感想置き場

BLとアサシンクリードが好き

ホン・トク『狐艶伝』感想

 このブログのヘッダーに「BLが好き」と書いてある割に商業BLについて書くのは初か?商業BLは読むだけで満足してしまって、感想をまとめようという気持ちがなかなか起こらなかったのだけど、今回はこの衝撃を自分の中で整理しておきたかった。

 墨香銅臭先生の『魔道祖師』が個人的に大当たりで、同作者の『天官賜福』も今日本語訳が出ている分までは読んだらそれもまた素晴らしかったので、もう中華BLに骨を埋めようかなと最近は思い始めていた。それで何か良いのがないかなと探していたらこの『狐艶伝』の表紙のものすごく上手い絵が目に留まって、アマゾンレビューを見たら「とにかく雄っぱいがすごい」「雄っぱいのデカい父親が出てきてこんなのもう乳上やんと思ったら本当に言われてた」等の文言が出てきて即購入を決めた。普段の記事でこういう話はあんまりしないし、我ながら「衝撃」とか言って深い話がしたいのかと思いきや結局エロ目的やんという感じなんだけど、個人的に令和のBLは男の雄っぱいに本気出してなんぼと思っているので、もうしばらくは雄っぱいに本気の作家の本しか買いたくない。絵が綺麗なだけだったら買わなかった。絵がものすごく綺麗な作品って確かに絵は上手いんだけど、コマの中の動きが完全に止まっていたり、人物ばかりに力が入って背景が真っ白だったり、単純にストーリーに興味が惹かれなかったりして、漫画としての上手さで考えたらそんなにでもないなと思うことがたまにある。ただこの漫画はその点でもしっかりしていて、どんどん続きが読みたくなった。

 そして肝心の(?)雄っぱいの話をするのだけど、ま~~すごかった。想像の1.5倍くらいすごかった。その「乳上」というのが表紙に描かれているメインカプとは少し離れた脇役のキャラのお父さんなのだけど、とにかく登場シーンから雄っぱいがすごい。なんだその服は!?ソシャゲの女かよ!?いや女はある程度隠さなきゃいけないからそんなすべてが丸出しの服は着ねーわ!ってくらいもうそこにしか目が行かない。それを読者が勝手に思っているわけではなくて、作者が描いている画角がもう、お父さんの雄っぱいが前面に出てその後ろに発言している人物の顔が描かれているという感じで、しかもそんなコマが一つや二つじゃない。作者が完全にこの人をエロ要因扱いしている。やべーよ令和。進みすぎだろ。しかもなんとそれだけでは飽き足らず、そのお父さんは実子(成人男性)に「甘えさせる」という名目でエロいことをさせている。やべーよ令和。巻末の相関図にその息子からお父さんに向かって「甘える」とかいう矢印が出てるんだけど、それは「甘える」とかいう次元じゃねーだろ!定義が壊れる!しかも更にやべーのが、そのお父さんの子供は一人ではなくてまだ兄がいて、その兄が二人の情事を目撃してしまうのだけど、その時抱いた感情が「敗北感」だからね。敗北感!?そこで感じるのは敗北感なのか!?普通はドン引きするところだろ!?いやーさすがBL、常識をぶち抜いてくる。どう考えても非常識なことでもあたかも常識かのように堂々と展開してくるその胆力。これだからBLはやめられない。その兄自体もまた面白くて、弟に父上を独占されているという思いから従者に父親そっくりの者を選んでしまったりとか、もう複雑で最高。しかも従者側もそのことをわかっていて彼に命を捧げている。この本、好きなタイプの男しか出てこない。

 中華BLの良い所は登場人物の多さとそこから生まれる多様な人間関係だな。登場人物が多いからこそキャラ分けのためにいろいろな性格や境遇の人間が出てくるし、それらの人々の感情が複雑に絡み合うのが面白い。『魔道祖師』もそこが素晴らしかった。あとはやっぱり知らない文化を知れることの楽しさ。天界と人間界と魔界の設定は向こうではお約束なのか?仙人やら修行やら、神から人間に生まれ変わるやらの設定は初見だったら難しかったと思うが、『魔道祖師』で散々慣らしておいたおかげで難なく理解できてよかった。

 最初に乳上の話をしてしまったのでメインカプの話もしておく。ここは割とよくある、男と女の良いとこ取りのような、美人で世話焼きの年上受けと、彼に拾われて恩義を感じている献身系年下攻めなのだけど、面白いのは受け(名前は高春)には攻め(斐進)の他に九百年前から愛し続けている男(シュイ)がいるところ。シュイはその九百年前に天界の神によって封印されたのだけど、高春は彼の復活を待ち続けているらしい。いや~好きだぜそういうの。今はもういない男を何百年も健気に愛し続けるとかそういうの。でもそんな男がいる割に斐進くんのこともまんざらでもなさそうで、コイツはどういうつもりなんだ?と気になる。単にシュイに対する当てつけに利用していると言い切るには斐進くんに対する表情が優しすぎるし。

 そして斐進の方にも面白いというか気になるところがある。高春はなんやかんやで人間界に落とされることになって、その時に多すぎる霊力を分割して送られた、つまり二人に分かれた状態(兄弟)で人間に生まれ変わったのだけど、その高春を追って斐進も人間界に降り立つことになる。そうなると人間界に存在する高春の魂を持つ者は二人いるわけで、つまり斐進は兄弟丼をすることになるわけだ。いいんだ、BLで兄弟丼って……。いやなんか、BL好きってロマンチストが多いから運命の存在とか唯一無二とか好きじゃん?真の愛によって救われるみたいな……。そういうのって一人じゃないといけないのかなと勝手に思っていた……。私も常識に囚われていたということか。いや同じ魂だから一人といえば一人なのだけど、弟側の人格が元の高春と違いすぎて普通に見てたら他人に見えるから「そういうの許されるんだ!?」とびっくりした。

 まだ一巻なのでこの先どうなるのかは全く未知数なのだけど非常に続きが楽しみ。