど、ルシファーのクソガキっぷりにハッキリ意見を言えたり天界の修復の方を真面目に憂慮していたりして意外なほどまともで、侮ってしまったことが申し訳なかった。しかもその後、他の天使にも見限られたのかルシファーの方が飽きたのか不明だけど彼が新しい神になることもやめてただの飲んだくれになってたから、少なくとも恋愛堕ちが無くなったという意味では助かった……のかな?
 ウィンチェスターのためなら命張れるキャスがやけにあっさりサムの命を諦めるなと思ったら、脚本的にルシファーに生き返させられるという展開がやりたかったからか。ルシファーとしては息子に恩を売って良い印象を与えるためにやったわけね。カスティエルのスペックって脚本の都合にかなり左右されてる気がする。S6でイヴとダイナーで話した時は、キャス一人の光で店内のスターシップを全滅させてたのに、今回はそこに大天使を戦力に加えておきながらヴァンパイアの群れ程度にこの体たらく……。
 ロウィーナがサムディンキャスのことを「三人の父」とか言ってたけど全員父なんだ。多いな。兄弟は年齢的に兄かと思ってた。そこからさらに実の父までいるのは多すぎる。
 ルシファーが檻に入った後に発生した悪事がルシファーのせいではないのは一理ある(ルシファーが生み出した悪魔のせいなのは何割かあるはずだけど)し、神が人間を最優先してルシファーの言い分は一切聞かなかったのも事実だけど、ジャックにはそこら辺じゃなくてアポカリプスとかサムを腹いせに拷問したこととかを言った方がいいと思う。しかしルシファーの言葉だけを聞いてるとルシファーは悪くないみたいな印象を抱きそうになって怖い。物は言い様。
 しかしケリーもみんなも100%善意で言ってるんだけどジャックへの「お前が世界を良い方向に導け」ってやっぱ重すぎるよ期待が。「どう生きるかは選べる」って言っても生まれた時から「善になれ」って言われ続けてるからそうしなきゃいけないのかなと思うし、困難なのがわかっててその形に産み落としたのは誰よって話だし。生後半年でそんなことを考えなきゃいけないのは重過ぎるって。
 あのルシファーが泣いたシーンには心底びっくりした。カスティエルですらまだ泣いたことはないのに!?ガブリエルの癌呼ばわりがそんなに効いた!? 前シーズンの感想に「ルシファーは崇拝されてるだろ」と書いたけど、ガブリエルの言う通り崇拝と愛は違うか。でもガブリエル、人間を言い表すのに「純粋で美しい」しか言わないのは夢見すぎじゃないか。悪意も含めて人間だから、別に何も無いところからルシファーが植え付けたわけじゃないんだし。それともこの世界観ではそうなのか?
 ガブリエルとミカエルの戦いまで見られるなんて……ありがとう……。本当に見たいもの全部見せてくれた。「今までずっと逃げてきたけどもう逃げない」ってドベタだけどやっぱり良い。
 まさかのミカエルディーンまで見せてくれて超びっくり。実は見てみたかったんだよ!でも飛びながら戦う姿はダサすぎるから金輪際やめてくれないかな。これじゃ翼じゃなくてワイヤーで釣ってる飛び方だし……。空中でジタバタしてるだけでカッコよさの欠片もない。あとかめはめ波とかも……。
 ルシファーついに退場か……長かったような短かったような……。地球はミカエルにあげてしまって自分は息子と宇宙へ逃げる気だったとは……。過去を捨ててやり直すって絶対それ、ルシファーの人格が何も変わってないからまた同じように癇癪を起して終わる未来しか見えない。しかし力が欲しいだけなら恩寵を抜き取るという手段があったのにもかかわらず、最後まで「息子と二人で」に拘ってたし、最後なんてジャックに拒絶されて半泣きだったから、結局は寂しかったんだろうなあとは思った。親との関係が悪かった人が自分の子供を持って「今度こそ違う形に」と期待することは現実でも珍しくないけど、問題はそこじゃないんだよ。「子供ならわかってくれるかも・一緒にいてくれるかも」という期待そのものが命取り。ルシファーも結局は「息子に愛される父」になると同時に、息子にかつての自分を投影して「正しく父を愛する息子」となって過去の自分を癒したかったんだろうけどね。でも自分で宇宙を創り直すって出した例が火を吹く竜とか喋るロボットとかだった辺り発想がガキだわ貧困だわで、これは神の足元にも及ばないわ。
 このシーズンでビジュアル的に見たかったものは全部見られたけど、心理描写の面では正直物足りないな。ミカエルとルシファーとガブリエルの間の愛憎をもっと見たかった。ミカエルは自分の世界のルシファー、つまり自ら愛して育てた末に裏切られた弟を殺した時どんな気持ちがしたのか教えてほしかったし、S5でルシファーがガブリエルと戦った時に「俺にこんなことさせるな」と悲しそうだったところがすごく好きだったから、そういう葛藤や矛盾をもう少し見たかった。ただガブリエルがルシファーのことを癌呼ばわりして「もう遅すぎるんだよ」と徹底して辛辣だったところは悲しいけど、誕生から百億年だか数十億年だかが経っていて、ルシファーがアポカリプス後でも一切反省せずこの様だから……億単位まで行くと規模が大きすぎて、ここ数年の出来事で変わったとか言われても説得力が無いのはわかる。たぶん天界も地獄も人間も思う通りに支配できないことがわかった後のこの「手遅れ」呼ばわりがトドメになって、ルシファーは宇宙に行くことを決めたんだろうな。

-Season14-

 日本語字幕で、キャスが恩寵を失っていた時の「何も無い状態」をディーンなら「オマケ無しの」と言うって話めちゃくちゃ良い。特別な能力の方をオマケ呼ばわりするところがマジでディーン。 「君には俺の気持ちはわからない」って言うニックにキャスが「いやわかる」って言うから何かと思えば「自分も乗っ取ったんだ」って話をしだして、いや何でそれで行けると思った?人生を奪われた話をしてるのに自分が奪った側ですって暴露してどうする?共感で攻めるの下手か?そりゃルシファーくんも「あんたもあいつと同類ってことだな」ってなるよ!マジで何でそれで行けると思った?
 キャスとの会話で向こうのミカエルが心情を話してくれたけど、向こうのミカエルはもう良い息子でいるのはやめたのか?望みは普通に「人間のいない世界」?それは天使の発想してはかなり普通というか、最終的にルシファーと同じところに辿り着いてるけど……。言われてみればミカエルにとって大事なのは父の側に立つということだけで、「人間を愛せ」という命令は別に守ってなかったわ。そしてアポカリプスが終わったらもう目的を見失ってしまった?結局良い息子になったところで得られるものは何も無かったという……。
 ルシファーの役目は終わってもまだニックとしてのシナリオがあるのは嬉しい。単純にマークの見た目が好きだから。自分の身体で行われた罪の数々に慄いて泣いてるところがルシファーとの明確な違いを感じられて良い。しかもまだルシファーだった頃の癖が残っていて、殺しに対する抵抗が無くなっているみたいな描写があるし。今後の展開が楽しみ。
 ジャックからの「もし助けられなかったら世界とディーンのどっちを取る?」みたいな問答がまた始まったけど完全に「いつもの」だな。昔ならともかく今のサムとキャスは……決断までにも後にも死ぬほど葛藤するだろうけど……やっぱりディーンかな。でもダークネスへの魂爆弾の時は受け入れたんだっけ?じゃあもうわからないわ!結局「どちらも助かる未来」はうやむやなままだな。
 ミカエルのやりたいことが「自分が神に追いついて殺すこと」だったのは、もはや行動原理が癇癪だったルシファーよりは高次元だった。「最初は自分が神よりも良い世界を作って見せつけようと考えた」と言ってたけど、メタトロンに始まってみんな通る道だなあ……。そして自分では神以上の創造性は発揮できないし、そんなことでは神の気を引くこともできないとわかって同じように絶望する。
 ディーンのトラウマに比べて良い記憶が少ない!しかもストリップバーと西部劇ごっことパイとかいうあんまりコアじゃない所なの悲しい!もうちょい何かあれよ!でもたぶんそうなる理由は、ハンターに「完全な勝利」がほとんど訪れないせいなのは大前提として、さらにディーンにとっての一番の幸せが「穏やかな時間」だから、そういう何でもない日は本編ではあまり映さないせいもあると思う。私はS5で言ってた「兄弟で星空を眺めながら無言で何時間も過ごした」って話がすごく好きなんだけど、それを楽しめるのは2人が根本的に穏やかな時間を愛する性格だからだと思う。ディーンの普段の言動はチンピラかクソガキの要素がほとんどだけど、奥深くではそういう繊細さとか愛情深さとか優しさとかをもっているのが最大の魅力。
 ミカエルがディーンのキャスに対する恩に「地獄から救ってくれた」の方を挙げてたけどそっちじゃないと思う。だってそれもアポカリプスの計画の内だし。それを言うならS4ラストの天界を捨ててディーンを選んでくれたことの方だろう。どう考えても不利や非合理な状況なのに、それでも自分と共に来てくれたという事実があるからこうなってるんだと思う。
 ジャックを連れて病院に三人で押しかけて、三人揃って看護師に追い出されてうろうろしてる絵面が最高に良かった。今までキャスはともかくサムディーンが父親って実感があんまり無かったけど、この光景を見たら確かに「父親が三人」だと思えた。
 ニック、殺人の快感に目覚めちゃってるだけでもやべーのに、関係ない人でも見ただけで殺したい欲求が膨れ上がるとか完全にイッちゃってるじゃん!?一人だけ世界観が普通の人間の普通の殺人鬼が出る別のドラマみたいになってる。ルシファーのせいにするとか、家族の死の真相を隠そうとする者への憎しみが暴走したとかいう擁護の余地も自ら無くしてるし。確かにこれまでの魂を無くした人たちは「その方が合理的だから」殺人を厭わなかっただけで、快感を覚えてはいなかったかもしれない。思えば初めてルシファーが憑依したときも引き金は共感だったから、もともと2人の精神性は近い所にあったということなのか?もちろん今は憑依の影響でニックの魂が壊れたせいなのは前提として……。良心との葛藤で苦しむよりも、いっそ何もかも委ねて感じなくなりたいというニックの気持ちはわからなくもない。でもこれで前シーズンまで地に落ちかけてたルシファーの威厳一気に取り戻したわ。わざわざ自分から求めなくても向こうから勝手に求められるのが真のカリスマってものよ。ルシファーくんの出番は終わったと思ってたけど、また出てきてくれそうで実際めちゃくちゃ嬉しい。
 ジェンセン・アクレスの演技力ほんとすっごい。表情だけで全部伝わる。サムの後ろを通り過ぎるかと思わせて、やっぱり愛しさが溢れて寄り添うようなあのハグが良すぎて何回も巻き戻してしまった。
 あれだけニックが真相真相ってこだわった割には素直にルシファーのせいで予想通りだった。しかも実行犯のアブラクサスもあっさり殺せてしまうし。でも憑依する作戦のためにニックの家族を自分で殺したということは、あの時のルシファーの一連の言葉も演技だったってことになってしまうから微妙だな……。いや「理不尽に抗う」という部分は変わってないから同じことか?でもな~神への問いかけという点が重要だと思うんだよな~。私としては、自身と似た境遇の者のもつ「理不尽な世界を問い正す痛切な怒り」へのルシファーの共感は本物であってほしい(それが結局は自己愛から来るものでも)。
 ディーン「お前といると決心が鈍る」ですって……。サムのことをどれだけ愛してるのかがこの言葉だけで痛いほど伝わってくる。少ない言葉や動作に万感の思いを乗せるのが上手すぎる。
 ミカエルを自分ごと閉じ込めるためにディーンが死に際の告解みたいなことばかりいうのがすごく辛い。でもあんたが良い兄じゃなかったら逆に誰が良い兄なんだよ!というか「俺が家を飛び出したんじゃなくて親父が追い出した時があった」!?普通に虐待じゃないか!これ以上株下げんな親父!
 ザカリア出るの知らなかったから本当にびっくりした!異世界編では同じ役名だけど別の人が出てて、あの役者さんが好きだったから残念に思ってたのに今度は本人で超嬉しい!私は親父に興味無いけど(S2から瘦せすぎて言われないと誰だかわかんなかったし、サムが出て行って間もなくならもっと性格尖ってるだろと思うし)、記念すべき300話でディーンとサムが幸せそうでよかったねと思ってたぐらいだったのに、嬉しすぎるサプライズ。出てた時間は少なかったけど本当に助かる……ありがとう……。
 しかし「何でも欲しいものを与えてくれる真珠」なのにディーンが心から望むのは今も昔も「家族が揃って幸せでいること」なのが最高に推せるところ。しかも親父の「出来ればお前には家族を持ち普通に生きてほしかった」にディーンが「家族ならいる」って返すのめちゃくちゃいい~。「普通の家族」にこだわった頃もあったけど、たとえ普通じゃなくてもディーンが自分で選んだ道で、守ってきた家族が今ここにいてくれることが何よりも大事だから、何も悪いことなんてない。ディーン・ウィンチェスターってやっぱり最高。
 キャスと虚無の取引で、単純な「私を代わりに連れていけ」だったら話の流れ的に回避されそうな確率は高いけど、「いつかお前が心から幸せになった時」とか言われると急激に真実っぽくなる。そういうシナリオが具体的に用意されてるんだろうなと。キャスがS15で死ぬことは知ってるけど、これが収束してそうなるのかな。存続すること自体が理由になってダラダラ生き続けるよりもどうやって死ぬかの方が大事だから話の内容次第だけど、何であっても見たらめちゃくちゃ泣くんだろうなあ……。でも心底幸せな状態から虚無に突き落とされる絶望を狙ってるんだろうけど、その幸せを最後の瞬間にして死ねるならある意味幸せなのではないか?
 キャスはもうとっくにウィンチェスターたちを見送る覚悟はしてるんだな。そこら辺は深く考えたことなかったけど、何千年も生きてるならそりゃそうか。サムやディーンのために身を粉にして尽くしても、人間はすぐに死ぬし、彼らが死んだ後に自分だけは生き続けるということをキャスは経験で知っている。S4のときも、天使が天界を捨てるということがどういうことなのかディーンも視聴者も本当には理解していなかったのと同じように、天使が人間に肩入れした先に待っている結末の重みも究極的には人間には理解できないのかもしれない。刻印の時もだけど、表に出さないだけでキャスがそういうことをずっと前から考えていたのかと思うと、グッとくるものがある。
 いつの間にかサムが洗脳で他人の旦那役として吸収されてる回が申し訳ないけどめちゃくちゃおもしろい。今期で一番かも。サムにも似合わない髪型ってあるんだ。それに地獄の犬を殺す回でも思ったけど、眼鏡をかけると感動的なほどオタクっぽくなる。全然似合ってないのに「何か?」みたいな顔で出てくるのがめちゃくちゃおもろい。S14は20話しかないからギャグ回が少ないのかな?
 せっかくサムたちがジャックの情操教育を頑張ってたのに恩寵と魂無しが同時に来たせいですべてがめちゃくちゃに……。ジャックは素直で優しい人柄のおかげでここまで味方を増やしてきたのにこれじゃあ長所が無になってしまったじゃないか。
 キャスまた相談無しで悪化するパターンかよと思いはするけど、信じてきたものがもはや叶わなくなったことを認めるのは怖いし、今まで上手くやれてたからまだ何とかなると思いたかったって気持ちはすごくわかる。二人を煩わせることなく解決したかったのも。サムディーンの心に負担になるからってのも事実だし、そんな二人を見る自分も辛いからってのもあるし、単純に自分の至らなさを詰られるのは嫌なものだし。でも冷静に考えたらこれS6から成長してないんじゃないか?
 ニックの最後「僕を強くしてくれ!」のところで、あ~これ無理なんだろうな~って悟ったけど、死に方は流石に哀れだったな。サラの幽霊にもせっかく会えたのに、その喜びよりもルシファーじゃなかったことにがっかりする方が大きくなる日が来るなんて……。一度憑依されるとその存在が焼き付いてしまってもう以前には戻れなくなるというのは大天使の超常性を感じて好きだな。
 ボビーがまた出てくれて最初は嬉しかったけど、同じ顔なだけでもう二人のことをぶっきらぼうかつ愛情たっぷりの声でBoysとかSonとか呼んでくれないし、抱きしめてもくれないのかあとか思ってしまう。
 ジャックが生まれたばかりの時はどこの勢力も彼を利用したがってたけど、彼が魂を失ったことでまたその状態に逆戻りしたってわけね。自分の基準を持たない、世間知らずの、力だけはある存在なんて利用し放題・恰好のカモじゃん!ドナテロの「周囲に溶け込みたい時は、大切な人だったらどうするかを考えろ」というアドバイスはものすごくためになるけど、ジャックはサムやディーンのことをそこまでよく知らないというのが一番の問題かもしれない。「サムとディーンも喜ぶ」なんてデュマの言葉を信じちゃう辺り、全然二人のことわかってない。というか単純にあいつらの真似しただけだとむしろやらかす確率の方が高いんじゃ?
 しかしルシファーの幻覚がジャックの脳内の一意見の現れでしかないとしたら「彼らは本当は愛してない」とジャックが思ってるということになってしまうけど、節穴かな?所詮二歳か……。しかし「本当の愛じゃない」とかルシファー(ジャックの意見の代弁だったら濡れ衣で申し訳ないけど)にだけは言われたくないわ。お前も自分の過去の投影でしかなかったろうが!別にお前なりの愛なのは否定しないけど、それでもお前にだけは言われたくないわ!
「学習しろよ」とキャスに対して思うことは多々あるんだけど、兄弟のためにめちゃくちゃやってしまってもう戻れないって時のキャスが正直一番好きなんだ。特に兄弟のために半分衝動というか使命感と言うか危機感と言うかに駆られて同族を殺した時の、「あーあやってしまった」って途方に暮れた感じが申し訳ないけど最高。
 二人がジャックの信頼を裏切ったと言ってもなー、彼が魂無しでもサムディーンのことは変わらずに信じてたのは本当だけど、先にジャックがメアリーを殺したのがやっぱり……。しかもそれを事故だったで流そうとして、本心では全く悪いと思ってない(魂無いから)のが態度に出てるし……。ディーンがジャックを殺すことに関してやたら決断が早いのは尺の都合か?というのは置いておいて、もしサムが相手なら何があっても最後まで粘るだろうからやっぱ家族と言っても温度差はあるよな。ぶっちゃけ私としてもまだ二年だから思入れがそんなに……。いやでもキャスは二年も経てばもう欠かせない存在になってたからやっぱキャラ立ちか……。三人の中ではディーンは一番ジャックに対して心の距離的に遠いかな。正直ケビンと似たような位置に見える。逆にメアリーに一番近いのがディーンで一番遠いのがキャス。だから今の状況で天秤が傾く方向が違うのは当然と言える。
 最愛のディーンとジャックの間に立ってキャスはどうするんだ!?どっちを取るんだ!?って気になりすぎて前のめりで見てしまったけど、結論が出る前にジャックが吹っ飛ばしてくれて安心したようながっかりしたような……。
 神ってこんなんだったっけ?真剣な時に「名場面じゃないか!」みたいなことを言う嫌味な奴だっけ?サムに「作家だから僕らの人生で遊んでる」とか言われてるけど、今までのチャックからそんな印象は抱いたことないな。作家は確かにキャラクターを動かしてエンタメを提供する存在かもしれないけど、チャックは創造者だからこそ登場人物の選択に口を出さないしどんな結果になっても尊重するという真摯さはあったと思う。あくまで見物人の姿勢だとしても彼らの痛みや苦しみや喜びを軽いものだとは思ってなかった感じがしてたんだけど、地上にいない間に意地が悪くなった?

-Season15-

 ロウィーナの死の後ディーンとキャスが対面して、仲直りと喧嘩のどっちが出るかなと思ったらやっぱり喧嘩かい!いつも後手に回ってるんだから強敵が出現する前に止めたのは英断かもしれないだろ!?ディーンの塩対応が今までの最高値でこれからキャスがどう最高の幸福を得るのか見当もつかない。キャスが去る時の「君にはサムがいる」って発言はこれまでのディーンによるサムとキャスの扱いの差を考えれば残当でしかない。 
 ミカエルだ~~!やった~~!ずっとこの時を待っていた!最終章だから今までの心残りを解消してくれて嬉しい!特にミカエルの出番少なかったから。10年の間にアダムと結構良い関係築けてそうで、もしかしたら器と天使で一番の成功例の可能性ある?「神が会いたがってる」と言われてまず嘘と認定するのも、「あの方が直接出向けばいい」と返すのも、リリスに触られて不愉快そうに焼き殺すのも完全に期待通りの対応!しかしアダムが言い方次第で兄弟の味方に付いてくれそうな雰囲気で意外。拷問されてたわけじゃないからか?ミカエルとアダムの関係が良好で、精神の部屋で普通に意見を交わし合える程度なのがものすごくいい。今まで居そうで居なかったパターンだ。ミカエルにとっては神は服従すべきものという認識から全く更新されてないから二人に「神は敵だ」と言われても反応が悪いのか。しかしミカエルの振る舞いは完璧だった。ウィンチェスターの言葉を否定して神を信じようとするけど、証拠を突きつけられてしまったから協力はしてくれて、でも二人と一緒には来ない、この距離感が素晴らしい!そしてこの10年で培われたアダムとの関係も違和感なく組み込まれている!文句のつけどころがない。
 神、他の結末いくらだって書けるのに、何を描いても兄弟殺し合いからの残った方自殺エンドしか書けないって闇の性癖に目覚めすぎだろ。
 ディーンお前キャスに対して見つめ合うと素直におしゃべりできないかよ。別に喧嘩してていいから一緒に居ろ!もう置いていくな!とハラハラしていたけど二人が仲直り出来て本当によかった!ディーンにとってもキャスにとっても祈りって特別なことだからそれが届いたってのが……ああ~~安心した……。敵に捕まっても隙を見て戦って逃げおおせた上に花までしっかりゲットなんて近年稀にみる有能天使。キャスディンが喧嘩するのは心苦しいけど、ディーンが顔を向けた時にキャスが顔をつい逸らしてしまうのも、ディーンの方がそれに気付いて気まずそうなのも、ロウィーナに心配されて同時に「平気だ」って返すのも悪くはない。離れ離れになるよりはいい。しかしキャスが電話に出ないって時、祈ればいいんじゃないんだろうか……?特に留守電聞いてないって時に祈りなら自動的に届くのでは……?
 やっぱり被造物には無責任と取られるけどチャックの創作者としてのドライさ、言い換えれば誠実さのようなものは好きだったから、ラスボスにするために無理矢理闇堕ちさせられたみたいなのは何だかなー。というかウィンチェスター兄弟の功績の全てが神の加護の元だから出来たことだったみたいな設定は正直不快だな。だってS5で運命を覆したことまで神が「その方が盛り上がるから」と用意した筋書きだったってことでしょう。後から「今までのはフィクションだったんだよ~」とか言われたらあの時一喜一憂したのが無意味だったみたいな……。だからディーンは怒ってるんだろうけど、私はメタ的に考えて神をラスボスにするための都合じゃないかと思ってしまう。そういえばS5時点のチャックが原稿を書いてたのが、出来事が起こる前だったのか後だったのかって考えたこと無かったな。事前に書いてたとしたら今シーズンで問題になってることくらいとっくに作中の誰かが気づいてても良い気がする……と思ったけど原稿の存在を知ってるのは視聴者だけか?S5視聴直後の私は、なんとなく事後の記録だと思いこんでいたんだけど、なぜかと言えばそうでないとサムディーンが死にものぐるいで導き出した覚悟と決断が何も響かなくなってしまうから。アポカリプスの筋書きは作ってあっただろうけど完成原稿?は違うのかなと思ってた。だから私の中のチャックの認識って、作者ではあるんだけど一から十まで埋めてあるわけではなくて、土台だけ創って後はキャラが勝手に動いたみたいなタイプだと思ってた。S11で、自分を差し出すことで創造物を残してサムとディーンに後を任せるという彼の決断が結構好きだったから。そういう描写から、この世の誰からも違った価値観を持つはずの神の人柄を自分なりに掴めたと思ってたから、今になってそれらがすべて演技に過ぎなかったかのように後出しされるのは不愉快。
 キャスが最近有能天使なのは有難いけど、やっぱりジャックのためじゃ物足りないんだよなー。ディーンのために尽くすのでないと。あの契約は逆に言えば最高の幸せを得られるという確約みたいなものだからある意味幸せなことかもしれないが、その幸せはやっぱりディーンに関わることでなければ納得できない。だって最後だから。これからも生き続けるなら良いけど最後だから。
 キャスのFaithってのは要するにジャックが世界をより良い方向に導くと信じてるってことで、それは妄信でも計画でもなくて信頼だということなんだろうけど、ジャックが導く世界ってのの具体的なビジョンが見えないからピンと来ない。「神の計画が壊れて自分を見失った時期」ってS6~S12前半までを指してることになるけど、そう言われると迷走期長いな!?確かにいろんなことやらかしてきましたね~。
 キャスの死についてごちゃごちゃ考えたり何かの弾みでネタバレ見ちゃうよりは思い切って最後まで見てしまった方が良いのかもしれないと思った。サムディンが死ぬと聞いてもそこまで傷つかないのは、あいつらに出来ることはやり切ったと思えるからで、なぜキャスだとダメなのかって私がまだ満足してない・キャスはまだやれると思ってるから。だから「真の幸福」の内容次第では満足して見送れる可能性も全然あるわけだ。ジャックの爆弾の件で珍しくキャスが報連相してて驚き!最終章でついに報連相を覚えた!?しかし死神のノート通りって結局「誰の」が違うだけで筋書きの中じゃん!と思うけどどうなるんだろう。
 ディーンの「ジャックは家族じゃない」は衝撃ではあるけど理解はできる。あれもこれもと背負いきれないからある程度の線引きは必要だと思う。でもそれでいいのか?ディーン・ウィンチェスター最終章がそれでいいのか?「家族は何よりも大事だけど、家族じゃないなら死んでも構わない」が答えでいいのか?
「チャックを殺すためなら何でも差し出す」と言うディーンに対してサムが「僕も差し出す?」って何の話!?今はサムを差し出すような状況じゃないのになぜ仮定の話を!?サミちゃん必殺の泣き落としが始まって「ディーンはずっと僕を守ってくれてたよね」ってマジこれ何の話!?ディーンがサムに銃向けたと言ってもどうせ撃てるわけないのわかってるし撃てたとしてもせいぜい脚……も無理かも。でもサムを振り払いたいならそれくらいしないと無理だから「ディーンはそんなことしないよね?」と言いたいのか?意見に反対する・しないじゃなくて、阻もうとする僕を傷つける・つけないの軸で勝とうとしてる?そんなんディーンが勝てるわけないじゃん!!?私としてはディーンが銃出したのは「これくらい本気ですよ」のアピールであって、実際に撃てるわけないと思って軽く流してたんだけど、「僕も差し出すの?」はそこにかかってるんだよね?
 家族団らんの回にキャスがいなくて、いつも家族だとか言ってるくせに何で除け者!?と不満を抱いてしまったんだけど、もしやそこにいたら最高の幸せを感じてしまうからだった……!?
 キャス、あの状況からどうやって幸せになるのかと思ったら「幸せは手に入るものではなく、あるものなんだ」ってあいつ最後までパワー理論だったな……。でも恐れてたより彼の最後にずっと満足してる。「もう何があっても良いからディーンの隣で死なせてやってくれ!最悪幸福でなくても良い、死ぬときはディーンのためにしてやってくれ!それだけ叶えばいい!」と最大限にハードルを下げて挑んだからかもしれないが、最後まで愛に準じた男だった。でも「the one thing I want...it's something I know I can't have.」って何!?欲しいものはあるけど手に入らないって何のこと!?いやでもその後に続くのがディーンの話で、というかディーンへの励ましで、この流れでそれに当てはまるものディーン以外に何がある!?「手に入らない」ってどう頑張ってもディーンにとってサム以上に大切なものになれることは無いということを指してるんじゃ!?それかディーンの役に立ちたくてやることがいつも大惨事に終わることの方か!?私だってこの取引が発生してからキャスの幸せについて考えたけどそんなん……ディーンしかないじゃん!役に立ちたいとか認められたいとかもあるけどそれらは二次的な物で、究極的にはディーンが生きていてくれること、ディーンの存在そのものでしょう。でもホントに最後の最後に言うことが「君は愛に溢れた人間なんだ」ってお前……お前……マジか……。ディーンのことずっと見てきて、知っててくれてて、信じてくれてて……。そうなんだよ、愛ってのは手に入れるとか入れないとかそういう問題じゃなくて、ただ愛してるってことなんだよ。しかもその後ディーンの肩に手形ついてるの見てもう……あいつ……本当にディーンのことが好きなんだな……と感極まってしまってもう涙で画面が見えない。ディーンはツンギレなだけでキャスの想いをちゃんと理解はしてると思う。ただそれ以上にサミーちゃんが大事なだけで。でも私はそれを報われてないとは思わないというか、サミーちゃんを愛してないディーンなんてディーンじゃないし、そういうディーンだからこそキャスは愛してるわけだから、報われる=同じ気持ちを返されるではないと思うんだよ。まあ理屈でそう思っても寂しくないわけではないんだけど。
 ルシファーが再登場すると思ってなかったからびっっくりした!しかもミカエルと会うなんてあまりに待ち望んだ光景すぎて卒倒しそう。しかもミカエルの開口一番が「こいつを信用するのか?」で完全に解釈一致すぎて死んでしまいそう。
 と思いきやルシファーマジかよ親父のビッチに成り下がりやがって!どうせまた捨てられるのに!?プライドは無いのか!?……とは言っても妙に納得する部分はある、というかS11での和解後の猫ちゃんぶり見てると、状況が変われば神にべったりになるんじゃないか?と思わせる部分はあったと思う。
 ミカエルが結局神の側に付くならルシファーとの件何だったん?と思ったけど、ルシファーの方を復活させて自分は無視されたとわかったからか!いやでもその感情の移り変わりを兄弟が完璧に理解してるの何で!?しかもジャックを爆弾にしたことでエネルギー吸引機になったって何!?どういうこと!?勢いで言ってない!?でも死のノートは結局読めないから俺たちのやり方でやるって展開は流石だった。筋書き通りなんて二人らしくないからね。でもミカエル結局報われてなくてだから言ったじゃん!一番尽くしてきたからこそ期待してしまうのわかるけどと思った。結局一番悲しい奴ミカエルじゃないか?
 まるで最終回みたいな19話で最後何やるのかな~日常で終わるやつかな~と思っていて、でも兄弟が死んで終わるらしいことだけは知ってたからショックとかではないんだけど、狩りの中で死ぬのかあ~……ディーンらしいけど……らしいけど……。でも最後の兄弟が素晴らしすぎて何も言えないわ。好きなキャラが死ぬ瞬間まで文句無く描いてもらえるって本当に奇跡みたいに贅沢なことだから……。二人が手を重ね合わせただけでも感極まるのに額と額をくっつけるところが……ジェンセンの涙最後まで素晴らしかった。美しいって言っちゃうと顔の話みたいだけど(顔もだけど)何というか透き通ってて……。死ぬのはそりゃあ悲しいけどそれ以上にディーン大好きって気持ちでいっぱいになって、終わりの時にこういう気持ちになれるってことがどれほど幸せなことか。老化したサミーちゃんがピッカピカに保ってるインパラに乗ってディーンを想うところも涙で画面が見えなかった。
 しかしボビーが「ジャックが天国を作り変えた。キャスも手伝ったけど」って言ってて、あいつ戻ってるの!?ジャックが来たのは神になった後でだろうからキャスも戻ったってことでいいのか!?最後出なかったのはあんな鮮烈な別れ方してすぐ出てきたら台無しだからいいわもう!元気であれば!(そういえば兄弟とキャスの寿命差について前に考えたりしたけど、この世界だと人格そのままで天国に行くだけだし、天国は天使の領域なんだから会おうと思えばいつでも会えるのではないか?) 

 完結による感情の高ぶりが抜けてから冷静に考えてみると、神を倒す所は正直勢いで押し切ったと思ってる。でもそれは神を殺すというのがあまりにも大きすぎる目標だったのと、どうにかして話を終わらせないといけなかったせいだと思う。最後にディーンが死んで終わるのも、ただ狩りを続けていくだけだと今までのシーズンの終わり方とあまり変わらなくなってしまう気がして、それなら兄弟が死ぬ方が完結感が出る気がするけど二人同時に死ぬのはなんか間抜けだし、そのうえ怪物の方を勝たせたみたいになるから微妙で、じゃあ死ぬとしたらどっちかと考えたらディーンがサム無しで老衰まで生き続けられるビジョンが全く見えないから、彼が先に死ぬことになるのは割と納得できる。
 やっぱり話の完成度としてはS5までがよくて、キャラの色々な面を見られるファンサービスとしてはS6~S9がよかった。S10以降は正直深みが足らないというかノリと勢いでどうにかしてる感じだった。特にクラウリーとかルシファー辺りのIQが下がり気味だったし。状況によって手を組んだり離れたり色んな登場人物の思惑が絡み合うのは前と変わらないんだけど、登場人物それぞれのバックグラウンドとそこから生まれる複雑な感情や関係の描写が終盤になるほど減っていったと感じた。兄弟とキャスのことは納得してるけどそれ以外が。特に神がただの陰険な存在になってたのと、ジャックがまだ生まれて間もなさ過ぎてちゃんとした人間関係を築くような段階じゃなかったのが大きいかもしれない。ミカエルが最後に父親に着いたのは彼のキャラクター性としては自然な気がするからそういうのがもっと欲しかった。
 個人的にはルシファーの描き方に違和感があって、彼から父への感情はともかく、ミカエルへの感情は高き者への嫉妬だけじゃないはずだと思う。ケツ野郎事件の後の台詞でルシファーが「私の兄を?」とわざわざ言うのも「ミカエルに関係を持つのは私だけ(dick withの意味が分からないので仮定する)」と言うのも、つまりはどんなに文句があっても兄は兄だから他人に害されるのは許せないということだと思うから。そもそもルシファーはサムの同位体だから、サムにとってディーン>父であるようにルシファーにとってもミカエル>神のはずではなかったのか。だから「父がミカエルではなく自分を選んだ!ミカエルに勝った!」という気持ちが発生しないとまでは思わないけど、気持ちの優先順位としてはもっと低いと思ってた。あの墓場の段階であってさえ、ミカエルさえ了承してくれればいつでも迎え入れる気だったルシファーが好きだから、あの時の兄愛はいったいどこに捨ててきたんだろうということが最後まで気になった。

 キャスの「the one thing I want...it's something I know I can't have.」がディーンおよびディーンの愛だというのが、私の願望にすぎないかもしれないというカプ厨にありがちな恐れから他の可能性を考えてみたけど、ディーンでないとすれば次に来るのはほぼ確定で世界平和。キャスの人格的にそれぐらいしか思いつかない。でも虚無との契約の時点ではそれはジャックがやってくれると信じていたんだから「契約をして以来ずっと考えてきたが、全く答えは出ていなかった」や「手に入らないと知っていたから」は当てはまらない。それにその後の「手に入れる物じではなく言葉にすることだ」にも繋がらない。だからやはりそこに入るのはディーンしかいない。
 しかしあのセリフを見てキャスに対する見方が変わった。ディーンを大好きなのは当然知ってたけど「手に入れたい」だとは思ってなかったというか……。いやディーンをというか「ディーンにとって自分が重大な存在になること」でもいいけど、少なくとも現状では満足できていなかったということになるから。私が考えていたよりずっと切実だったんだなあと……。
 最終決戦の前にキャスが死ぬこと自体はまあ、ディーンの死後にキャスがいるとサムと慰め合うことが確定してしまって普通の生活は送れないだろうし、妥当な線だと思う。ディーンの死後にキャスサムが身を寄せ合って暮らすのは割と見たいけど、延々ディーンの思い出をぽつぽつ語り合いながらお通夜みたいな雰囲気で前向きにはなれなさそう……。楽しかったことを笑いながら話すんじゃなくて何か……ぽつぽつ話して束の間無言になった後「ディーンに会いたいよ……」って泣きだしそう。お互いの顔を見るとディーンのこと思い出しちゃうからしばらくしたら辛くなって別居しそう。
 ディーンがキャスに我が儘な怒りっぽさを発揮できるのはディーンなりの甘えなんだろうけど、それでも終盤の塩っぷりはすごかったな。どんだけ無茶苦茶なこと言ってもキャスは愛してくれるのがわかってるってだけで絶対にディーンの支えになってたと思うけどさすがにね。それでも愛を貫いたキャスのことは心底尊敬するわ……。
 ジャックに関しては、私がガキのキャラ(見た目は成長してるけど精神的に)嫌いってのはあるとしても、彼ってこのシーズンを終わらせるための都合のいい道具って感じが終始していたから一人の人格として見られなかったんだ。生まれた時から期待される役割があったせいで、彼自身の信念というより周囲からの圧というか誘導というかの要素が強く見えてしまった。サミー達は「正しい方向に導く」つもりでやってたんだろうけど、サミー達の考える幸福にしか触れる機会が無かったのに自由とは?とどうしても思ってしまう。ジャックの中にサミー達に好かれたいからという気持ちもかなりあると思うし、結局彼らの模倣でしかないのではないか?「子供は親の願いを叶えるために生みだされる」という暗黒面を感じ取ってしまう。ジャック自身がこの世界を守りたいと思うような何かがもっとあればよかったのかもしれない。

 何はともあれ本当に素晴らしいものを見せてくれたSUPERNATURAL……ここまで付いてきてよかった!

『SUPERNATURAL』Season11~12感想 

-Season11-

 辺獄で会話したときのルシファーとサムのやり取りは全部興味深いんだけど、ルシファーがS5のサムの決断力やら大義のために身を犠牲にする志やらを正しく評価してくれていたのが意外というかなんというか……。アメリアと一緒になろうとしたことと結局ならなかったことのどっちを責めてるのか最初はわからなかったけど、大義よりも「普通の生活」とか言って自分の心の安寧を取ったことを責めてるんだよなやっぱり。「あの頃は強かったけど今は腑抜けになってしまった」とかそんなん気にするんだ。意外とよく見てるんだな……。
 キャスがルシファーを入れようと決断するに至った過程がいまいち納得できてなくて、消耗品って言われたのそんなに気にする?ディーンはそんなこと思ってないのは明らかなのに?と思ってたんだけど、その単語というよりも「最終的にやり遂げるのはディーンとサムであって、自分は手助けしているだけだから大して重要な存在じゃない」というところに引っかかっていたのか。
 檻から出られた後自然を楽しむルシファーが、川を見たあとに口笛で吹く曲が「川に集まろう」とかいう讃美歌で「こいつ腐っても天使なんだな……」と思わせる細かさがすごくいい。S5の時点で、人間を滅ぼしたいだけで地球のことは美しいと思っているようなことは言ってたし、川や植物を見てる時の様子から見ても本当に自然が好きなんだろう。
 一応キャスのふりをしてサムの命を心配するようなことを言ってたルシファーが「もうバラしてしまおう」という考えに至ったのって、自分の言った通りサムがディーンを救うためなら何でも犠牲にするほど弱くなったという実例が目の前に来て「ほらこれだ」ってなったのと、自分が演じていることにも気づかず無邪気に「キャスを信じる」などと言うサムの馬鹿さに笑うしかなかったのと、そもそもそういう愛情や友情のノリ全部が馬鹿馬鹿しくなったのと色々あると思う。しかし、「アマラと繋がっているのはディーンなのに、なぜ俺はお前を見逃そうとしてきたのだろう?それはお前がプロムで私を断り続けた女の子のようだから」って、プロムで断わり続けた女の子に対する感情ってどんな?吹き替えだと「断られるほどどうしても落としたいとムキになる」って言ってたけどそれかな?
 今のディーンならサムが死んでどうするのかなと思ったら、普通に睡眠薬自殺で死神呼び出して「サムを戻して自分を代わりに連れて行け」って全くブレてない。喜ぶところか?
 正直ルシファーが出る部分以外はあんまり面白くないけど、逆にそこは全部最高に面白い。見たかったものを見せてくれてる。S5の頃からすればルシファーのカリスマ性はだいぶ減ったけど、檻の中にサムをおびき寄せた手腕は期待通りだったし、サムとディーンに簡単には降らない所も良かった。ウィンチェスターとキャスを同時に相手にして完全に圧倒する強さもいい。悪役が味方になると毒気が抜かれて個性(魅力)を失った都合のいい存在になる懸念はずっとあったけど、今のところそこまで悪くは無いな。単純にルシファーの出番が多くて嬉しい。しかしミカエルが檻の中でミュージカル曲を歌いながら自慰してるってのが本当だったらショックだわ。ミカたその掘り下げもっとしてほしい。
 メタトロンが神に対して人間の素晴らしさについて語るのは「お前そんなキャラだったか?」と思ったけど、彼が神のために尽くそうとするのはスッと腑に落ちた。なにせ誰もがあれほど待ち望んだ神が目の前に現れてしまってるんだから。メタトロンだって今は人間でも、天地創造の時から天使だったものが神を忘れるなんて出来っこないし。しかもメタトロンは自分が本当は矮小な存在だということをよくわかっているからこそ注目されたくて必死だったわけだから、たとえ偶然でも神が自分を選んでくれて、自分だけに聞かせてくれる言葉があって、それで「神の書記」と名乗れたことがどれほど彼にとっての誇りだったかはよくわかる。「あなたの光が私を照らした」に全てが詰まっている。これはS11で一番の名台詞かもしれない。それに遠くにいる間は気にしてなくてもいざ相手を目の前にすると思い出す気持ちとかはあるから。
 メタトロンも言っていたし、この回のオーディオコメンタリーで「『人間は諦めない』というメッセージを発してる」と言われてるけど、私はそこら辺はマジで興味が無い。「視聴者は自分たちのことだと思う」って、そういう人も多いだろうけど、少なくとも私はそれで励まされたりはしない。諦めないことで絶対に解決できるのはそれがフィクションだからで、作者は解決可能な出来事しか起こさないんだから当たり前だ。視聴者がエンタメとして許容できないほどの不快感は創作の中では存在を許されない。私がSUPERNATURALに惹かれるところも期待するところもそことは全然違う。愛ゆえに発生する葛藤や苦しみや痛みに傷つき疲れ果てて、時にはその愛を投げ捨てて楽になりたいと思ってもそれでも愛してしまうこと、その愛を失えないし失いたくないという気持ちを描いていると思うから。だからこそ神に対するメタトロンの気持ちをこの回で聞けて、彼に対する評価がかなり変わった。愛しているからこそ憎くなるし、期待してしまうからこそ対面すると文句ばかり言いたくなるけど、それでもその気持ちを捨てられない。それが愛だから。
 しかしメタトロンの態度とかを見ていると神が被造物に嫌気が差すのも全くわからないわけではない。下々の者の行動で何が起きても「あなたのおかげ」か「あなたのせい」になるし、誰も彼もが跪いてお世辞しか言わなくなるし、自分のやることすべてに過剰な意味を見出されて、気まぐれにやったことですら「あなたに存在を認められた!」と言われたりする。特定の人の祈りを聞いて一度介入したら今度は「神に選ばれた存在」という肩書が地上に生まれて、それを理由に新たな争いが起こると思うとちょっとうんざりするかもしれない。「どうして僕になろうとした?」「気を引きたかったから」「誰の気を?」「あなたの」ってメタトロンのやり取りでチャックの笑顔が消えるシーンが良い。みんなあなたのことが本当に好きなんですよ……ってなるし、自分が背負える以上に人々から想われることの重さも感じられる。
 ルシファーがアマラに「俺と組んで神への恨みを晴らそう」とか言ってたくせに最終的には「彼を讃える気は無いが、お前は彼にはなれない」になるのが愛憎を感じて好きだし、神の方もメタトロンには「ルシファーは悪党じゃない」と言ったのと同じ口でディーンには「少しでも信頼したら檻になんか入れるか?」とか「今はもっと悪くなってるだろう」とか言ってるのが愛憎で好き。実際ルシファーがアマラと組もうとしたところはほとんど当たってるんだけど、「お前は彼にはなれない」の方がルシファーの根本で、全ての憎悪や矛盾は結局愛から来ているってところがたまらなくいい。
 神に対するルシファーの望みが「謝ってほしい」なんて、アポカリプスに比べれば意外なほど無欲なのも興味深いし、サムが何の因果かルシファーに肩を貸したり話し合いで味方をする図になってる皮肉も最高。
 S10を見た時はあまり理解してなかったんだけど、ルシファーが堕ちた原因となった嫉妬心が刻印のせいだって死の騎士が言ってたのか。でも神が言うには、刻印は元から持っていた感情を増幅しただけらしい。外部からの影響で仕方なくとかでなくて、ルシファー自身から来ている方が圧倒的に好きだからよかった。なぜかと言うと、激しい嫉妬とは激しい愛を持っている証拠みたいなもので、つまりそれによって自らの身を焼くほどルシファーの愛が大きかったということになるから。感情のパワーというものは振り切れれば振り切れるほど魅力的というか、超常の存在だからこそ持ち合わせる純粋で剥き出しの感情を感じたい。
 神がルシファーに対して何て言うのか全く予想できなくて固唾を飲んで見てしまったんだけど、英文見る限り、本当は創造物のことは平等に愛すべきで、誰かを特別視するようなことをしてはいけなかったけど、それでもルシファーは最も可愛がった息子だったということか?特別に愛していたからこそルシファーに刻印を任せて、彼なら理性を保てると考えたけど、その選択が間違いで最愛の息子を蝕むのを見たとき、自分を憎み、その延長でルシファーを罰したと。しかし神に「耐えられると信じたから刻印を渡した」と言われて、ルシファーの方が自分のふがいなさにバツが悪く感じるという手法には感心した。"most cherished son"はルシファーにとってキラーワードすぎる 。
 ルシファーがウィンチェスターに「聞いたか?神が父親で、それと議論するのがどんな感じかわかるか?」と言ってるところ、何度見ても因果の妙を感じて最高。あのルシファーが人に共感を求めている!しかしサムの言う「謝るというのは時として謝るだけなんだ」っていうのはかなり金言だと思う。ディーンの「嘘でもいい」は違うと思うけど(特に今のルシファーには嘘じゃダメだろ)そうではなくて、謝るという行為そのものが目的になることはある。結果として果たされないことがあるとしても、そこに申し訳ないという気持ちが存在しているという事実が重要なことがある。
 神と話し合いが終わった後のルシファーの憑き物が落ちた顔がすごかった。
 神曰く「"存在"は神の手から生じた者ではなく、最初からそこにあって生まれるのを待っていた」だって?聞き捨てならない新解釈。神という存在をどう言い表すかは相当難しいと思うけど、つまりこの世界のあらゆる"存在"を生み出したもので、あまねく場所に存在し、知らないことは無く、この世の良いことも悪いこともすべて神が「そのように決めたから」そうなってるんだと私は思っていた。でもこの"神"はただそれらがこの世に出てくる手助けをしただけで、”存在”の根本を創り出したわけではない?そうだとしたらかなり色んな解釈が変わってくるぞ。
 神が消えれば宇宙が消えるのは当然理解できるけどダークネスが「私も含めて」とか言い始めてわけがわからない。じゃあ今までのは何?神に復讐するはずじゃ?つまりは最初から心中ってこと(見返したら殺すというより痛めつけて思い知らせたいだけだったらしい)?そうしたらそれを受けたディーンが「本心では独りが嫌で、弟を求めてる」とか言い出してさらに驚愕。「本当に望んでるのは俺じゃない」「本当の望みは何だ」って急に好みの展開が来て驚いた。ダークネスの弟に対する感情「私がいるのに他のものを求めたお前を憎んだ」!!??急に愛が重すぎる!光と闇って神とダークネスだけじゃなくてディーンとサムにも当てはまってて、ダークネスは自分を蔑ろにした神の代わりに同じく光としてのディーンを欲しがっているってこと!?確かにディーンを気に入ってる時点で神の創造物を気に入る余地があるってことだよなとは薄っすら思ってたけど!ダークネスがディーンに愛着があるのは単に解放された恩かと思ってたけど、弟の代わりだったの!?その方がただの人間を特別扱いするより説得力があるかもしれないけど弟に対する愛が重い!
 しかしどちらかが欠けると光と闇のバランスが壊れる→神が死にそう→ならダークネスの方も殺せば均衡は保たれる、もなかなかの超理論だと思う。そこまで影響力の強いものがゼロになってなんで地上に影響が無いんだ。
 ダークネス、母さんを生き返らせて贈り物とか言うけど人を簡単に生き返らせるんじゃない!死が軽くなるだろうが!ものすごく今更だけど!でも母さんとかぶっちゃけ役目を終えた人間だと思ってたから今更出て来られてもあんまり嬉しくない。「思い出の中でじっとしててくれ」って言葉はこういう時に使うのかな。
 ダークネスの語感がすごくホビーアニメっぽいとか、世界を壊した後どうなるかがふわふわすぎるとか、「光と闇はどちらが欠けてもいけない」とか、強大な敵を前にしてかつての敵同士が協力するとか、展開がどうにも安っぽいしどこかで見た感満載だけど、演者の力量で面白くなってる感じ。S10が面白かったのはクラウリーとディーンの関係の変化とか、サムのディーンに対する感情とかいろいろ見どころがあったからで、刻印の設定が面白かったわけではない。だからS11はずっとつまらなかったけど、最後の最後でダークネスと神の感情濃度が急増したから最終回は良かった。メタトロンと神、ルシファーと神との感情の辺りも食い入るように見てしまったくらい良かった。神の前だとルシファーは完全にクソガキだったし、和解の後なんて完全に牙抜けてたけどそれもまた良かった。だって神こそがルシファーのあらゆる行動の理由なんだから。

 初見では神とルシファーとメタトロンにばかり注目してしまったので、サムディンに関してS8からずっと続いている「互いを救うために大勢の人を犠牲にするのは正しいのか?」という問いの答えがどうなったのかに注目して二回目を見てみた。「S8のラスト:サムが死にかける S9のラスト:ディーンが死んで悪魔になる S10のラスト:サムを殺さなければならない」のすべてで結局世界よりもお互いを選んできたわけだけど、そこからS11ラストの魂爆弾まででどんな心変わりがあったか。
 初回でディーンの「タイムマシンがあったらお前がダークネスを開放するのを止めに行く」という発言があって、それが「刻印を取り除く儀式を止めさせる」という意味ならいつも通り自分が犠牲になって世界を守る気でいることになるが、それに対してサムが「自分たちを救うのと大勢の人を救うのを両方するんだ」と返していて「ああなるほど、そういう方向に向かうんだ」と感心した。
 ……したんだけど、ルシファーに再会して言われた「ダークネスを本気で倒したいなら自分や愛する人が死ぬ覚悟をしなきゃならない」でまた元の位置に戻ってきた。S8からずっとそのテーマで来てるのに、結局身内を犠牲にして世界を救うんじゃ振り出しじゃないか。というか理性ではわかっていてもいざその局面に立つとどうしてもできないから、こんな何シーズンもウダウダしてるんだからね。
 次にその件に関係してくるのは人狼に捕らわれた一般市民を助けてサミーが殺された時。サムを生き返らせること自体はそうすることが世界の危機に直結するわけじゃないから良いとしても、ディーンが死んで代わりに行くのでは今度はサミーが蘇らせるために何でもするだろうというループは変わらない。世界のためということを考えれば「ディーンにアマラを倒すことは出来ないから世界を救うためにはサムが要る」は正しいように見えるが、この時のディーンは死神に指摘されているように世界のことなど本当は気にしていない。結局ディーンは弟がいないと生きられないから、自分が生きている以上は戻す以外の選択肢は選べないというだけである。つまりこの話ではほとんどこの件に関しては進展していない。
 次はキャスの中に入ったルシファーを追い出すべきかそうでないかという口論の時。ここでディーンは「家族なんだから当然連れ戻す」という意見。前回のことといい、彼の中ではもうS10のラストで最終的な結論は出たということかもしれない。一方でサムは「家族だからこそ本人の意志を尊重するべきだ」という意見。おそらくルシファーの提言が影響していると思われるが、こっちもシーズン当初で出した「自分たちも世界も両方救う」論は跡形も無くなっている。あれ?今までのくだりは何だったんだ?
 そして結局キャスはディーンが呼びかけても帰る気は無いということがわかって、ディーンも「あいつの意志なんだ」と納得する……というところまでは理解できたのだけど、その後の「片方が賛成しない選択をもう片方がするとしても邪魔しないと誓ったよな」という台詞にびっくり仰天。そんな話いつした?本気で覚えがない。主題に関係ないと思って早送りした中に入ってたのか?それとももっと前のシーズンの話?この発言が想定外すぎて完全に検証の道が途切れてしまった。まあその発言は置いておいても結局身内を犠牲にして世界を救う感じ?それってただのS5じゃね?あれ?今までのくだりは何だったんだ?「お互いを救い合っても結局何にもならなかったよね」ということでいいのか?
 これだけ長らく引っ張ってきてどんな結論を出すのか一生懸命追いかけてきたのに新しい道も何一つ見出されずに結局S5に立ち戻るってマジ?それならS10の時点でこの話題は終わっておいた方が良かったんじゃないか?最終的にはディーンは死ななくて済むわけだけどそれって結果論だしな……と思ったが、神が世界を創るために身内を犠牲にするという選択をしてしまったのが始まりだから、神とダークネスが和解できたことが「どちらかを犠牲にではなく2人とも生き残る」道があるという示唆なのか?

-Season12-

 キャスとクラウリーの組み合わせ、見るだけで私の中の何かが助かる。
 ルシファーくんの「愛されたいからロックスターやる!(ギター弾けない作曲できない)」の格下げ感すごい。崇拝されるならせめて実力でやんなさいよ。これで本当に未知なる音楽の才能をもっていたとかなら面白かったのに。いやルシファーが音楽に触れる機会とか無いんだから当たり前なんだけどね。でも「愛の証明として血を捧げてみせろ」と要求するのは彼の性格的にわかる気がする。しかしルシファーは確かに反逆者だけど、だからこそ崇拝されてもいただろうに人気者になりたいとは……。「自分の意志を貫いて何が悪い?嫉妬の何が悪い?」って彼に共感する人はいつの時代もいるのに。それに正道を知るからこそ邪道に進み、逆に邪道に進んだからこそ正道の価値がわかるということもあるし。というか少なくとも堕ちる前は神にもミカエルにも愛されてただろ!この間だって最愛の息子っていう称号をもらったばっかりなのに!?(と思ってたら、そう言ったくせに神が今度はアマラと一緒に出て行ってまた置き去りにされたからだった。そう考えると和解後に神にべったりになるルシファーはちょっと見たかった)
 ルシファーが愛されたかった子供というのはその通りなんだけど、同時に超常の存在であることも重要な要素だから、人間の尺度のみで図った「子供あるある」だけで終わってほしくない。彼らが人間とは違う存在だからこそ人間とは違う受け取り方をするし人間とは違う理屈で動くってのがもっと欲しい。もちろん人間との共通点もあるけど。
 カスティエル……ついに守る対象がウィンチェスター家全員に……。自己犠牲しがちな彼らのことを他の何よりも思いやってくれる存在がいるのはものすごく嬉しいんだけど、あなたそうやっていっつもボロボロになって……。宇宙規模のツケが回って来るって言われてんのに……。
「良い父親になれる」って言われて「閃いた」みたいな顔するルシファーホント草。「自分が父親になればいいじゃない」じゃないんだよ。「創るのは初めてだ」じゃないんだよ。ルシファーのクソガキ化が止まらない。
 ルシファーが「よだれを垂らしたミカエルと檻の中にいるよりはマシ」と言ってたけど、それが本当だったら確かに本気で見たくない光景だと思う。だってルシファーにとってのミカエルは、自分を育ててくれて、自分のできないことを全部出来て、いっそ崇拝と言えるくらいに愛していた人で、だからこそ一緒に来てほしいと願ったけどどこまでも正しいからこそ来てくれなかった人だから。そんな人と仲違いして憎み合うことになるのは悲しいけど、受け入れられないわけではない。でもその完璧な兄が壊れて見る影も無くなっていく姿を見る辛さはそれとは全然違う。
 クラウリーここまで圧倒的に勝利を収めたのは流石に初めてじゃない?しかもルシファーを相手に!今は珍しく小物臭くない!……と思ったけど、やっぱダメだわ、ルシファーとは根本的に器が違う。クラウリーはどこまで行っても名声にしか興味が無いというか、何かを成した結果の名声じゃなくて「名声を得ること」自体が目的で、もっと言えばその名声というのも「尊敬や恐れの目で見られる(内心で馬鹿にしているかどうかは不明)」という表面的なことだけだから、何をしても器が小さく見える。一時的な盤面操作で王座に着いてもクラウリー個人を好いてる人が誰もいないから、情勢が不利になれば即寝返る人しかいない。この辺りはメタトロンとまったく同じで、本人も自分がそこまでの器ではないと内心で気が付いているからこそ煌びやかな称号を求める。本当のカリスマは褒められようが貶められようがその存在は揺らがないから、誰にどんな風に呼ばれるかなんて大した問題じゃない。S10まではクラウリーのことを十分推しと言えてたはずなのにS11から急にその良さが感じられなくなってしまった。でもミカエルの槍の回で帰ったように見せかけてラミエルに直談判してたり、貴重な槍を破壊してキャスを助ける義理は全く無かったのに助けた所とかは普通に好き。人間味というか良心との狭間で揺れる男好きだから。ルシファーが床を舐めててもそこまで惨めな感じがしないのは、何か考えがあるんだろう(あってほしい)という気持ちと、最終的な勝利のためなら一時的な屈辱は看過するくらいの器を感じる(これもそうであってほしいという願望込み)からかな。何というか、クラウリーは床を舐めさせられることをガチで最大の屈辱と思ってそうなところが……小さいんだよなスケールが……。
 キャスはもはやウィンチェスター家に全てを捧げる勢いだったし、かなりギリギリまで死に近づいてた時に「君たちに出会えてよかった」と言ってる辺りまでは一貫してたのに、突然天界に帰りたくなって本当の家とか故郷とかに心動かされてるってどういうことなんだ?昔のキャスなら二人に求められたら何もかも放り出して飛んできてた(今は翼無いけど)のに?と思ってたら、ウィンチェスターには母子を殺せないだろうから私がやるってことか。二人を守りたい気持ちもあるし、これまでの失敗に次ぐ失敗で自信を喪失して、兄弟無しでは何も出来ない自分が嫌になっていたからというのもなんとなく理解できた。……って納得してたのに殺らないんかーい!お前マジでディーンに蹴り入れられた方がいいぞ!?二人を振り切ってまで来たんだから徹底的にやらんかーい!失敗ばかりってお前学習しねーからだろ!?
 危険だけど恩寵を抜ければ母子の命は助かるかもという申し出を断って、子供が「特別な子」でいることの方が重要なのが最高にキショくてケリー無理かも。自分の子供が“真っ当”に育つという根拠の無い自信(というかただの願望)で「壮大な計画があるのかも」とか言ってる時の完全にイッちゃってる目が無理すぎる。単に「生まれた瞬間の子供は善でも悪でもないから善の方向に導く存在が必要だ」って路線だけならここまで反感抱かないのに。でも善に導く存在と言われたらキャスしかいないと思うその判断は支持する。人の話は聞かないし暴走するし失敗するけど、キャスがずっと善であることは変わりないから。
 ルシファーのガキに気に入られるキャスは正直面白いけど、行くなら三人一緒に行け―!行き先が天国だろうと地獄だろうとそれ以外だろうと三人一緒に行けー!キャスが自己嫌悪の果てに父性(最後まで見たら父性というより献身かなと思った)に使命感見出して死ぬようなことになったら一生恨む。S10までの思い出を胸に生きてやる。命捧げるとか軽々しく言うんじゃねえ!お前が命捧げて良いのはディーン・ウィンチェスターのためだけだ!キャスの「ずっと迷っていたけど、もう迷わない。信じられるものがある」のところだけ見たら無性に殴りたくなって困る。現実でもそうだけど、新しい命がとか未来がどうたら言う時だけラリる人多すぎ。これだから子供が希望扱いされる話って嫌いなんだよ。勝手に期待抱かれて生まれさせられる側にもなってみろ。これはお話だから「子供も生まれたがってる」みたいな話の運び方をされるけど、このスピリチュアルは現実でもガチで信じてる人がいるから厄介。誰かの願いを叶えるために「きっと上手く行く(根拠無し)」とか言われても、そのための努力や代償を払わされるのは当の子供の方。思えばこのシーズンがつまらなく感じるのってテーマが母みたいだからかも。ウィンチェスターはその辺りあまりラリってる感じがしなくてよかった。これで兄弟まで同調してたら不愉快すぎて死んでしまう。キャスがルシファーの子を産まれるべき存在とみなした理由が「誰も苦しまない楽園を彼が創造するから」って言ってたけどそんなの人間が人間である限り可能なのか?「そんな平穏はケツの穴にでも突っ込んどけ」ってS4ディーンの幻聴が聞こえてしまった。
 UKの賢人たちを信じた理由をサムが「自分で率いるより楽だから」と言っていたけど、もしかしてこれから先、サムが人を率いる立場になっていくということ?実際ハンターたちに対する演説はなかなか迫力があった。ディーンが自分は残ってサムを送り出すシーンを見た時、何というか「この二人はもう大丈夫だな」と思えた。怪我のせいもあるけどディーンはディーンの出来ること、サムはサムの出来ることをして、離れた場所にいても信頼しているから任せられるという感じがする。
 最終回で普通の天使の剣なんてルシファーには効かないのわかってるのにキャス何で来たんだよと言いたいけど、ルシファーに直々に殺されるのならそこまで酷くもなかったな。それもS13でちゃんと蘇生されるってわかったから言えることで、死んだ瞬間を見た時は逆に平静だったけどこのまま本当に死んでたらどうしようとこっちも生きた心地がしなかった。キャスが死ぬのは初めてではないけど、次のシーズンでは生きてることを知ったうえで毎回見てるから大丈夫なのであって、リアルタイムなら放心してたと思う。クラウリーが死んでもそこまで悲しくないのは、死ぬことを知ってたのもあるし、最近の小物化が著しかったのと、ずっと地獄の王座に着いたり戻ったりしてるばっかりでマンネリを感じてたから。自分が玉座に向いてないってことにクラウリーがようやく気付いたのはちょっと面白かったけど最後の言葉が「Bye boys」って簡潔な辺りがらしくていい。
 しかしメアリーにクソほど興味がないうえにハンター同士の諍いとか所詮人間だし……と思ってしまってシーズン全体を初見ではほとんど飛ばしてしまった。キャスやルシファーが出るところだけ先に見た。二回目は最初からヒューマンドラマのつもりで落ち着いて見たからそこまで悪くはなかったけど、そもそも超常の存在との関わりを期待して見てるわけだから……化け物が絡まないベベルとケッチの派閥争いとかガチで興味ない。ミックだけは兄弟ともキャスとも違うタイプの良い人で、良心と規則の間で葛藤する姿も良かったから新しい人間関係として期待したけど、良い人だからこそ早々に死んでしまって残念。クソつまんない賢人関係でもミックの部分だけは良かった。もともとは優しい人間だけど疑問を持つことを許されなかったというバックグラウンドがあり、元々優しいからこそウィンチェスターに感化されるという筋道が通ってる。ケッチとの関係も「友達というより生き残った者同士」という独自の関係性で、ミックの失敗をケッチが庇ったりはしない所からも過去があって今に連続しているという感じが出てる。
 ケッチは自身がいわゆるサイコパスだとわかっていて「自分にそういうの(親密な人間関係とか)は無理だ」と言えるキャラなのは悪くないかと思ったけど、結局メアリーに対して特別な感情をもっているから「ハイハイいつもの」と思ってしまった。悪いとまでは言わないけど、なんというか……普通なんだよ……メアリーが洗脳されるのも、その解き方が心の中に入って説得することなのも、ディーンがケッチに殺されるかというところで正気のメアリーが割って入るのも全部普通。捻りが無さ過ぎて何も驚くようなことが無かった。ここでしか見られないものを見せてほしいなあ……。
 特典で「ベベルとミックとケッチの過去エピソードの構想はあったけど削った」と言われていて、そこを削るからあいつらに感情移入できないんだろ!と思った。予算とか人員とか手間とかあったとしても。ミックは過去エピがあったから、兄弟とは違う形で賢人になったからこそ違う価値観をもっているといういう説得力が湧くんだよ。彼らとの関わりがウィンチェスターにどんな変化をもたらしたかってのが薄いし(一応サムにとっては「人に任せるより自分が率いた方がいい」という教訓になったけどそれだけ)アバドンの外の人の過去回でも顕著だけど「過去にこういうことがあった」の羅列でしかなくて感情が足りない。

・クラウリーの話
 特典で「クラウリーは自分に能力が無いと思ってるけどあると思われたい」と言われていたが、少なくともS9辺りまでの策士ぶりは十分実力が伴ってたと思うのだけどいつの間にそういうことになったのだろう。
 確かにルシファーやらカインやらアバドンやらに比べたら純粋なパワーでは劣るかもしれないけど、契約の悪魔として独自の美学をもっていて全然見劣りしていなかったと思う。
 人間性を得た時に悩んだのはウィンチェスターを殺したくないと思っている(仲間を欲しがってる)自分との葛藤であって、まあそのせいで地獄の王としての立場が危うくなったと言えばそうなんだけど、それが「見栄だけの小物」と言い切られてしまうと今までの有能ぶりが無視されているようで嫌だ。
 確かに圧倒的な力さえあれば余計な策略はいらないのだから「能力が無いのが問題」は正しくはあるのかもしれない。しかしクラウリーの「知らないことでも知っているように振舞う」態度はちっぽけな自分を大きく見せるためと言うより、相手を手玉に取る戦術の一つという認識だった。自分が手を出せる領域と出せない領域を的確に見極めるのも実力の一つだろう。それが小物的解釈だけに偏るのは納得がいかない。
 特にダークネスの辺りからだんだんアホ化が顕著になっていくのだけど、悪魔ディーンすら手に負えなかったのにダークネスを制御しようなんて無理なのがわからんのか?というのがアホになったように見えるポイントとして大きい。人間性のせいで失墜した部下からの信用を取り戻すためにデカい一発をかまさなければという考えだったのかもしれないけど。 
 S9の元始の剣の時は、ディーンを友にしても管理するのは自分という気概があった。その時点で人間の血は入っているはずだから、人間性だけが問題ならもうアホ化していないとおかしいけど、その時はまだ狡猾な部分は残っていた。やっぱりロウィーナが分岐点か?サムディンに対して態度が軟化するだけだったら長い付き合いだし家族に関するディーンの助言を受けた恩もあるから納得できるのだけど、権力争いに全振りするならもっと彼は賢いはずだろうと思った。
 そしてさらにS11のクラウリーがつまらない存在になっているのは、10まででせっかく積み上げてきたディーンとの関係の変化がアマラを得たことで振り出しに戻ってしまったからか。しかしたとえ馴れ合い路線を捨てて地獄の王としての道を取ることになったとしても、葛藤の末にそれを選んで貫いてくれるなら寂しいけど面白かったかもしれない。しかし結局アマラはすぐに出て行ってしまうしディーンを殺すこともなくて、数話後には普通に会話してもうただの便利屋になっていて、今までのくだりは一体何だったのか?と思ってしまった。おそらくロウィーナが出て以降、翻弄されるばかりで翻弄することがないからだと思う。
 ルシファーが出張って来ると悪役が飽和してしまうから性質の違いを出さなきゃいけなくて難しいというのはあると思うけど、ルシファーもそんなに頭は良くないと思う。というかルシファーが頭悪く描かれるせいでそれより格が下のクラウリーがもっとアホに描かれるのか?そのルシファーも結局大したことはできずに神上げのための前座に過ぎなかったし。神が最高点だからルシファーはそれより下、クラウリーはそれより下と考えてああなったのかもしれないけど、それは力の話であって頭脳ではないと思う。力で圧倒するルシファーと策略で翻弄するクラウリーで十分差別化できたと思うんだけど……。やっぱ権力闘争のIQがS6やらS7やらアバドンの頃と違うんだよ。いつもならその間抜けに見える態度は演技で、しっかり先を見越したうえでたとえ最後に勝つのがウィンチェスターだったとしても自分の利益だけはちゃっかり得ている男だったじゃないか。

・全体の話
 シーズンが進むに従って演出や設定が安っぽくなってきてるように感じるのは「エリックが当初から書きたかった話はS5まで」という事実を知っているが故の先入観なのか否か。今もエリックが意見は出してるみたいだからやっぱ先入観か?しかしリヴァイアサンあたりから「シリーズを続けるために頑張って敵を作っている」感が出てきてるなとはどうしても感じる。
 エリック総指揮の時は神・天使・悪魔とか父親・兄・弟とかに対して一貫した姿勢があった気がして恋しいとか思ったりする。神や信仰について答えを出したいという内心からの要請?欲求?のようなものってキリスト教圏で育ってない人間にはどうしても理解できない部分があると思うんだけど、私自身「信仰する」ということ自体に惹かれる部分と絶対的に超えられない壁を感じる部分とがあって、エリックの中にそれらに対する確固とした何かがあるのならそれを見せてほしいと思ってS4・S5を見ていた。S4とS5がずっとしんどいのは、血を流しながらも答えを模索する真摯さの副産物みたいなもので、S6~S9とかはそれより全体的に気楽に見れるし私の見たいものを見せてくれるから大好きなんだけど、それ自体にどこかファンディスク染みた雰囲気があるのはS6冒頭から確実に感じていた。ただ私は天使が出てきてからが圧倒的に面白くなったと思っているから、初期の一話完結の狩りや黄色い眼の悪魔だけではそこまで燃えられなかったし、S4を評価できるのもS5でこれまで耐えてきた時間全てが報われる結末を見せてもらえたからで、兄弟がずっと喧嘩して打ちのめされ続ける展開が続くならこんなに好きにはならなかった。実際S4初視聴の時はかなりダレてたし。
 神話を現代ナイズする手法は他の海外ドラマとか小説でもよくやるけど、SUPERNATURALは登場人物が大体くたびれたおっさんだったりみんなチェックシャツ着てたり、上辺の煌びやかさにあまり頼らない泥臭くて地に足が着いた感じが好きなんだよ。特に天使といえば翼なのに、そもそも肉眼では見えなくて容易く見せびらかしたりしないってのが硬派で痺れるし、死ぬ瞬間にそれが焼き付くってのが死ぬほどオシャレで……。最近そういうこだわりを感じる部分が少なくなってきている……と思うのはやっぱり先入観か?

『SUPERNATURAL』Season9~10 感想

-Season9-
 人間化したキャスが最初に出会った天使の人が「その器に私も入ってあなたと1つになる」とか言ってたけどもうほぼ二輪挿しで笑う。ジミーの身体、穴としか見られてなくて可哀想。その人「私が守ってあげる。置いていくならあなたの居場所をバラして同志に殺させてやる」とかすごいヤンデレだったけど、キャスって本人は普通に接してるつもりなのにこういう風に勝手に燃えるような恋情抱かれて最終的に刺されそうなキャラ第一位(このドラマの中で)かもしれない。
 クラウリ―って相手の嫌がるところを的確に突いてきて本当にやだわ。私は悪魔にとって一番必要なのは相手の弱点を見抜く能力だと思ってる。そんな生粋の悪魔が中途半端に人間性を取り戻すって本人にとって悪夢でしかない。しかし暗闇の中に取り残されて目を伏せる仕草だけで、それまでのクラウリーとは何かが違うことを表現するのがすごい。
 "エゼキエル"のためにキャスをバンカーから追い出したけど、たとえ本当にキャスが「迷惑かけたくない」と言ったとしても、いつものディーンなら意地でも一緒に戦うって言って引き留めてるはず。でもサムの命がエゼキエル次第な時点で彼の言うことを聞く以外にない。しかし瀕死のサムの命を天使の憑依によって留めたことを、サムの方には教えたらまた死にたがるから言えなかったのだとしても、キャスにまで隠したのはおかしくないか?それだとあの時は単に「お前が狙われてるからここにいさせられない」と言っただけということ?結構酷いな。
 ディーンが少年の頃に厚生施設で暮らしたことがあると判明する回で、いろいろと制約はあるけど施設に居れば愛情を与えてくれる保護者とちゃんとした生活ができるのに、車にサムが乗ってるのを見て少年ディーンが帰ることを決めるシーンに"""愛"""が爆裂に詰まっててすごかった。微笑みひとつで完璧に表現できている。現代のサムが「どうして戻ったの?」って聞くけど、そんなんサムがいるからだよ!サムにディーンがいるようにディーンにはサムがいるんだよ!
 しかしそういうエピソードを見てしまった後だと、ディーンもサムもキャスやケビンに「お前も家族だからお前のためなら死ねる」と言うけど実際にそうしたことは無いからホントか?と思ってしまう。そこに使っちゃったらお互いに使うぶんが無くなってしまうじゃないか。
 ガドリエル拷問時にあるディーンとキャスの「俺たちは間抜けコンビってこと?」「お人好しという言葉の方が好ましい」って会話が良い。しかし人間が堕落したり神がいなくなったのまでガドリエルのせいにされてて笑う。きっかけはそれかもしれないけど人間が堕ちたのは流石に人間のせいだろ。最終戦争とかもルシファーのせいだし、元はと言えば神が悪の根源としてのルシファーを望んだからそうなったんだし。
 クラウリ―、掛け金全乗せのタイミングが完璧すぎる。ディーンにとってサムの命以上に価値あるものは無いから、それが台の上に出された時点ですかさず「私を自由にしろ」という最大限の要望を出す判断の速さ。
 カインのエピソード聖書と全然違って草。嫉妬が動機だったのにアベルの代わりに地獄へ行った弟想いになってて草。そうすることでディーンと同じ立場にするためだろうけど。聖書ではカインは追放されるけど、神が「私がすでに罰したのだから何人たりとも今後私刑に走ることは許されない」と厳命して、カインは生き残り多くの子孫を残したって話がめっちゃ好きなんで残念ではある。いいけどね。「どうしようもない奴でも神は本当の意味では見限ったりはしない」っていうエピソードだから好き。しかしカイン談の「アベルは神と話したんじゃなくルシファーと話した(talking)んだ」って英語で言ってるのに、吹き替えで「ルシファーに愛された」って言ってて目玉飛び出た。でもその後の「ルシファーは俺の弟をペットにしようとした」は英語もまんまでさらに驚愕。あいつほんと自分と同じ立場の奴好きだよな。でもカインが「弟は天国に、自分は地獄に」って願った時のルシファーどんな気持ちだったんだろう。「理想の兄の姿だ!」って喜んだかもしれないけど、ミカエルはそんなこと言ってくれなさそうだから複雑そう。それにしても「弟を天国に送りたければてめえ自身で殺しな!」って性格悪すぎて笑う。自分とミカエルに重ね合わせて絶頂してそう。
 サムちゃんがガドリエル追跡のために自分が死ぬことになっても良いとでも思ってそうな態度でいる理由が、まだ自分に価値が無いと思って犠牲になることで綺麗になろうとしていたからで「まだそれかよ」と思ったんだけど、そういえばS8の儀式達成できなかったからその心理が継続してたのか。だから災厄の元で役立たずの自分は死ぬべきだと……。一つでも正しいことをして死にたいと……。
 ガドリエルを憑依させた件でまたしても仲違いした二人が久しぶりに会って完全に仲直りする流れだと思ってたらサムさんが「もう元には戻れない」とか言い出して驚愕した。おまけに「兄弟関係は抜きにする」とか、お前らから兄弟取るって、兄弟だからこうなんだし兄弟じゃないお前らなんてお前らじゃないよ!?「目指す方向が変わってる気がする」ってディーンはブレてないだろ!いつだって一番に考えてるのはサムを死なせないことだけで、世界を救うのは二番手だろ!S5の最後はディーンがサムの意思を尊重しようと最大限に努力した結果で、それでも檻の中から出す方法を探してたんだし……。
 わりと忘れてたけどサムちゃんもしかしてS5の頃言ってた対等云々を気にしてる?弟だと思われるからいつまでも守るべきものとして見られるみたいな?一人前として、ハンターの相棒として頼りにしてほしい的な?ディーンにとって家族認定は最大の賛辞だけどサムにとっては庇護対象として見られて不服ってこと?いつもの言葉と態度だけ見れば単に鬱陶しがってるとしか見えないから、ディーンが自分の価値をどん底に見積もるのもわかるわ。だって「兄弟抜きで」なんてディーンからしたら死刑宣告みたいなものよ。サムまさかそれに気が付いてないのか?逆にすごい。「兄弟抜きで」のシーンを英語字幕で見た感じ、「今は家族じゃないって?」というディーンの問いには流石のサムでも言い淀んでた。でも「僕が言いたいのは家族だからで何でも解決した気になるんじゃなくて、仕事の相手として見てほしい」みたいな感じなのは間違いない。「ディーンがそれよりも兄弟でいることを期待するなら一緒にはいられない」みたいな。でも少なくとも試練を中断したときはお前も納得してたのに、そのことでディーンを非難するのはおかしいだろ。しかもその後「僕の言ったこと引きずってる?」とか「正直に言っただけだから」とか追い打ちかけてて鬼か?
 それだけでは飽き足らず、「サムを救うのはサムのためじゃなくディーンのため」疑惑、もはや九割方わかってたことだけどついにサムが言葉にしてしまった。「僕なら助けない」って鬼か?
 クラウリー「お前らのDNAの依存症になって苦しみと重荷を背負った」って何?中途半端に人間の血が混ざったせいで依存症になった?から定期的に人間の血を取らないとおかしくなる?もっと人間性と悪魔の性質との間で葛藤するシーンが見たいとか思ってたら一気に壊れ始めてびっくりした。しかも何その距離感。酔っぱらって電話してくるのはもう友達なのよ。S8終盤までの敵対ぶりが遠い昔のようだ。
 クラウリーがやけに二人に対してすり寄ってくるのはむず痒いんだか不気味なんだか形容しがたい感覚だったけど、元始の剣と同調するディーンの様子を冷静に観察する表情には「やっぱこうでないと!」と思った。いつもの容赦の無さがあるからこそのギャップ萌えだから。
 サムから出た後に捕まったガドリエルがディーンを散々に罵る内容「一人になるのが怖いガキ」はサム自身がほとんど同じこと言ってたし、「父親の愛情が足らなかったからか?」ってガドリエルがダッドのことまで知るわけないんだからこれがサムの考えってのはたぶん本当だと思う。そんなことを弟に冷静に分析されてるなんて嫌すぎる。
 クラウリーが息子を守るために兄弟を売ることにしたのかと思ったら「ポキプシー」って言った時の衝撃はすごかった。アバドンを倒さなきゃいけないとはいえ、友達か?
 テッサ(=死神)が天使の一員みたいになってたけどそんな設定だった?エイプリルもなんか「この子もすぐに同意してくれた」とか憑依みたいなこと言ってたけど死神って憑依だっけ?
 メタトロンはクソだけど「最後の日にカスティエルが優先するのは自身とそこの兄弟だ」は結構的を射てる。仲間を助けたい気持ちも本当だけど、絶対にどちらかを選ばなければいけないとしたら……。
 カスティエル、やっぱりディーンを選んだ。ディーンを殺したら今までの何もかもを踏みにじることになってしまうから当然だと思う。サムと飛躍的に仲良くなっても結局カスティエルにとって絶対的な存在はディーンなんだなあ。
 メタトロン嫌いだわー。こういう俯瞰気取ってその実名誉に飢えてて自己評価だけが異常に高い奴嫌いだわー。神に成り代わろうとするのも腹立つ。愛が無いじゃん。みんな神にいろんな不満をもってるけど、それは結局神を愛してるからこそ出るものなのにコイツは誰のことも愛してない。人への憐れみとか愛のためじゃなくて自分が目立つために人を助けるパフォーマンスに反吐が出るわ。キリスト教の憐れみの概念(相手を見下す哀れみではなくてただ慈しむこと)が好きだからムカつく。
 ディーンがメタトロンに刺された時に「俺が死んでも平気じゃ?」にサムが「嘘だよ」って返すんもう私はわけがわからなかった。ディーンが「自分でも死ぬべきだと思ってる」のはあの時のサムと完全に同じなのにサムは抗っている。じゃあそもそもなんで「僕なら助けない」なんて言ったのか?嘘だよって何?なんであの場で嘘つく必要があったの?ただの強がり?いざ現実に目の前にしたらそうじゃなかったと気が付いた?(S10でチャーリーにこの時のことを話してたけど、「ディーンのやり方が頭にきてつい傷つける言葉を言っただけ」だって??マジかコイツ。それが本当なら的確にえぐる言葉を選ぶ能力がありすぎる。)ディーンの「どんな結果になっても(たぶん俺がどうなってもの意味)メタトロンを殺す」に「わかってる」と返してたのに、本当にディーンが死んだら悪魔と契約して戻そうとしてて「結局戻すんじゃねーか!お前いい加減にしろよ!?」と半笑いになってしまった。ディーンが説明しないとか一人で行くとか言うようになった理由は刻印もあるけど、お前が「家族と思うな」とか言ったのも絶対入ってるからね!?
 そしてクラウリーがいつのまにかディーンにかなり懐いていてちょっと困惑した。血を入れたのはサムなのに、助けたり呼ばれたりするのはいつもディーンの方だし。ディーン好かれるようなことなんかしたっけ?クラウリー初登場回のサムはルシファー復活の責やら悪魔の血に飢えてるやらで、悪魔と見れば誰にでも噛みついて隙あらば殺そうとする坊やだったから嫌うのはわかるけど今も?(見返してみたら、ディーンはカインの剣の辺りから何だかんだ「クラウリーなら人質は殺さないだろう」とか言ったり、「剣さえ手に入ればクラウリーは用済みだから殺していいよね?」と言うサムに対して妙な間を空けたりしててちょっと情が移ってた?みたいだから、サムにはそういう傾向が全く無いから嫌われてるのかもしれない。)サミーが彼に人間性を取り戻させたんだから出来ればディーンとだけでなくサミーとだけに発生する関係も欲しかったけど、サミーからクラウリーへの態度が頑なすぎて取り付く島が無かった。ディーンがクラウリーに甘いのはやっぱりサム無しの時に一緒にいてくれたからなのか?でも呼び出すときはいっつもサム無しの時だけで、サムと合流すると速攻で捨てられるから都合のいい男感がすごい(これはキャスもだけど)。
 最終的にかなりガドリエルが好きになった。ガタイが良くて寡黙で実直、そして過去の所業に苦悩する姿が良いし、クソ上司でも一度誓ったら身を挺して庇う忠誠心も、敵に対してでも最低限のモラルをもつべきだと思ってるのも良いそう言ったから」じゃなくて「自力で戦えないものを守る」というところまで明言した天使は初めてだし。罪人ではなく名誉ある者として皆に覚えられたいという願いを最後まで抱き続けたこともかなり効いた。死ぬ前の英語台詞は全シーズン通しても指折りの名台詞だと思う。 
 
 クラウリーが人間の血を得て急に良い人になるのではなく、今までの彼らしさを残したままで少しの表情や態度で彼の中のゆらぎを表現するマーク・シェパードの演技が素晴らしかった。状況を裏で掌握する悪魔としての振る舞いと、仲間が欲しいという人間としての振る舞いの配合が絶妙だったからこそ「良心の芽生え」なんて安っぽくなりがちな展開でもクールに纏まっていた。「クラウリーは知っていても言わないし知らなくても言わない」と特典でマークが言っていたけどそこが良い所だと思う。常に策略を巡らせて自分が優位に立てる瞬間を見逃さない所。
 特典を見て初めてわかったんだけど、今期のテーマはグレーゾーンなのか。人間性を獲得したクラウリーと非人間的になったディーンが近い位置に立ったということだったのか。サムは最初からグレーの領域にいたキャラだし、キャスも天界と人間と自分が犯した罪の間で常に迷ってるキャラだし。

「何が正しくて何が間違ってるか」が今期のテーマなら、メタトロンの言い草から彼の性根が腐っているとガドリエルが感じ取ることが出来たということが、規則や命令が無くとも「本当に正しいこと」を直感的に理解することは可能だということを示しているのではないか。それはいつでもわかるわけではないし、善悪の基準は色々あって一概には言えないが、極限状態の時最後に信じるべきなのは「自分の内なる声」ということかもしれない。そういえばキャスが軍隊よりもディーンを取ったあの場面も「大義よりも一人を取る」行いという点でディーンの選択と同じだ(タイタニックの時と石板の時とこれでもう三回目だから気づかなかった)。ディーンを罰することが「正しい行いだ」とわざわざハンナに言わせていることからも、それでもキャスの内なる声は「それは違う」と叫んでいるということではないだろうか。それが大多数の人にとっては罪にしか見えないものだったとしても、究極的には自分にとっての最善を探すしかないということではないか。

・ディーンとサムについて全体的な話
 ディーンはサムがいない時、空いた相棒の位置にすぐ別の誰かを座らせるように見えるが、なぜそれが出来るかと言えば誰がそこに座ろうがサム以上に大切な存在にはならないからだ。彼には「サムかそれ以外か」しかない。さらに言えばサムがその席に座り続けてくれるという期待もしていない。サム自身が選んでそこにいてくれるなら最高の幸福だけど、いないならしかたないと思っている。ディーンがサムに期待しないのは何と言っても前科があるからで、それが「昔の過ちだった」で済まされないのは、紛れもなくサムの本心がそうさせたのだと理解しているから。ディーンが「他の何を捨ててでもここにいてくれ」と言えないのは、サムが自分たち家族より普通の生活を優先したあの時のことがいつかまた起こるという予感を持ち続けているから(サムはガドリエルが憑依して間もない頃に「今まで生きてきた中で感じたことがないくらい今が幸せ」と言っているけど、あれだけ普通の生活に固執してるのを見てきたんだから「嘘こけ」と言いたくなる気持ちもわかる)。
 ディーンはサムにとっての一番が自分でなくても構わない(たとえ心の底では望んでいたとしても)けど、サムはディーンにとっての一番は自分でないと嫌なのが基本の形なのかもしれない。ただ問題の根本はディーンの「心の底では望んでいる」の部分な気がする。素直に弟の幸せを祝福するだけの健全な距離感だったなら何の問題も無かったのに……。願いが叶わなくてもそういうものだとディーンが諦められるのは、そうするより他になかったからで、期待と絶望の循環を繰り返すのは苦痛だからだんだんと諦めが身についていく。
 二人の関係は複雑だけど、アメリアの件でディーンが「俺よりも女を取った!」と激高してたのは誇張無しの事実で、その後「お前は幸せになってもいい」とか殊勝なことを言いながら、サムが最終的に彼女より自分を選んだことに内心では喜んでいる部分があるのは間違いない。
 特典も含めて色々見返してわかったんだけど、サムは世界よりも優先されてしまうこの執着の根源が「兄弟」にあると考えたから、自分たちが変わるためにはそこを見直さないといけないと判断したということらしい。それ自体は筋が通ってると思うし、サムを救ったせいで未だに世界中で悪魔による犠牲が出るままになっていることも、サムの意志を無視して救うのが自分勝手というのもわかるけど、結局サムの方もディーンが死ぬ時に有言実行できなかったからその問題は解決していない。サムとしてそれはいいのか?
 サムは兄弟として見なければ二人の歪みは解決できると思っているようだけど、ディーンにとっては兄弟がいないということは自分が世界を守るための単なる機械になるということと同義。なぜならディーンの人間的な部分は家族への感情が担っているから。私としては「所詮一人間に過ぎない者が家族を大事にするのはそんなに罪か?」とどうしても思ってしまう。本物の英雄になるためには自分の家族すら単なる物の数として扱えなければならないってどこの切嗣?英雄である前に人間なんだし、自分の家族だけはノーカンと開き直れるぐらいの方が精神的に健全じゃないんだろうか?

-Season10-

 サムが悪魔ディーンを捕まえるのに手錠を持参していたが、弟が兄に手錠をかけて引き回す絵面を想像すると倒錯性が酷すぎて笑える。しかしサム、ディーンが「当然の報いだ」と言ってるのに気にしないとか言っててお前前回までは……この野郎……。
 前期ですっかりディーンに懐いたのに結局振られたクラウリーがディーンとの仲良さげな写真を持っててびっくり仰天よ。なんでそんな悲しそうな顔で見てんの?揶揄とかじゃなく彼氏と別れた人の反応だよそれは。いつの間にそんなディーン好きになったの?やっぱ友達欲しかったのかな。二人で地獄を支配して毎日パーティみたいなの本気でやりたかったの?配下の悪魔にディーンのことを日本語字幕で「愛人」って言われてたから英語字幕も見たら「boy toy」でそのまんま「若い男の愛人」だった。確かにそうとしか見えない。わがまま放題されて形だけは叱るんだけど、強制力は全く無くて振り回されてるだけなところとかそのまんまだし。部下からしたら上司が人間ごときに監禁されて自分も人間になりかけたあげく血依存症になり、次はアバドンにも捕まって長く音信不通になり、やっと玉座に帰ってきたと思ったら今度は人間一匹にどつかれて反撃できないほどの威厳の無さなのは仕える対象として不安だろう。
 ディーンが今まで何をしても捨てられなかったサムへの執着を、悪魔になることで初めて捨てられたんだとしたら、2割くらいは喜ぶべきなのかもしれない。でも悪魔期結構すぐ終わったから期待してたぶん肩透かしかも。悪魔の時のディーンの発言をサムは「本当のディーンじゃなかった」とは言うけど、「お前が生まれなければ母さんは生きてた」は一度くらい思ったことはありそう。女とヤッてるのはいつものことだし(礼儀はほとんど捨ててたけど合意だったし)、カラオケ好きが増幅したのと暴力衝動を抑えなくなったぐらいで、そこまで壊れた感じは無かったな。一番の違いはサムを殺すことに躊躇が無いことぐらいだけど、でもそこがディーンにとって一番重要なのか。メタ的に考えると、ここで無茶苦茶やらせちゃうと元に戻った時に取り返すのにも限度があるからさせられなかったのかも。
 二人と離れてハンナと行動するカスティエルが「混沌から生まれるものは悪いものばかりじゃない(愛とか希望とか)」と言ってたけど、天使は器に入って初めて人間のような感情や感覚を得られる以上、「それらは人間のものであって天使のためのものじゃない」というハンナの意見は一理あるかもと思った。
 ロウィーナの登場でクラウリーのガチでかわいそうエピソードが増えてきた。例の「俺は愛されたい」の源泉ってここか。でも親子関係って人類において一番普遍的な呪いかもしれない。クラウリーって名乗っても頑なにファーガスって呼び続けるとことか親の一番嫌なところ出てる。たとえ何百年経ってて忘れたと思ってても、目の前に立たれると一瞬で親と子の力関係が固定される感じ。子はどんなに憎んでてもどこかで「もしかしたら」という期待を抱いてしまうものだけど、毒親の方は何が問題なのか永久に理解しないという現実を思い知るだけだから、極力会話なんてしない方がいい。喋れば喋るほどクラウリーの願望が漏れてきちゃってる。「数百年も放っといただろ」は「そばにいてほしかった」の意味なのよ。
 クラウリーがディーンから要件も無しに「今すぐ会いに来い」って言われただけですぐ飛んでっちゃうのもう好きじゃん。心なしか嬉しそう。「飲み会の誘いかと思ったら……」があながち冗談にも聞こえなくなってきた。二週目を見返してみてわかったけど、やっぱ地獄に信頼できる人がいないから本気でディーンを相棒にしたかったのに、悪魔ディーンがあまりに言うこと聞かないんで泣く泣く諦めたんだ。S4やS5のときはおじさんキラーだったのにすっかりディーンに骨抜きになっちゃって……。
 しかし母ちゃんの言いなりになるキングなんて嫌すぎる。統治者とか名乗って恥ずかしくないのか。暴君だとしても自分の価値観に沿ってやるならこんなんより何百倍もマシだわ。アバドンと争ってる時は契約の悪魔としての誇りがありそうな雰囲気だったからかっこよかったのにどうしちゃったの!?と思った。母ちゃんと対峙してる時のクラウリー完全に顔が死んでる。いつもの軽さと上品さと毒気がさっぱり見当たらない。
 ディーンがカインを倒した後に剣を渡すと思わせておいて渡さない所、何度見てもクラウリーかわいそうすぎるいろいろ含みがあるとはいえ「ディーンに生きて帰ってきてほしい」って気持ちは紛れもなくあっただろうにかわいそ!これは過去の行いが悪いんだけど「ウィンチェスターはどうせ裏切る」と母親に吹き込まれた後で、それでも信じたいと思う気持ちがあったから来てくれたんだろうに……かわいそ!いやディーンの方は終始「お前は仲間じゃない」と表明してたんだから、クラウリーの方が勝手に期待してただけなんだけど!なんで当のディーンよりクラウリーよりキャスの方が悲しそうな顔してんだ?良いやつか?
 その後母親にディーンを殺せと言われたクラウリーとディーンが穏やかに話してる図というか、クラウリーがディーンに心理的に寄りかかってると言ってもいい状況だけでも感動するのに、ディーンが言う「血縁だけが家族じゃない」の重みで泣いてしまう。「家族はお前が何もできなくても気にしてくれる。良い時も悪い時も支えてくれる。時に傷ついても。それが家族だ」が明言すぎる。それをずっと身をもって実践してきたディーンだからこそ尋常じゃない説得力がある。そう言いながら思い浮かべてるのがサムやボビーやキャスのことだと思うとほんとに泣ける。しかし「昔のクラウリーなら地獄の猟犬や悪魔を山ほど引き連れてきたのに、今は戦わずに話し合おうとしてる」ってほんと、ほんの2シーズン前なのにその頃が遥か昔のことに思える。でもロウィーナを生かしておく理由があるって本当に「家族だから」だけだったのか。意外だ(見返したら「俺が丸くなったっていう母さんが正しいんじゃないかと思ったから」とも言ってた)。
 メタトロンを天界から連れ出す回はボビーの久しぶりの登場だけでも十分嬉しいのに、ディーンが自分の命を諦めてると聞いてすぐさま「諦めない」って選択が取れるのも泣ける。その前にキャスが同じく諦めないって言うのも泣ける。
 サムとキャスが組むと和むけど、穏やかそうな顔してブチ切れたら何してくるかわからない怖さがある。この二人の方が性格的には近いから喧嘩もせずに堅実にやれる気がするけど、喧嘩しないってのは互いに対する情熱も薄いってことだから、ディーンに対するみたいには2人ともならない。似た者同士よりも全く違う存在の方が惹かれる度合いは高いから。結局こいつらは三人でいるのが最良の状態ってことになってしまう。
 クラウリーが母ちゃんよりウィンチェスターを選んでくれて(本人は「俺を選んだだけ」って言ってるけどね)本当に良かった……!ヒヤヒヤしたわ!ロウィーナのシーン長くてずっと不快だったけど今までの忍耐が報われた……!「俺を生んだかもしれないが、母親じゃなかった」にディーンの言葉が響いてることが含まれてて泣ける。さらにボビーからサムへの手紙なんてこんなの泣くなって言う方が無理。ありがとう……。「ディーンは時々頑固だが、わかってくれる」もすごいけど、色々前科のあるサムに対して「お前が何を選んでも正しい道だと信じてる。お前は善い人間だ。誇りに思う」って言い切れるのがすごすぎる。二人を心から信じてくれてるのが全ての文面から伝わってくる。「血縁だけが家族じゃない」の体現者。
 呪われし者の本の回でのチャーリーとサムの会話メモ「①ディーンと行動し始めた頃は、いつも『この仕事で最後にして法律の勉強に戻るんだ』って考えてた。それなのにジェスを失ってからもずっと『もう一度だけ』『もう一度だけ』と言い続けてこうなってた。②でも今はこれが自分の人生だと満足してる③でも兄貴無しではこの仕事は続けられないよ」これらを総合すると、兄貴込みの人生に満足してるけど、兄貴が死んだら……死んだら……何?人生の目標を見失う?「狩りをする人生には兄貴がいないと狂ってしまう→他の女性と一緒になるなら狩りも一緒に辞める」ってことなの?兄貴と狩りは常にセットだから、兄貴と狩りor普通の生活ってこと(でもそれだと「生活は違っても狩りは一緒に」の説明が付かないな)?
 S9の最後でキャスが「一人の天使で居たい」と言ったけど、メタトロンの言う通り今のキャスはどっちつかずだ。地上に自由を求める天使たちを天国に連れ帰る任務に協力しているが、前はカスティエルこそがその「自由を選んだ」筆頭だったはずだ。その彼が説得するのは「お前が言うな」と思われても仕方ない。今もそれと並行してウィンチェスターに協力している。結局キャスは何がしたいのか?というのは当然の疑問。別に必ずどちらかを捨てなければいけないことも無いと思うが、キャスはメタトロンの言葉に明らかに動揺して、言い返すことも出来てなかった。
 呪いの本を焼けたということにして隠していたうえにディーンに内緒でロウィーナに協力を仰ぐという驚きの行動にサムが出るが、なり振りかまわない時のサムってディーンより遥かに手が付けられない。S9のドライっぷりは何だったんだ。いやでもS3の時もこんな感じだったわ。自分が死ぬときはあっさりしてるのにディーンがいざ死ぬとなるとこうなるのか。サムがロウィーナのことを言わないのは、止められることが目に見えているからなのはわかる。ディーンの中ではサム>>>大義>>>自分で、サムの中でもディーン>>>大義>>>自分。同じはずなのに何でこんなに嚙み合わないのか?答えは二人ともが「自分には救われる価値なんてない」と思っているから。
 チャーリーとキャスとサムが順に「ディーンのために」って唱えるのがそういう秘密組織みたいで笑う。ロウィーナも言えよみたいに目配せするのも笑う。本人が死んでいいと言ってても死なせたくない、つまり「救うのは自分のため」って過去にサムがディーンに言った言葉がそのまま返ってきてて皮肉だ。
 チャーリー死んだの普通に悲しい。ディーンが怒るのはもっともすぎて何も言えない。「お前が死ぬべきだった」という言葉も弟命のディーンらしくない言葉だけど、危険を冒させた側が代償も払わずのうのうとと生きてるのはおかしいからごもっともと思う。ウェルテルの箱回の「ディーンの命を救うために無関係の人間を何人殺すの?」という問いかけは正しい。今期今までで一番暗いかも?
 S10のテーマってもしかして家族?しかも出てくるのは割とクソ家族率が高くて「こんなのに比べれば僕とディーンはかなりマシ」みたいな方向に持ってこうとしてる?そういえば天使も名目上は家族だったな。今回は珍しく敵が人間だけどスタイン家も家族だな。自分が独りにならないために相手の意志を無視して救い合うサムとディーンは、果たして「辛いときに支え合う家族」と言えるのか?
 カイン殺しのときに期待するだけバカだったとわかったはずなのにディーンの電話1つで来てくれるってクラウリーどんだけディーン好きなん?「善い行いをすればもう一度何かを感じられるかもしれないと」!?何かって何!?それは感じられたんですか!?ただ、サムの言う通り今までの数百年にやってきたあらゆる悪事がたかが数年の善行で帳消しにはならないと言われたら確かにその通り。クラウリーが久しぶりに赤い眼を見せて「本来の自分を思い出した」ってのは、殺されかけたわけだしそれなりに真実味があったんだけど、それでもサムを殺さないんだ?殺さない理由ある?
 刻印がディーンを生かし続けるせいで何世紀と生きることになった場合、サムたちはディーンより先に死ぬのでその堕ちた姿を見続けなくて済む。しかしキャスだけは天使なので、たとえ何世紀経とうがディーンを見続けることになる。その発想は無かった。見ないという選択肢は存在しないらしい。
 クラウリー、殺されかけたのに言葉でお願いするだけで協力してくれるなんて優しすぎか?だって命を差し出せとか拷問させろとか大切なものを殺せとかに比べたら、表面上の言葉なんて一瞬我慢すればいいだけだからいくらでも言えるよ。「本来の自分」はどうした?しかしキャスが困ってクラウリーに助け求めるのも驚きだけど、過去の事を考えたらあり得る選択肢か……。でもS6では天使として一方的に命令するだけの関係だったのに……変わったなあ。
 最終話で次シーズンの設定唐突に生やしてきて笑う。ダークネスって語感が急に遊戯王
 ディーンを隔離空間に幽閉するだけじゃサムが探しに来てしまうから、サムにも同時に死んでもらわなきゃいけないってこと!?どっちかが死んだら残された方が無茶するっていう循環だから、同時に死ねば解決じゃん!とは薄々思ったことはある(しかしサムがその気になれば異空間にまで来ると思われてるの地味に評価高くて笑う)。
 オスカーの登場によってクラウリー可哀想ポイントが最高値を記録した。母親が「誰も愛せない」なら自分が悪いんじゃなかったことになるけど、「俺意外に愛せた者がいた」なら自分じゃダメだったってことになる。こんなに酷いことあっていいのか?キャスなんか「ロウィーナの愛する者」で真っ先にクラウリーを思いつくくらいにまともなんだぞ。本当の地獄ってこれ?今のところロウィーナを好きになれるところが一個も無い。
 サムが自分を含めて「善い人間だ」と言い切れる日が来たのは喜ばしいことなのに、状況が悪すぎて全然喜べる空気じゃない。ディーンに滅多打ちにされて「僕は絶対に言わない」って何かと思ったら「ディーンの本質が良いものじゃないなんて」!?「いつか戻れる日が来たらこれが道しるべになる。きっと思い出せる。何が善か。何が愛か」なんかこれ聞いた瞬間もうサムに対する今までの些細な不満とかどうでもよくなった。自分が殺されるって時に最後までディーンの心配して……信じてくれてる。ディーンが言ってた「たとえ傷ついても、いつも支えてくれる」まさにその通りの姿じゃないか?
 私は実の所、S9までは2人の関係に対してそこまで深刻には思ってなかった。でもS10が終始じっとりと纏わりつく闇みたいな空気だったせいで「いつのまにか戻れないほどの深みに嵌ってしまっていた」ことに気が付いたような感じ。今までそんな風に感じなかったのはサムがけっこう平然としてたからで、サムがおかしくなるとこの二人はもう行くところまで行ってしまうことがわかった。何というか、互いの鎖を引っ張り合って縛り合ってる状態?サムの方も世界や相手のためじゃなく自分のためにディーンを救おうとしてることが確定してしまったから、それも愛……の一種なんだろうけど、純粋な気持ちとは言えなくなってしまったなとか。サムがクレアに「死は永遠の別れじゃない」と言ってたけど、それも場合によっては呪縛と言えるんじゃないだろうか。黄泉返りできたり天界の魂と交信できたり天国でも魂同士で会話出来たりする世界だと、完全な無にはなれないから完全な開放も無いってことで……。もし死が永遠の別れだったなら、サムとディーンの関係は少なくともこんな風に拗れてはいなかっただろう。戻す手段があるからこそ未練を断ち切れない。

  今期のテーマも前期に引き続き「何が正しくて何が間違ってるか」だとするなら、サムディンの根本は「家族」にあるけど、他のろくでもない血縁関係の例(ロウィーナとクラウリー等)を見せることで「家族は血縁だけじゃない」に繋げた(これ自体はアダムの時点で示されてたし、ボビーやらキャスやらを家族認定してる時点で割と今更な気がする)。そして前期では非情なことを言っていたサムも結局「家族」をやめることはできなかったし、またしてもディーンは世界よりも弟を取った。「互いを救うために大勢の人を犠牲にするのは正しいのか?」という問いを二シーズン通して続けてきたわけだけど、ディーンがサムを殺さなきゃいけないという時に家族の写真を見て「これが正しいのか?本当に?」と自らに問いかけて導き出した結論が「違う」だとしたら、それが真理ということかもしれない。 

『SUPERNATURAL』Season6~8 感想

-Season6- 
 サムの魂を戻すか戻さないかに関して、肉体のみとはいえ本人が要らないと言っているのにディーンの「お前には魂が必要だ」っていったい誰のために?とは思った。「失敗したら吹き飛ぶのは僕の命と人生」というサムの言葉は圧倒的に正論なのに、それでギャンブルすることをためらわない辺り、必要なのは「ディーンにとっての愛すべき弟」ではないか?S5でザカリアが二人のことを「性欲面でまで依存し合ってる」と言ったのは、あの二人がいかに堕落していて信頼に値しない存在かをアダムに吹き込むためだけど、性はともかく共依存であることは間違いない。
「ハンターと家庭、どちらかしか手に入らないなんて思わないで」とリサさん言ってたくせに、やっぱり全然両立出来てなくて笑う。実際いつ帰るかもわからないし、知らないうちに死んでるかもしれない男を待ち続けるなんて無理だから仕方ない。しかし「サムが来た時、もう無理だと悟った」と言うリサさんはかなり察しがいいと思う。ディーンの「普通の生活」とはサムがいないという前提でかろうじて成立していたに過ぎないから。
 爺サミュエルを信用しないことに関してディーンが「血縁だけでは家族とは言えない。努力がいる」と言ってて、アダムが似たようなことを前に言ってはいたけど、ディーンの口からそれを聞くのはすごい。圧倒的成長を感じる。魂が戻ってからはサムとの関係も一方的に心配したりされたりではなくなってきて、全体的に落ち着いた感じになってる。
 サムを檻から出したのキャスだったのか!しかも「困難だったが、私には使命感と確信があった」としか言ってないからクラウリーが一緒だったかはわからないけど、全部クラウリーのせいにしてて笑う。普通に可哀想になってきた。キャスの言う「最終戦争を止めるために払った大きな犠牲」ってまさかサムのことか?神の定めた運命が覆されたのが人類始まって以来初だったのもすごいけど、キャスが二人に肩入れするのは「自分の意志で戦うことを教えてくれたから」という純然たる個人的な理由で!?役割が全ての天使がそんな個人的な動機で「使命感」とまで言ってるってことは、普段ぶっきらぼうだからわかりにくいけど、キャスのウィンチェスター兄弟に対しての感情って実はとんでもなく巨大なんじゃ……。天使独特の感性があって人間のことを完全には理解してないし、「まだ打ち解けたとまでは言えないかな~。でもこうやって徐々に仲良くなっていく過程が見られるのもいいかな~」とか思ってたら……。「状況が違ったならここにいたい」というセリフを微笑ましく思ってる場合じゃなかった。その言葉の裏にどれだけの感情が秘められていたのか。思い返せば、本当に嫌ならいつでも飛んで逃げることできるのに渋々でも付いてきてくれるし、困った時に使えるドラえもん扱いされてるのに怒らないな~とは思ってたけど、まさか最初っからそんな感じだったとは……。
 ディーンが直感ではキャスの言動を怪しいと思ってるのに健気に信じてるの好き。さすがボーイズラブの才能がある男。
 キャスとクラウリーは煉獄を開けたいという利害の一致で協力してるけど、キャスにとっては絶対的にウィンチェスター>>>>>>クラウリーなのでクラウリーの部下は殺していいの笑う。思ったよりずっとウィンチェスターガチ勢か?だって煉獄の魂を欲するのも、ラファエルに勝つのも、延いては天界と人間界の秩序のためなのに、それよりウィンチェスターの方が優先度高いってことになってしまう。キャスがディーンの幸せを壊したくないと思ったり、保身のために嘘をついたり……。「ウィンチェスター兄弟を守るために仕方なく」と言いながら「自分を守るためか?もうわからない」ってところ最高だった。
 神がキャスを戻したという事実が、望むと望まないとに関わらず「神に選ばれた存在」という印籠として機能してしまう。キャス自身にも「自分は優れた存在だ」という気持ちがあって、そこまで自惚れてはいけないと思っていても「神の意志」という誘惑には抗えない。
 いやディーン、相談してればって言われても……ラファエルを倒すほどのパワーをお前らがどうやって?ミカエルとルシファーを封印したんだからと考えられなくもないけど……。クラウリ―に会えば間違いなく兄弟が負けるとキャスが確信してるのもまあ……2人を信じてないと言えなくもないけど……。しかし噓がばれたときにキャスが咄嗟に「サムを連れ戻したのは私だ」って言ったのは「君たちのために尽くしてる」アピールだったんだろうけど、「隠し事がまだありました」宣言になっちゃってるの泣ける。こっそり会話を聞いてたこととクラウリ―への道を潰してたことしかやってないのに(あとタイタニックの件もか)、一つ疑われると他の何もかもが悪し様に受け取られるの笑うしかない。
 しかし煉獄を開けたらどうなるかまではまだわからない(イヴに倣って怪物がわさわさ出てくるとサムたちは思ってるのか?)のに、ただクラウリーと組んでるってだけでそこまで詰める?と疑問に思わなくはなかった。お前らもあいつの力を借りてルシファーを打倒したんだから、この時点で「裏切り」は言い過ぎなんじゃないか?
 クラウリ―、あんな扱いされたのに本当にキャスを助けに来てくれただけ?実はいいやつか?ボビーの魂を「最善の努力」と言って返したがらなかったのは狡猾だけど、実際働きに対する対価であって、願いは叶ってるのに払わないで済ますのはどうなのと思わなくもない。悪魔に対して公平にとか考える時点で甘すぎるのかもしれないけど。
 ディーンは悪魔と取引して今までよかった試しがないからやめろと言ってるんだろうけど、「でもお前らは結果的に生きてるじゃん!」と言いたくなる気持ちもある。前にサミュエルに対して言った「死んだ人間を戻すべきじゃない。悪循環になる」は正論なんだけど、もしもう一度サムが死んだらディーンは戻さずにいられるのか?リサと生活しながらもサムを地獄の檻から戻す方法を探してたみたいなこと言ってたし。
 ディーンの「サムの次にもっとも家族に近しいのはお前とボビーだ」って台詞やばい。ディーンの家族認定ってつまり「お前のためなら死ねる」だぞ。何を引き換えにしても惜しくないって意味だぞ。これ以上の光栄ある!?しかしキャスがこんな短期間でボビーと同格なのすごい。でも「兄弟のように思ってる」まではいいとして、「俺がやるなと頼んでるんだからやるな」はなかなかのパワー理論。その前に「理屈は抜きにしよう」とか言ってるし……家族論でゴリ押しだ。ディーンにはそれで充分なんだろうけど割と無茶苦茶で笑う。でも「お前も家族だ」と言われた瞬間にキャスの伏せていた目がパッとディーンに向けられるのはめちゃくちゃいい。この頃のキャスの根幹として「自分は天使で、ディーンは人間だ」という意識があって、だから自分が何とかしないとと思ってるのかな。自分が兄弟のガーディアンであっても逆は無いと。
 普通の家族って何なんだろう。結局一緒にいても離れても狙われるんだから全員でハンターになるしかないんじゃないか。ジョンが問題だったのはハンターだからじゃなくて、言葉足らずで半分病んでて性格的に子育てに向いてなかったせいだろう。
 キャスが何もかも知ってることがわかったうえでS6を見直すとやばい。コイツ……いけしゃあしゃあと嘘を……!戦争で忙しいのは嘘じゃないけど、本当は会いたいのに二人に会うとボロが出てしまうから来なかったのか。サムに魂が入っていないことにいつ気づいたのかは描かれてないけど、復活した直後に呼び掛けたのに一度も来てないってことは最初から気づいてたということでいいんだよね?気づいてなかったとしたら最初の確認ぐらいはすると思うから。本当に内戦のせいで確認する暇がなかったという線もあるけど。でもサム復活時の様子からして、ディーンのいる家に送り届ければ当然会うだろうと思ってたらなぜかサムが背中を向けて行っちゃって「あれ?なんで?」って思ってる顔に見える。なんか変だけど人間の感情はよくわからないからと思って放置したのかもしれない。
 兄弟を従えるクラウリーのシーンを改めて見ると、本当はできないことがわかってても「サムの魂を出せるのは私だけだ」と言い切ることでディーンを釣る作戦能力と演技力に感心する。クラウリーやっぱ頭いい。キャスがクラウリーに命令し、クラウリーが兄弟に命令する。しかしキャスは兄弟のドラえもん。複雑な関係だ。クラウリーがキャスにした淫売煽りがものすごく好きなんだけど、力の差がある天使相手に正面から皮肉を言える度胸と、相手の弱みを的確に突く抜け目なさと賢さが好き。
 魂が戻ったサムと初めて対面したときにキャスの方からハグしようとしたのが意外だったんだけど、兄弟のためなら何でもするという巨大感情を内に秘めてたなら納得。
 キャスは五万人の魂よりウィンチェスターを取ったのに、ライアンの時には二人に「より大きな目的の方が優先だ」とかどの口が言うすぎる。それでいて二人に置き去りにされた時の捨てられた犬っぷり。
 最後の「私は一生懸命やってるのに友人はみんな離れていく」という姿を見たら、これはBaby言われてもしゃーないわと思った。バルサザールとの長年の友情は本物っぽかったけど(バルサザールが一度逃げたように見せかけて助けに来たりとか、キャスもディーンを抑えて彼を開放したりとか)「君と共に地球の半分がぶっ飛ぶ危険がある」という警告に対して「そんなことは起こらない(根拠の無い自信)」だから、そりゃバルサザールも「こいつやべー」と思うでしょうね。今期のキャスって裏切る/裏切らないより行動の根拠が「自分には出来る(謎の自信)」なのが問題な気がする。
-Season7-
 死の騎士が、呪文で縛られた上に割と高圧的に命令されたのに、キャスを止める方法を教えてくれたあげく「月食は私が起こそう」とか言ってくれて、しかも「次やったら容赦しない」ってつまり今回はお咎め無しなのが優しすぎる!一人間に過ぎないディーンに激甘な対応。
 サムがギリギリまでキャスを助けようとする割にディーンが「もうあんなやつ知らん」という態度なのは、一度は家族だとまで認定した存在に裏切られることが何より嫌いだし、そのうえサムに危害を加えるのはディーンにとってこの世で最も赦しがたい罪だからしょうがない部分はある。
 ディーンが死の騎士にキャスを「早く殺せ!」って言った時は結構容赦無いなと思ったけど、キャスが振り向いた顔見たらたじろいでて、これ目の前に来ると情が湧いてしまって決心が鈍るやつだと思った。
 キャスはあれだけ「私に愛を誓わなければ殺す」とまでぶち上げた割に二人を頼るのが早い!流石にこれは虫が良いと言われてもしゃーない!
 壊れかけのサミーちゃんが申し訳ないけどめちゃくちゃ可愛く見えるし、お世話お兄ちゃんモードに入ったディーンも可愛すぎる。
 オシリスの回でサミーちゃんが勉強したこと活かせるかな!?と期待したんだけど、そういえばロースクールに行く前だったから専門知識は皆無だったわ。「真の裁きは罪人にとっての救いとなる」私の好きなやつ来た!過ちに対して罰を受けて償うという工程を踏むことで、罪を犯した本人も救われるというやつ。しかしディーンだけが裁きの対象になったことに対してサムちゃんが「もう気にしてないんだ」って言うからどんな鋼メンタルかと思ったら、地獄で十分報いは受けたという認識なのか。一理ある。でもあれだけのことがあって「過去より前を向きたい」とか言えるのはやっぱ鋼メンタルだと思う。
 ディーンがエイミーを殺したの、エイミーの危険性がそこまでとは思えなかったから二人を喧嘩させる脚本のための口実に見えてしまった。殺したこと自体よりも、一度話し合いで結論出したのにそれを裏切って勝手にやったのがキレられる所だと思ったんだけど、結局サミーの方が折れたことに驚いた。
 サミー洗脳結婚回でディーンが「俺の許可を求めずに?」みたいなこと言ってて、そんな娘を持つお父さんみたいな……娘ではなく息子ですらなくて弟なんだけど。ディーンが兄でありながら半分母でもある(父もと言ったら流石にジョンが可哀想だからやめる)ところが好きだからここ良かった。
 ボビーが死ぬことは先に知ってたから覚悟ができてよかった気がする。リアルタイムで死ぬのか死なないのかやきもきするのに耐えられたかわからない。ボビーは自分も父親のようになるのが怖くて実子を持たなかったけど、サムとディーンが立派に育ってくれたことでボビー自身もその呪いから救われてたってのが本当に良い。ボビーにとって最良の記憶が、兄弟がただくだらないことで喧嘩してる光景ってのもめちゃくちゃ愛の深さを感じる。
 「眠れないなら良い薬あるよ」って言われて知らないおじさんに着いて行っちゃうサミーちゃん!?知らないおじさんの車で一緒にお休みしちゃうサミーちゃん!?危ないでしょうが!
 キャスが神になってから没落するまでも爆速だったけど、エマニュエルとして登場してから記憶が戻るまでも爆速だった。ディーンとしてはサムを壊したくせに彼だけが記憶を無くして幸せになっていることに怒ればいいのか、自分と過ごした日々を全て無くされたことに悲しめばいいのか、それでも生きて会えたことに喜べばいいのか全てがぐちゃぐちゃだったと思う。笑うキャスを見る時のディーンの複雑な顔!ジェンセンの演技はやっぱり素晴らしい。さらにコートはずっと車のトランクに入れてた辺りがディーンの心情の複雑さを表してて良い。
 キャスがぶっ壊れるとは聞いてたんだけど、人の名前は間違わない辺り予想より正気だった。そして起きた時には着てなかったのに次のシーンではちゃんとコートを着てくれてるのが良かった。「わざわざ」着たってことだから。
 キャスの元部下のへスターに「お前のせいでカスティエルは失われた」ってディーンが言われるのは全くその通りすぎてへスターに同情してしまう。イナイアスはへスターに比べると今でもキャスを慕う気持ちが残っていることが、直接的な台詞が無くても態度でわかるのがいい。へスターの言う通り、そもそもキャスをここに連れてきたのはディーンで、キャスが道を見失ったのも結局はディーンに起因するからこそ、ディーンの中にあるのは怒りだけではないんだと思う。
 花畑キャスは争いの話になると逃げはするけど、そのまま遠くに行って音沙汰なくなるのではなく割とすぐに戻っては来るから、兄弟といたいという気持ちはまだ持ってくれてるんだな。サムの痛みを引き受けることでキャス自身も救われたというのは、オシリスの回で言われてた「心に重荷を抱える者にとって罰は救いとなる」ということの体現な気がする。しかしサンドイッチ作ってくれるキャスめちゃくちゃ可愛かった……皿拭いてるのも可愛かった……二回目も同じのだったからそれしか作れないんだろうけど……。
 決戦前のディーンの台詞、「悪いが九回裏でベンチにはお前しかいない、でも俺はむしろお前がいい」が大好きすぎる。特にその後の「呪われててもそうでなくても」の所が最高。ディーンがキャスといるのは役に立つからではなくて、キャスだからだというのが感じられる良い台詞。でもディーンのrather have youって何に比べてなんだろうと考えて「他の人より」かなと思ったけど「お前がいないよりはいた方が良い」の方か?キャスの台詞が「サムとディーンが英雄的に死んでいくのに自分はせいぜい自分の過ちを正すために死ぬくらいだ」って意味になるから、後のシーズンで現れる「サムディンに比べて自分は大した存在じゃない」という意識がこの頃からあるのか。キャスも戦いたくないと言ってたのにディーンが許してくれたと思えたら行く気になるし、ローマンからサッとディーンを庇うしディーン愛がすごい。
 ローマンの倒し方が意外と地味だったけど、キャスディンの共同作業なのはよかった。後のシーズンを見てから戻ってくると、天使が飛べるのが便利すぎるから以降のシーズンで飛べないようにしたのかなと思った。全体としてはキャスの出番は意外と少なかったけど出る回全部が重要だし、キャスディンを理解するなら絶対に外せないシーズンだった。

-Season8-
 ベニーの存在に関して、ディーンが家族意外に深い関わりをもてない生活からキャスという友達が出来たものの、それもサムと共通の友達だし結局家族になっちゃったので、ディーンだけの友達というのは新鮮。しかしベニーのとこに行くのに上手い言い訳を考えつけずに「野暮用だ」で押し通そうとするのはディーンっぽいけど、その様子が完全に浮気する夫で笑う。「お前(サム)と狩りするのが俺の最高の生き方」と言ってたけど一応サムを手放す気は無いんだな。狩りこそが本望というだけなら別にベニーとでもいいのではないか。
 サムの言う「普通の生活」って狩りも辞めるものだと思ってたけど、ヴァイパイアの巣の時に「離れて暮らしたいとは言ったけど狩りは……」って台詞があったしどっちなんだ。「一人でやれば?」って言ったくせにディーンが一人で巣に行ったら怒るってどういうことなんだ?一人で狩りするってそういうことではないのか?狩りだけは一緒だと仮定しても、生活サイクルが違うのに狩りの時だけ都合を合わせるなんて出来なくない?自分が何をしてるのかアメリアに説明できないのに?その後の口論の内容的にてっきりサムが出て行ったんだと思ってたから、次のシーンで普通にモーテルにいてびっくりした。

 ディーンが一年探されなかったことずっと根に持ってて草。ディーンだったら探すもんね。なんか夫がかまってくれないから浮気する妻みたいに見えてきた。S6以降の出来事はまだ記憶に新しいから良いとしても、ルビーやルシファーのことはもう許したかと思わせといて未だにネチネチ持ち出してくるのは笑う。しかもたぶん世界のためとかではなく「俺を捨てたから」が理由な気がする。正しいか間違ってるかじゃなくて俺を信じたか信じなかったかがディーンの軸だから、たぶん一緒に堕ちるんだったら大抵のことは許してくれそう。結局二人とも「俺よりも他のやつを大事にしやがって!」が喧嘩の動機で笑う。
 キャスと三人で仲良く車載ってる図が良すぎる。今までは決戦の時ぐらいしかそういうの無かったから、これを待ち望んでいた。助手席に乗りたがるキャス可愛すぎる(サムだけじゃなくディーンにも同時に却下されてるのは意外だった)。でも妙に張り切りすぎな感じして逃避臭いなとは思った。天国に帰りたくないのも自分の行いの大きさを思い知りたくなかったって。しかしサムディーンの仲裁をキャスがやってキャスディーンの仲裁をサムがやる構図最高だわ。やっぱり三人って最高。あとはサムとキャスが喧嘩するだけだ。
 ベタな展開ではあるけどキャス「天国か兄弟か選びなさい」ってナオミに言われてついに選んだな。もうS6の時から兄弟>>>天国なのはわかってたことだけど。洗脳されたキャスが何千人ものディーンを殺し続ける図を想像すると気の毒だけどゾクゾクしてしまう。サムが一人も交じってない辺りどうしてもディーンの優先度の方が高いっぽいのがまた。操られるキャスに対してディーンが「We're family」の後に「We need you」と来て「I need you」に繋げる流れがこれ以上無いほど完璧。キャスにとっては2人とも大切だけど唯一絶対の存在はディーンで、ディーンがちゃんとI needって言ってくれたからこそ、その気持ちが報われてることが心に刺さる。
 ベニーも現世に居場所が無いとは言ってたけど、弟とは切れないから自分を切ったくせに困ったら頼ってきて殺していいかというなかなか酷いディーンの頼みを受け入れるのは器がデカい!
 ディーンが怒ってるからってビールとかアジアの巨乳とかパイとかでご機嫌取ろうとするキャス良かった。なんでトイレットペーパーもあったのかは謎だけど。「パイが一番大事なんだ!」って必死なのは笑う。妻が口利いてくれなくてどうしたらいいかわからないから花とかドーナツとか買う夫?しかし今のキャスなら贖罪のためって言えば何でもやってくれそう。ディーンがずっと怒ってるのは「一人で決めんな」ってことなのに、一人でメタトロンと会ってて何も学習してなくて笑う。
 サムちゃんまだ自分が汚れてるから綺麗な存在になりたいと思ってるのか。前にやっただろそれは。
 クラウリ―はルシファーに比べたら貫禄は無いけど、やり方がえげつなくて出てくるとゾッとする存在ではある。方法が具体的だから逆に神秘性が無いのかもしれない。チンピラ悪魔から地獄の王に昇格した結果、ボビー亡き後ウィンチェスター兄弟に世界一詳しいおじさんになってるのは笑う。詳細がわからなくても二人の利になりそうなことをなんとなく避ける能力に芽生え始めてるし。しかし呪い袋を電話の中に入れるなんて頭いい!憎んでる相手の声なんか聞きたくないと思ってても、敵が何を考えてるのかの情報は一つでも逃せないからつい演説を最後まで聞いてしまうという心理を利用している!かしこ!ウィンチェスターが稼業について迷った時、救ってきた人々のことを考えることで心を支えていることも見抜いてるし!でもその後捕らえられてラリった勢いで「俺は愛されたいんだ!」って叫んじゃうとか恥ずかしすぎる。しかもそんなのをサムちゃんに聞かれたという事実だけで顔から火が出る。
 ディーンは過保護なときあるけど、ちゃんとサムにクラウリーの浄化を任せて離れる選択を出来てるし、S4S5の頃とは確実に変わってると思うけどな。ベニーの時だって「あいつを甘く見るな。サムなら必ずやる」って言ってくれてたし。試練を自分がやりたがったのはサムが心配なのが第一だけど、あとはサムも普通の生活がどうとかうるさかったのと、ディーン自身の「自分は戦いが本業だ」という意識との複合でそうなってたんだと思う。でもそこから「二人で力を合わせる」に変わるだけじゃなくさらにサムを信じて任せることが出来るようになってる。弟を心配してしまうのはもう反射みたいなものだからしょうがない。「お前が大丈夫だって言うなら大丈夫だ」に至れたのはやっぱ最終戦争以降だからこそだね。
 サムいつもはそんな素振りないのに、突然ディーンへの巨大感情出すんじゃない!懺悔したのが「兄を失望させたこと」だっただけならまだしも「僕を信じられなくなったら次は誰を信じる?天使か?ヴァンパイアか?」って完全に嫉妬じゃないか!お前はいつもそう、自分からはディーンを捨てる癖にディーンの方から捨てられそうになったら必死で縋りつく!S8の最初はディーンやキャスがどこに行ったのかもわからなくて、死んだかどうかもわからない(そこに死の概念があるかどうかもわからない)状態で他に家族も友人も誰もいなかったからこそ、新しい人間関係と落ち着いた環境を求めたというなら筋は通る。あとたぶんボビーがいないことが一番大きいんだろうな。今までは兄弟のどちらかに何かあってもとりあえずボビーの家に行けば一息はつけたし相談できたし、そこから解決策を探す道が開けてた。でもそれすらできないと本当に独りだから。でもディーンはいつだって誰がいたって最終的にはサムを選んできたから「お前が一番大切だ」の圧倒的説得力。キャスだって家族には入ってるけど、それでもサムとは代えられないと思う。血縁ってだけならアダムだってサミュエルだっていたし、地獄に行く原因となった契約の時だって、蘇らせるなら親父でも母さんでも可能だったのにそれでもサムだから彼は。「お前のためなら母さんを殺したSon of a bicthだって見逃してやる」はなかなかすごい。
 冷静に考えるとサムちゃんS8冒頭では激おこのディーンに結構平然としてて「謝ればいいのか?でも僕はもうやめる」とか言ってたのに、最終話の態度違いすぎて笑う。ベニーを優先されたのがそんなに堪えたのか。
 サム全力甘やかしモードのディーンは全ディーンで一番可愛い。試練の影響で熱出すサムを看病する時の驚くべき甲斐甲斐しさも、S8最後の「お前は何もしなくていい。俺が付いてる」とか、そんなこと言われたら抗えない。

 


 今期はサムの心情がどうにもわかりにくいので時系列順に並べてみた。

 ローマンを倒した後人生で初めて天涯孤独になる→アメリアに出会って今までずっと憧れていた「普通の生活」を送る→アメリアの夫が生きていたことが判明し、彼女の幸せを思って去ることを決める→ディーンとの再会→「放置してきたケビンに対して責任があるだろう」と言われて行方を探す→地獄の門を閉める方法があると判明する→門とケビンのことはやるつもりだけど普通の狩りには消極的で「ディーン一人でやれば?」と発言→アメリアに未練タラタラで「門とケビンのことが終わったらまた普通の生活を送りたい」と発言→ディーンが自分に隠れてヴァンパイアの巣に乗り込んだことでベニーの存在を知る→エイミーは殺したくせにベニーのことは本人の「血液パックしか飲まない」という証言のみで信じているディーンに怒る→コインに呪われたディーンに過去の過ちを並べ立てられ「この一年、ベニーはお前よりも兄弟だった」と言われる→自分はこの一年のことを洗いざらい話したのにディーンは隠していたことに激怒→ベニーに殺人疑惑が浮かび、ディーンがどうしても時間が欲しいと言うので聞き入れたが新たな犠牲者が出て、狩ることを決める→アメリアを騙るメールでディーンに騙される→結局マーティンが殺され、それでもなおベニーを被害者だと言い張るディーンに「ディーンは自分を信じろじゃなくベニーを信じろと言ってる。僕にはそんなことできない」と言い、「ベニーとの関係を切るか切らないかディーン次第だ」と迫る→ディーンと離れ、嘘メールをきっかけにアメリアとの関係が再燃しかける→「あなたが一緒になると言ってくれたら今までの生活を捨てる覚悟があるけど、そうでないならハッキリ終わりにして」とアメリアに言われる→サマンドリエル奪還のためにディーンと共闘する→キャスの様子がおかしいことが判明する→「自分たちを取り囲んでいる問題のことを考えたら行けない」と、ディーンの元に残ることを決意→第一の試練で「死ぬためではなくて二人とも生き残る道が僕には見えてるから信じてほしい」とディーンに言い、自分が試練を遂行する覚悟を決める→「俺が代わってやれれば」と言うディーンに「どうして僕を信じてくれないんだ?」と発言→メタトロンのいるホテルで「ずっと自分のことを汚れていると思ってきたけど、この試練が僕を浄化してくれている」と発言→最後の試練の前、懺悔の内容に関してまたしてもディーンに過去の過ちをあげつらわれる→ディーンを何度も失望させたことを懺悔する→「ディーンは僕が何もやり遂げられないと思ってるから天使やヴァンパイアを頼るんだろ!ディーンを失望させたのが僕の最大の罪だ」と泣く

 こう並べてみるとベニー前と後で態度が違いすぎるから、自分よりヴァンパイアの方が全幅の信頼を置かれていたことがよっぽどショックだったんだろうなあと思うけど、どう好意的に見ても「お前が先に捨てたんだろ!?」と言いたくなる。ディーンが後釜に別の男見つけたらキレるのはどの口が言うすぎる(時系列的に後釜というのは正確ではないけど)。お前もアメリアと付き合ってんだからディーンが誰と付き合おうが良いだろうが!しかしその後サムが身の振り方を選んだのはいいけど、その時に「状況上仕方なく……」みたいな言い方したせいで、ディーンも「俺と一緒にいることを選んでくれた」と思えなくて「無理矢理付き合わせてる俺が試練をこなして早くサミーを解放してやらなきゃ」と思ったのでは?たぶんサムの中ではあの時点でディーンと苦難を分け合うという覚悟を決めたのに未だにディーンが「俺だけが背負えば丸く収まる」と思っていることが不満なのではないか?でも「なんでディーンは僕を信じてくれない?」ってそりゃ前科あるからに決まってんだろ!?つい最近まで口を開けばアメリアメリアばっか言ってたやつの何をどう信じるんだよ!マジで何言ってんだコイツ!?実力云々じゃなくて、テメーが普通の生活普通の生活うるさいから五体満足で帰れるようにとディーンが頑張ろうとしてるんだろうが!それを「実力が無いと思われてる」って何が見えてるんだ!?

 教会でのサムの台詞からして、ディーンにとってサムが世界の全てだってことにS8になってもなお気付いてないのがすごい。大学の頃は親父や家業から離れられた達成感で頭がいっぱいで、ディーンは親父さえいれば大丈夫だと思ってたからそんなに傷つくなんて思ってなかったと取れたけど、そこから今までこんなに一緒にいるのに気づいてないとか鈍感すぎないか?ただ私はS5までのサムの過ちは自ら檻に入ったあのラストで既に清算されてると思うから、ディーンが未だにその頃のことをネチネチ持ち出してくるのはちょっと酷いとは思ってる。教会の前でまでそれをわざわざ言われたのが「役立たずだと思われてる」という彼の感覚に拍車をかけたという気がする。

・三期全体の話

 キャスの迷走とは「神を失った天使はどう生きればいいのか」を問う旅で、自由意志という言葉は一見聞こえはいいが、要は各々の意志がぶつかり合って傷つけあう確率も高くなるということだ。良かれと思ってやったことが大惨事を引き起こすこともあるし、恨まれることもある。S7でへスターが「これが私の選択だ」と言ってキャスを殺そうとしたのが何よりの証拠。しかし特典の「戦う天使 カスティエルの物語」を見てようやく理解したんだけど、キャスにとってはまだ「正しいこと=神が望んでいること」のままなのか。そこを勘違いしてた。自由意思も神が望んでることだと思ってるのか。そう言えばS6で他の天使たちに「神は君たちが自由に生きることを望んでいる」とか言ってた。天使の石板を持って正気を取り戻したキャスがディーンからも離れたのが疑問だったんだけど、ロバートが言う「これが自分に残された神との最後の繋がりだと思ったから」なのか。確かに言われてみればS5で抗ったのは「運命に」であって「神に」ではなかったかもしれない。神はむしろサムディンに味方するようなことをしてたんだった。そこを勘違いしてたかもしれない。

 さらに特典の「人間を守る石板の秘密」を見て初めて理解したんだけど、この話に出てくる石板とは「神が存在する証拠・人間から神へ繫がる道」としての「聖遺物」だったんだ。だから私この設定に興味湧かなかったんだ。私は神が本当に存在するかしないかなんてどうでもいいと思ってるから。でも聖遺物の理屈だと「神がいる」という前提から入るから「聖なる物」があってくれないと困るという、結果から証拠を探すという捻じれが起きてる。逆だ逆!証拠があるから結果を推測できるんだ。というかこのドラマの中では神が実在してることは既に確定してるんだから、サムディンにとって聖遺物がどうたらがそんなに重要なことだとは思えない。彼らは別に信心があるわけではないし。それらは製作がやりたいことであって、サム達がどう思うかが置き去りになってるから設定に入り込めなかったんだな。あくまで私はサムディンやキャスがもがきながらどうやって世界や自分と折り合いをつけていくのかに興味があるだけだから。天使たちについても同様で、創られた者たちが神無き世界でどう生きればいいのかを問うという部分が見たいから。

 そこから気づいたんだけど、私がS5までを良いと思ったのは、被造物たちが抱く神への想いを「父への想い」とリンクさせる手法によって、信仰を「遠い何か」ではなく我が事として捉えることができたからだったんだ。信仰と言うより「神への愛」と言う方が正確か。そう言い表してもらえたからこそ、それに伴う苦しみや喜びをリアルに感じられた。だからS6からの「魂や神が存在することはみんな当然わかってるよね?」という態度で来られると「そんな前提共有してないけど……?」と思ってしまう。だから「魂が無かったららどうなるか?」という問いにも全然興味が湧かなかった。だって魂というものが独立して存在すると思ったことがないんだから、それがあったらなかったらという問い自体が自分事ではなくて「そういう設定」の話としか捉えられない。

『SUPERNATURAL』Season4~5 感想

-season4-

 私は今期初登場のカスティエルというキャラがめちゃくちゃ好きで、理由は私の好きな低音寡黙キャラかつ正しさと情の狭間で葛藤するキャラかつ献身キャラだからなのだけど、さらに昔から天使と名の付くものは大体好きなのでもう私の好きな要素しか無い。たぶん彼が出るということを知らなければ見続けなかったと思う。後期シーズンになるとだいぶ丸くなって感情も豊かになるのだけど、初期カスティエルの無機質な感じがたまらない。でも教えるべきことは教えてくれるし、他の天使みたいにネチネチ嫌味を言ってきたりしないから、情は感じられなくても公平だということだけはわかる。会話の諸所から滲み出てくる圧倒的「実は良い奴なんだろう」感もある。だからディーンが他の天使には言えないことも「こいつなら」と思うのはものすごく納得できる。
 ディーンが女をとっかえひっかえするのは愛情が不足してるからで、それがなぜかといえば親父のせいでしかないんだけど、サムがそうならなかったのはディーンが愛情を与えてくれたからで……。過去回でサムが友達のために戦えるのは素晴らしいことなんだけど、それでサムは称えられてディーンは哀れな子呼ばわりされるという構図が……惨すぎる……。サムにとって学校は「自分の道は自分で選んでいい」ということに初めて気付かせてくれた先生がいる場所というところに兄弟のえげつない格差を感じる。サムが「あなたは誰もくれなかった関心を僕に向けてくれた」と先生に言ったのは、ディーンはサムも当然家業を継ぐものと思っている点では父さんと何も変わらなくて、サムを絶望させていたからだと思う。
 しかしセイレーンの回で、そいつがもたらすのが「愛情ホルモン」とは言うものの、ディーンの他に引っかかった人達の前には全員理想の女(つまり恋愛対象)の姿で現れたのに、ディーンには「理想の弟」だったのが“ガチ”すぎてビビった。しかも特別にイケメンというわけでもない普通の容姿だったから尚更、表面的な熱に浮かされてる感が無いから「“ガチ”なんだなあ」と思わせる。これで顔までサムに似ていたらマジで居たたまれなくて画面を見られなくなっていたと思うから助かったかもしれない。しかしディーンにとって女の子というものはどこまで行っても遊びの域でしかなくて最愛の存在にはならない、という圧倒的証拠を見せられて私はどうしたらいいのか。ここで「昔は一緒だった」とディーンは言ってたけど、悪魔の血をもつ苦しみはディーンにはわからないし、地獄に堕ちた苦しみはサムにはわからないから2人ともそれぞれの孤独を抱えている。一緒だと言えたのは狩りという同じ道を歩んできたからであって、今の2人は見てきたものが違いすぎている。S3はお互いの命を守りたがっているが故の喧嘩だけど、今期はひたすら2人の違いを思い知らせる話だからこんなに居心地が悪かったのか。ここまで付いてきた視聴者に対してS3の終わり方もなかなか過酷だったけど、今期のせっかくディーンが生き返ったのに喧嘩ばっかりなのもまた過酷。
 ディーンが地獄に居た頃の上司であるアラステアが最高だった。ディーンを傷つけるには親父のことを持ち出すのが一番で、さらに言えば「完璧なヒーローである親父に比べてお前は出来損ないだ」と言われるのが一番心をえぐられるということも完璧に把握している。ディーンが拷問している側なのに場を支配しているのはアラステアの方に見えて、彼が拷問の天才という評価に完全な説得力を与えている。初登場時の紳士っぽい器も素敵だったけど、その後の枯れ気味で骨張ってて狂気が滲んでいるような老人姿にディーンが手玉に取られてるのが良すぎる。ここで死んでしまうのが本当に残念。
 ところでディーンがいつの間にかカスティエルをキャスと親し気に呼んでいて、初見では気が付かなかったからいつそうなったのか確かめたのだけど、初めてキャス呼びしたのはおそらくルビーとサムの繫がりが判明したときの「Cas said that if I don't stop you...he will.」だと思われる。初めて面と向かって呼びかけたのは、パメラの葬儀の後アラステアの拷問のために呼び出される時の「Cass, you remember her. You burned her eyes out.」のはず。
 しかしアラステアにボコボコにされたディーンが「世界を救うなんて俺には無理だ」と落ち込んでいたら「神とか親父とか関係なくお前は生来のハンターだ」と天使が励ましに来てくれたのはウケた。ディーンが一番言われたかったのって実はこの言葉なんじゃないか?記憶を消して実在の場所に放り込んだだけなら、あのエリートとしての働きぶりはディーン自身の実力ということになるからね。ディーンは自分のやることから好きな物まで全部親父の真似だと言ってたけど、能力や人助けの志はディーンの物であることは間違いない。
 ディーンの方は何だかんだあっても、サムに何でも打ち明けてほしいと思ってる所は変わってない。2人の距離はサムちゃんからの矢印が少なすぎるのが原因。S3であんなに頑張ったのに結局ディーンの地獄行きを止めることが出来なかったという無力感や、自分が関与しなくても結局ディーンは生還して前みたいにディーンディーンしなくていいのは確かだが、それにしたって今期のサムはルビーやら超能力やらの方が大事そうに見えて困惑した。
 親父に隠し子がいたと判明する回にはもう、「ディーンが何したっていうんだ……」と思った。ジンの夢の世界ですらディーンが望んだのは「家族の平穏な暮らし」だけだったのに……。自分がサムに嫌われてても、母さんが生きててサムが弁護士になれていい嫁さんもらえる世界であればいいって……。それなのに親父が別の息子作ってて一緒に野球観戦!?ディーンがどんだけそれを望んでたか……。12で初めて存在を知ったアダムに狩りしろなんて言えないかもだけど親父いくらなんでも酷すぎるって。親父について知れば知るほど終わってるエピソードが増えていく。初見ではアダムのことで「親父が死んでもその願いを叶えようとするなんてディーンは懐が深い」と私は思ったけど、二回目を見ると実はそんなに良いものじゃない気がしてきた。自分がなりたくてもなれなかった「親父に愛される普通の息子」に嫉妬しながら、その理想像を守ろうとしているというか……。でも冷静に考えると、親父がアダムの前で理想の父親として振舞えていたのは年に一度だからという理由も相当あると思う。その時は彼にとっても稀な休日のようなもので、長期的に関わることになっていたらたぶん維持できないと気がする。やっぱ親父ってロクでもねえ……。
 悪魔の血中毒のせいで監禁されたサムが幻覚の子サムに「ジェシカが死んだことを普通の生活を諦める口実に使ってる」と言われるシーンがあるが、確かにサムの戦う動機については私も理解できていなかった。人を救いたいという気持ちがあるにはあると思うけど、ジェシカの死が無ければあの生活を続ける気ではあったんだから、それは第一の動機ではない気がする。やっぱり悪魔の血をもつ化け物である自分の存在を、世界を救うことによって反転させることが目的か?母さんの姿でわざわざ正義について語らせたのもやっぱりそういうことなのか。でも台詞の端々に、自分が化け物であることそのものよりもディーンに化け物呼ばわりされるのが一番堪えていそうな気配があった。
 私も最初、ディーンはサムが心配というより化け物が一体増えるのを心配しているのかと思ったけどそんなことはなかった。でもサムちゃんの方はディーンのことを「弱い」とか「僕の強さに気付いてない」とか散々なことを思っていることがわかってわりと見損なった。サムはディーンを舐めているけど、最大限サムに寄り添った見方をすれば、ディーンもサムがどうせ悪魔の血に負けると(実際たまに負けている)舐めているのは同じなのかもしれない。
 ボビーが天使よりも天使すぎて泣ける。「親父がサムと分かり合うよりも離れるのを選んだのは勇気じゃない」ってそれそれそれそれ!よく言ってくれた!親父は他人のヒーローにはなれても家族と向き合う勇気はもてていないってものすごく思ってた。ディーンは親父を神聖視してるから、アラステアに「あの男は100年でも誘惑に耐えられた」と聞いて「それに比べて自分は……」と思ったかもしれないけど、家族から逃げないのも勇気だってそれ一番言われてるから。ボビーほんと親父より親父すぎる。この作品の清涼剤。でもディーンからの矢印をサムの方が片っ端から叩き落としてきたんだから、サムが去ったことでディーンが責められるのはおかしい。サムちゃんからの矢印が足りないのが悪い。
 二回目をまた見直してみて、確か初見の時も似たようなことを思った気がするけど、悪魔とつるんだくらいでディーンは怒りすぎじゃ?と思わなくもない。ルビーのことは置いておいても、超能力で人を救えていることまで頭ごなしに否定してくるし。最終話まで見れば結果的にディーンが正しかったのはわかるけど、この時は「お前が弟じゃなかったら狩ってる」は言い過ぎじゃないかと思った記憶がある。おそらくだけどこの頃のディーンの「弟を守る」は「人間としての弟を守る」って意味でもあるから、少しでも異常な要素が混ざる時点で許せなかったんだと思う。その考え方がサムにとっては管理されているように思えるし、「ディーンが信じる理想の弟像」に縛られるように感じたのではないか。
 ディーンはサムが悪魔と関わるのをやめて超能力を否定すれば綺麗な存在でいられると思っているが、サムの方は自分の汚れた血を取り除くことはできないと知っているからこそ、せめて善い行いのためにその力を使いたいと願う。
 初見ではついディーン寄りの立場で見てしまったから、二回目はサムの立場になるべく立って見ようとたのだけど、そうすると一応ディーンの束縛癖も大概かもしれないとは思えてくる。他人と長く関われないから、安心して愛せる家族に依存していて、しかも思い出の中の「可愛いリトルサミー」にしがみついていると言えなくもない。いやでもやっぱりサムの「僕はディーンより強くて賢い。ディーンは自分を憐れんだり泣き言を言うのに忙しい」という発言はどれだけ好意的に見ても酷いと思う。
 セイレーン回のは「魔物のせいで思ってもいないことを言わされただけ」で逃げられたけど、アラステア拷問の時のサムは完全に素面だったのに「ディーンは前より弱くなったからこの仕事をやり遂げられない」は酷すぎて、見たのは二回目なのに引いた。しかも「(ディーンはダメだけど)僕は強くなる」はとんだ思い上がり小僧でしかなくて擁護不可能。
 ディーンの夢(寝て見る方)が静かな湖畔で一人釣りをすることなのがすごく腑に落ちる。ディーンが根本的に求めているのは安らぎだと思ってるから。S6で天国の中でキャスが気に入ってる場所がただ穏やかな場所だったのと重なるから、キャスがディーン好きなのもわかる気がする。
 預言者の回のチャックとサムだけの会話で「今のディーンには助けが必要で、自分はずっと面倒を見てもらってきた恩があるから彼の重荷を肩代わりしたい」というようなやり取りがあって驚いた。それを言うのと言わないのとじゃ印象が全然違うだろ!?たぶん複雑な感情の中の一要素でしかないんだろうけど。
 サムと決別して落ち込んでるディーンにボビーがかける言葉は何度見ても痺れる。前半の「家族は時にお前を悲しませる。なぜなら家族だからだ!」も良いけど、その後の「お前は親父よりもずっと良いやつなんだ」がすごすぎる。親父のことを堂々と腰抜け呼ばわりするのはボビーぐらいのものだし、自己評価の低いディーンのことを「親父よりも良いやつ」なんて言い切れるのが本当にディーンのことを見てくれているんだなと思う。
 サムも最後まで本当はディーンと分かり合いたいという気持ちがあって、もしかしたらディーンが正しいかもしれないとも内心で感じていた。でも悪しき存在である自分を浄化したい気持ちとディーンへの反抗心が勝ったということのようだ。そのうえサムにとっては最大の譲歩である「僕たちと一緒に来てほしい」という懇願がディーンに跳ねのけられたのもあるし、ディーンの口から一番聞きたくなかった「お前はモンスターだ」という言葉を聞いてしまったのが一番ダメだった、ということらしい。それでも最後のディーンからの留守電さえちゃんと聞けていれば戻れたと思うけど、おそらく天使の細工で悪意のあるものに変えられていたせいで最後の分岐点を越えてしまったという悲劇。
 それにしてもディーンがサムに電話をかける選択をした勇気にも感動したけど、その中の「俺は親父じゃない」がボビーの言葉が届いた結果だと思えて泣けた。

-Season5-
 
 ルシファーの封印を解いてしまい、悪魔の血中毒があるのに狩りを続けるのは気が気じゃないという理由でサムが離れることになるのだけど、本当にキャスがいてくれてよかった……。三人目がいるだけで全然違う。二人だと一度決裂したらそこで何もかも終わってしまう予感があって気やすく喧嘩もできないけど、もう一人いることで一旦離れて気持ちを落ち着けることができるし客観視も出来る。しかしディーンの「サムがいないと生きられないと思っていたけど、サムの心配をする必要がなくなって今俺は幸せだ」のシーンは思い返す度に泣ける。ディーンが家族に対して決して返らない愛を捧げ続ける孤独は、天使たちが神を想う気持ちと全く同じ。捧げるのに疲れ果てて心が擦り切れてしまうなら、いっそ忘れてしまえた方が幸せかもしれない。二回目見て、悪の巣窟に行った時のキャスの行動に心から爆笑してるディーンを見られるのも嬉しいし、ディーンの笑顔につられてキャスも笑ってるのが可愛すぎる。そしてその後の「こんなに笑ったのは何年ぶりだろう」からの「お前といたこの24時間はサムといた数年よりずっと楽しかった」は何度見ても泣ける。さらに先を知ってから見ると、それでもディーンはサムを愛する心を捨てないとわかっているから尚更泣ける。
 ザカリアによって「ディーンがミカエルの器にならなかった未来」に飛ばされる回の最後で、初見の時は未来から戻ったディーンがサムを呼び戻すことを決めた理由がいまいち理解できなかったんだけど、「互いに人間性を保ち合おう」という台詞があるから、ディーンの存在がサムを人間として保つのと同じくらいサムの方もディーンに対してそういう効果を発揮するということになる。サムが道を踏み外すとしたら当然悪魔の血のせいでだけど、ディーンの方もサムが去ったことで人として大切な心を失った未来の自分を見てきたからの結論だと二回目で理解できた。この回のオーディオコメンタリーで「今のディーンと未来のディーンを傷や眼帯で区別することはしなかった」と言ってて、こういう上辺の効果に頼らない硬派なところが好きなんだと思った。そんなことができるのはジェンセンの演技力がズバ抜けてるからこそだと思う。会話シーンが多いのも「一対一の人間関係を重視してる」ということの表れだと思うからこのドラマのそういうところが好き。 
 ジョンとメアリーを殺すために過去に行ったアンナを止めに行く回で、ジョンが狩りのことで頭がいっぱいになって家族をおろそかにしてきたのは、悪魔や魔物を狩り続けてないとどうにかなってしまいそうだったからというので一応納得はしたし、子供にもそれを要求したこともサムが恨んでないと言うならまあいい。……と思ってたら母さんの生前から親父のクズエピソードあって笑う。ディーンはこんな頃から自分より家族の感情優先って全然笑えない。母さんも母さんで悪魔と契約してジョンを生き返らせたことは記憶にあるはずなのに「普通の生活」を送れると思ってるお花畑だし、無数の人間が死ぬって言われてもジョンと別れねーわ子供も産む気だわで「天使が見守ってる」も全然良い意味じゃないしで割と酷い。
 二人が天国に行く回でディーンがザカリアにボロクソに言われるのだけど、「サムなんか言い返してやれよ!そんなことないって言ってやれよ!母親の記憶は無くてもディーンとの記憶はあるだろ!ディーンからの愛情を贅沢に受け取っておいて何も無しかよ!」とわりとサムに対して苛立ちを感じてしまった。この辺りのサムからはディーン愛がほとんど感じられないので見ていてしんどかった。生後半年で死んだ母親の記憶も優しかった頃の父の記憶も無いせいで、家族に対する熱量をディーンと共有できないのは仕方がないが、少なくともディーンに対しては恩知らずが過ぎる。
 そこから物語の佳境になるのだけど、もうそこまで行くと脚本にディーンを悲しませたい趣味があるとしか思えなかった。サムとの唯一と言っていい確かな絆であるペンダントを捨てさせるとは……。最初は神なんかクソくらえと思っていたディーンが、両親を救うために行った過去で何も変えられず、ミカエルに「すべては初めから決められていることで、自由意志など幻想にすぎない」と言われて絶望していたところへ、飢饉の騎士に自分の心がとっくに死んでいることを見抜かれ、サムもまたしても悪魔の血を飲んでしまうわで「もう神しか俺達を救えない」という心境に至る流れは違和感なく理解できるけど、ここまでディーンの心を徹底的に折っていく手法には戦慄する。しかもそこからさらに「神は一切関知しない」と宣言され、サムからも「家族から離れられてハッピー!」という記憶ばかり見せられ……まだやるの!?ってくらいとことんディーンを打ちのめしてくる。そりゃ思い出のペンダントも捨てたくなりますよ。神とサムの両方に期待するのをやめるという表現としてこれ以上のものは無い。いろんな意味で恐ろしい脚本。 
 なかなかミカエルの器にならないディーンのスペアとして生き返らされたアダムという小僧が「血縁があっても家族じゃない」と真理を突いてきた。というか今まで誰もディーンにこれを言う人がいなかったのがヤバい。血縁はただの事実であって、家族の絆とは「何をして、何をしてもらったか」の記憶が作るものだから、アダムの「俺が大事なのはあんたらじゃない」という言葉は実に正しく自分を理解している。血縁だからとどんな酷い扱いをされても無条件に信じる方がどちらかというと歪んでいる。
 しかしディーンがサムのことを信じられないのは100%日頃の行いのせいすぎて何も言えない。飢饉の騎士の時も二回目は断ったといえ結局血吸っちゃってたのに逆に何でサムはそんな元気なんだと疑問だった。「僕を見捨てられるはずがない」という台詞は流石にコイツマジかと思ってしまった。お前ディーンからの愛が無限だと思うなよと。しかもそのサムがアダムに対して「兄弟だから」とかぬかすのを聞いた時のディーンの冷笑はいっそ芸術的だった。お前そう思うならもっとディーンにラブコールしろや。離れていきそうになってやっとディーンディーンって。
 そう思っていたんだけど……その後の話で何もかもがひっくり返った。負けたよサム、私が甘かった。愛とは信じること。相手にどう思われてるとかは関係ない。ただ信じること。それを思い出した。ここまでついてきてよかった、報われた。ディーンからは「お前を信じてない」ってあんなに言われたのに、それでも自分はディーンを信じると言えるサムの強さ。それは無知ゆえかもしれないし傲慢ゆえかもしれないけど、それでも「ディーンなら大丈夫」と言ってくれる。そのことがどれだけ力を与えてくれるか。負けたわ。サムにとってのディーンは絶対の愛をくれる人で、たとえ迷ったとしても最後には絶対正しい選択をする人なんだ。夢見すぎだし甘えすぎなのかもしれないけど、ディーン自身も気づいてないディーンの強さを信じてくれてるんだなと思ったらもう涙が止まらない。ディーンが直前まで本気でYesと言う気だったのにサムの顔を見て気を変えた理由が語られるところは何度見ても素晴らしすぎて鳥肌が立つ。「世界が終わりかけてるって時に俺が考えられたのは、『この馬鹿が俺をここに連れてきた』ってこと。お前をがっかりさせたくなかった」。ディーンは神にも世界にも自分にも絶望していたのに、こんな自分をまだ信じるという大馬鹿者がいてくれて、その期待に応えたいと思った。気持ちが通じるってのはこういうことなんだ……本当に文句無しの完璧な展開だった。
 ディーンのサムに対する「俺が守ってやらなきゃ」という気持ちは「こいつにはできない」という気持ちと近い所にあって、兄としての愛情と責任感を持つほどにサムの頼りない面しか見えなくなっていたけど、ここまでとことん失敗してきたサムはもう何が本当にやるべきことなのかを理解している。そしてディーンにとってもサムは「いくら愛しても何も返してくれない弟」ではなくなっていて、だからこそ「ただ信じる」。そしてディーンは、サムがルシファーを受け入れたうえで自ら地獄の檻に飛び込んで封印するという作戦にも「俺が許すかどうかじゃなくてお前がどうしたいかだ」と言えるようになった、という流れが非常に丁寧で痺れた。
 ミカエルは「いい息子でいる」ことに最後まで拘っていたけど、結局ディーンは親父の「サムを守り切れなければ殺せ」の命令はとっくに破ってるから彼とは違う。確かに形式は親父の真似だけどインパラに染み付いた記憶はディーンのものだし、親父とサムの両方を愛してるのもディーンの個性だから。
 ルシファーがミカエルとの戦いを避けたいという意思を最後まで持ち続けているところも、ミカエルを害して良いのは自分だけだと思ってそうなところも愛を感じて好きだし、ミカエルの方もルシファーの懇願に動じていないわけではないのに結局は「お前が裏切ったせいで幸せが壊れた」と攻める気持ちが勝つのも、何百万年前だかに同じようなやり取りをしたんだろうなと思えて良かった。しかもまたしてもモンスター呼ばわりしてて、テーマが一貫してるなあと感心した。
 ルシファーも「サミーのためにディーンに対して我慢してた」とか言っていて、人間のこと虫けらと思ってるのに器だからと相当な譲歩してをくれてるから、実際そんなに悪いやつじゃないかもと思った。結局作戦でサムがイエスと言ってしまったけど、欲を言えば初めてサムと会話したときにルシファーが言っていた「君に嘘をついたり騙したりしないで承諾させる」のをどうやるのか見たかった。「私は嘘をつかない。必要が無いから」の圧倒的大物感が好きで……。
 親父の良い息子でありたい兄と反抗する弟、弟は兄を愛していて争いたくないと思ってはいるけど、兄は親父を捨てることはできないという関係性が完全にシンクロしている構図が上手すぎて痺れる。
 そして「インパラが2人の家」という語りから繋がるラスト。ここぞという時の記憶のフラッシュバックなんてベタベタだけど2人が歩んできた道を視聴者はずっと見てきたんだから泣けるよ。サムの中に入ったルシファーがサムに「君の気持ちがわかるよ」とか「私が君の本当の家族だ」とか言って共感で内側に入ってこようとするけど、そこでルシファーが言ったことも、ディーンとの思い出の数々がサムの中に蘇るシーンで「本当の家族」とはどういうことなのかという圧倒的な実感には勝てないというところが素晴らしかった。アダムの時の「血縁があれば家族なのか?」という問いが先にあって、サムにとってディーンが大事なのはそうではなくて、記憶があるからだ、と教えてくる流れが良すぎる。アダムの存在があることで、ディーンにとってなぜサムなのか?サムでなければいけないのか?弟であれば誰でもいいのか?という視点が生まれる。そうしてディーンはサムを信じ、サムはその信頼に応え、「最後に彼らが選んだのは家族だった」で終わる。「家族とは何か?」「信じるとは何か?」「愛とは何か?」という問いに本気で取り組んだ良いドラマだった。

『SERNATURAL』Season1~3 感想

GYAOのサービス終了に伴った無料大放出期間にラインナップにあって、前から名前だけは知っていたので試しにと見てみたらドハマりした記録です。

-Season1-

 面白かったは面白かったけど、最初はサムとディーンの関係にいまいち乗れなかった。その理由はディーンが「弟を守る兄」という自分の存在意義を守るためにサムを求めているのであって、それがサム自身への愛情と言い切れない気がしたからかもしれない。ディーンがサムへの愛を見せる度に「サムが一体ディーンに何をしてくれたというのか?」という疑問が始終私の脳内にあった。狩りの思い出がそれに値するのかと思ったけど、初回からディーンは「どうしてもお前とやりたいんだ」と全力の弟愛だったから違う。しかし彼が弟を守るのも「親父の言いつけだから」が根幹にあるようで、それが無かったらどうだったのか?ディーンは家族さえいれば何もいらないと思ってるけど、サムは親父に対して愛はあっても蟠りもまあまああるし、母さんの記憶も無いしで温度差がある。
 初見の時はあまり真剣に見てなかったのだけど、S14まで見終わった後で戻ってくると色々と発見があって面白い。特に最初の印象よりもサムがディーンのことを好きそうで驚いた。あと一話でのディーンのお願いの台詞が日本語字幕だと「お前とやりたい」になってたけど、英語字幕は「一人で出来るけどやりたくない」になっていてだいぶニュアンスが違う。ディーンは能力的には大抵のことは一人でこなせるけど「やりたくない」のが彼の性格を的確に表している。しかしサムの方も最初はディーンに対して「何しに来た」と冷たい声だけど彼に心細そうにされるとぐぬぬ……となっていたし、案外最初からディーンに対して甘い要素がある。そしてディーンの方がおおざっぱなオラオラ系でサムの方が細かくて礼儀正しい系という、一話の時点で二人の性格の違いを視聴者にちゃんと理解させる造りが素晴らしい。
 しかしジェシカが殺されて燃え上がった時、サムは「No!No!」しか言えなくて連絡する間も無かったのに、ディーンが即座に扉を蹴破って入ってきてるけどいくら何でも早すぎないか?行ったと見せかけて外に車を停めてたとかいう次元じゃないくらい即座なんだけど?弟と協力して狩りが出来たという、ディーンにとって最上の幸せと言えるこの日の記憶に浸ってたとか、単純にサムから離れがたかったとか心情的には色々ありそうだけど、もうあの速度は家の中に陣取ってたレベルだった。
 そしていざサムが親父探しにやる気になったらディーンは自分で「親父を探そう」と言いに来たくせに妙に冷静……というより親父がいなくてサムがいる状態が一番ディーンが安定してる気がした。この辺りからだんだんディーンの家族愛がただ温かいだけではなさそうということが感じられ始める。表に出したらいろんなことが終わるから死んでも言えないだろうけど、実の所親父の失踪やジェシカの死でサムが釣れてディーンが内心で喜んでいる部分は絶対にある。親父のことでサムが一緒に悩んでくれてそばにいてくれるというのは、ディーンが一番望んでる状況なのではないのか?2人の"家族愛"の中に隠された、こういう薄暗い所が好き。
 初見の時も驚いたのだけど、悪霊に怒りを増幅された時のサムが本当にディーンに向けて引き金を引いてしまうところ。そこは「どんなにムカついてても撃てない……」って流れじゃないんかい!今思えばサミーちゃんの中に秘められた怒りが状況次第で暴発しかねないという匂わせだったのかもしれない。ディーンもディーンで、弾を抜いたということはサムが撃つことを予測してたということで、流石弟から自分にもらえる感情の期待値が低い男!
 親父が二人の近くに来ているのに会えない理由は、そもそも失踪したのではなくあえて一人で悪魔を追うことで二人を悪魔から遠ざけることにしたということなのか?でもディーンがサムを頼るとまでは予想してなかったし、そのうえまさかサムが大学を捨ててこっちに来るとも思ってなかった?何も説明せずにただ消える辺りが流石親父だけど、言ったらディーンは120%付いてこようとするだろうから難しいか。ディーンが電話を変わった途端に表情も声も無機質になって「イエッサー」と言うところが、どうしてそうなるかをわかっていてもゾッとしたからサムが嫌になるのもわかる。サムからディーンに対する基本的な好感度は高いだけに、もどかしいというかやるせないというか、一番肝心なところでは自分の声が届かないことを痛感するというか……。
 ディーンと喧嘩別れしたサムがメグには「戻るつもりはない」と言いながら、次のシーンでナチュラルに電話はかけてるところが「サムって案外ディーン好きだな」と思わせるところだった。ディーンは迷った末にかけられないけどサムはかけられる辺りが甘え上手な感じがする。それと一歩間違えたら簡単に死んでしまう仕事だからなんだけど、サムの「兄貴がこの三時間電話に出ない」という台詞だけ聞くとどう頑張っても重度のブラコンにしか聞こえない所に味がある。
 ディーンが感電して心臓がボロボロになるという回で、オタオタして異常に過保護になるサムが宇宙一好き。肩を抱いて歩かせようとするところとか。ディーンはそれを振り払うけど「お前逆の立場だったらやるくせによ……!」と思った。
 これも初見で印象に残ったのだけど、コルトの弾を使ったことを親父が責めずに誉めてくれて「やったねディーン!ようやく親父が認めてくれたよ!」と見ている私は思ったのに、そんなに優しいのは偽物だからだとわかった瞬間の絶望感は何度見てもキく。シュトリーガの時のことはディーンにとってはトラウマだけど、親父はそこまで怒鳴ったり詰ったりしてないし、子供のディーンに背負わせすぎていたとこれを機に気が付いたということならそんなに酷い親というわけでもないなと思ったのにこれよ!ここまでの色んな台詞や表情から、親父もサムが家出してからの数年で自分の態度を考え直したんだろうということがわかるからあまり憎む気持ちが芽生えなかったし、サムの方もちゃんと説明してもらえればすぐに態度は柔らかくなってるからまだまだ親子の関係にも希望はあるなと思わせてからのこれよ!これが親父!「親父がそんなに甘いはずがない」とディーンが完璧に理解してるのはすごいけど悲しすぎる。でもこの後、親父とディーンの板挟みになったサミーちゃんはどっちを取るのかとやきもきさせてからディーンを取るシーンが五臓六腑に染みわたる!やっぱりサミーちゃん案外ディーンのこと好きだな。

-Season2-

 ディーンが幽霊になってウィジャ盤で会話する二人がめちゃめちゃかわいい!S2までのサムちゃんは弟力が全開でめちゃくちゃいい。ディーンの「俺を諦めないでくれてありがとう」も良い。
 親父がディーンのために死ぬのは、ディーンは嬉しくないだろうけど正直「それくらい愛されててよかったじゃん!」と思ってしまった。親父も思ったより甲斐性あるなあと……。サムを救うためでも「弾を無駄遣いした」と怒るのが本来のジョンなのに、最終的にはディーンを救うためにコルトを差し出しても良いという結論に至った辺りジョンも色々考えたんだなあとわかって憎めない。サムには「復讐が最優先事項だ」と言ったけど、本当は素材を要求した時点で取引することは決めてたんじゃないだろうか?親父の愛わかりづらいよ!
 サムがポッと出のおっさんにサミーって呼ばれて「そう呼んでいいのはディーンだけ」と返すのはかわいすぎる!最初ディーンにも「子ども扱いするなサムにしろ」と訂正してたくらいなのにそれはズルいって!こんなデカい図体して弟力が高すぎる!しかしずっと後のシーズンまでたまに言われる「ディーンは心の奥では殺戮を求めている」とか「殺す相手がいないとおかしくなる」という話は全然実感したことないわ。いつも狩りでそんなに楽しんでる様子とか無いし。いや確かに狩りをすることが人生そのものだから、狩る対象がいなくなったら生き甲斐を失うかもしれないけど、その時は普通に別の楽しみを見つけるだけだと思う。
 サムは親父に憎んでると思われたまま永遠の別れになったことに罪の意識を感じて「全然大丈夫じゃないしディーンも大丈夫じゃないだろ」と言うけど、ディーンは親父の死自体に落ち込んでいる場合ですらないほど死に際にとんでもない爆弾を落とされてしっちゃかめっちゃか……親父の遺言の内容知ったうえでこの辺りを見るとそりゃ「言えるかー!」となる。親父って生きてる頃の方がまだ言葉が足りなくても雰囲気だけで愛情を示す能力があったけど、死んでからどんどんタチ悪ポイントが更新されていく。
「死人は蘇っちゃいけない」とやたらディーンがムキになってると思ったら自分のことを言っていた。親父の命と引き換えに自分が生きてるのが間違いだと。ディーンにとって親父の存在は大きすぎるから死んだってだけでも辛くなるには十分なのに、さらにそれは自分のせいで、さらに最愛の弟は自分の手で殺さなければならないなんてディーンを滅多打ちにするにもほどがあるだろ。
 サムと同じ境遇である超能力双子の兄、弟の境遇か何かに嫉妬して彼女を寝取ってざまあみろ系かと思ったら「俺の家族を君に渡さない」とか言い出して驚愕した。このドラマ兄弟の巨大感情ガチ勢すぎる。双子だと一方的に知っていて、でも言えないから親友という体で必死に距離を詰める激重迷惑兄が良すぎる。女の子に対して「あの子は俺たちの間に入った」というヤンデレ前回なところが正直推せる。生まれた直後に引き離されてまだ何の関係も発生してないのに、双子だというだけでここまでぶっ飛べる素質!才能あるよ!でも虐待被害者のマックスはともかくイカレお兄ちゃんのこいつとサムが同じなわけないだろ!サムは自分のことをイカレ野郎だと思い始めていて「僕らは追い詰められれば人も殺せる」と言うけど、普通の殺人犯もそれまでずっと一般人だったわけだし大して変わらないって。「僕が殺人鬼になったらってディーンも怖がってた」と言うけどそりゃいくら好感度が高くても弟が殺人鬼になったら怖いだろ。自分が殺されるのも弟が誰かを殺すのも。もしもの話すら嫌とか、ディーンに嫌われることにめちゃくちゃ怯えてるサム。
 悪魔が作った狂暴化ウイルスの回、他の人は撃つけどサムが感染したら撃てないディーン・ウィンチェスター最高!そのためなら大切なインパラも他人に渡しちゃうディーン・ウィンチェスター最高!サムが死ぬときは一緒にいてくれて、その結果自分が死ぬとしても厭わないディーン・ウィンチェスター最高
 ジンの見せる夢の中でメアリーに会えて心から嬉しそうなディーンのシーンは何度見ても泣ける。でもディーンにとっての最良の世界で「こんなに嬉しそうなディーンを見られるのは初めて!」というシーンが芝刈りなのが何とも言えない気持ちにさせる。しかし理想の世界ならサムとの関係も円満の方が良いに決まってるのに、なぜそこだけシビアだったのだろう。ディーンの自己評価が異常に低いから?あと同じく理想の世界のはずなのに親父が脳卒中で死んでいるというのも冷静に考えると怖い気がするのは気のせいか?親父がいない方がディーンの心の平穏は保たれるという暗喩というのは穿ちすぎか?穏やかな親父があまりに普段のイメージとかけ離れすぎてるからというだけか?
 超能力者の子供たちを使う「来るべき戦い」とはアポカリプスのことだと思うけど、最後まで見てもアザゼルの超能力戦士計画とルシファー復活計画の繫がりがあまりわからなかった。サミーちゃんは生まれる前からルシファーの器になることが決まっていた特別な存在なのに、わざわざ他の人と競い合わせる意味はあったのだろうか?他の候補者はサムの超能力を育てるための捨て石のつもりだったのか、仮にサムが負けたとしても蘇らせて器としては使って勝者は勝者で戦力にしたのか?これについては最終回のアザゼルの台詞で「悪魔は取引でないと死者を蘇生できないからディーンがやってくれて助かった。ジェイクよりもサムの方が良い」というものがあるから、やっぱりサムを使うのが大前提でまさか負けるとは思っていなかったように思える。器になる人間が預言で決まっているということをアザゼルが知っていたのかを忘れてしまった。悪魔は天使と違って預言に拘る気持ちはないのかもしれないが、器としての適正の問題があるからサムが無理なら他でいいやとはならない気がする。
 ラストでサムが「ディーンが僕のために全てを犠牲にしてきたんだから今度は僕がそうする」と健気なことを言っていて、ディーンも弟が自分を諦めないでいてくれることに嬉しそうで、S4のサムを思うとそのディーン愛をどこに落としたんだと苦笑いするしかない。

-season3-

 最初のシェイプシフター回の時、ペンダントを取り返すシーンがアップで映ったから何か深い意味のある物なのかなと思っていたんだけど……超感動エピソードだった……ディーンのサム愛……。そしてここに来てやっとサムの方からディーンへの気持ちが聞けてよかった。「4歳の頃から憧れてたんだからディーンのことなら何でもわかる」らしい。ディーンが「親父からのプレゼントだ」なんて嘘を吐いたのをサムが責めなかったのは、そんなことをしたのが誰のためだったのかちゃんとわかっているからだろう。サムにとっては記憶のないお母さんやいつも家にいないお父さんよりも、身近にいるディーンが一番大切になるのは道理。
 人の夢の中に入れる薬草の回で、夢の中でのディーンも現実のディーンも親父の悪口は言うけどサミーの悪口は一つも言わないことに驚いた。「なんで兄に生まれたというだけであいつを守らなきゃならないんだ!」とか言ってもおかしくはない境遇なのに言わない。夢の中の自分はイコールで本心ということなので、少なくともサムを守るということ自体には異論は無いらしい。それがわかってディーンの愛情には暗い部分もあるが愛情そのものは間違いなくあるんだなと感心した。
 後期シーズン見た後でまた見ると、地獄行きを避けるために兄貴の臓器を次々と取り換えることで命を保とうとするサミーは普通に病んでる。この頃からとっくに重症だったわ。「じゃあ僕も不老不死になればいい!」と発言しているが、それは二人揃って他人から臓器を強奪する怪物になるということなのにそれでいいと思っているということか?サムのディーン愛もかなり重い。