感想置き場

BLとアサシンクリードが好き

『SUPERNATURAL』Season4~5 感想

-season4-

 私は今期初登場のカスティエルというキャラがめちゃくちゃ好きで、理由は私の好きな低音寡黙キャラかつ正しさと情の狭間で葛藤するキャラかつ献身キャラだからなのだけど、さらに昔から天使と名の付くものは大体好きなのでもう私の好きな要素しか無い。たぶん彼が出るということを知らなければ見続けなかったと思う。後期シーズンになるとだいぶ丸くなって感情も豊かになるのだけど、初期カスティエルの無機質な感じがたまらない。でも教えるべきことは教えてくれるし、他の天使みたいにネチネチ嫌味を言ってきたりしないから、情は感じられなくても公平だということだけはわかる。会話の諸所から滲み出てくる圧倒的「実は良い奴なんだろう」感もある。だからディーンが他の天使には言えないことも「こいつなら」と思うのはものすごく納得できる。
 ディーンが女をとっかえひっかえするのは愛情が不足してるからで、それがなぜかといえば親父のせいでしかないんだけど、サムがそうならなかったのはディーンが愛情を与えてくれたからで……。過去回でサムが友達のために戦えるのは素晴らしいことなんだけど、それでサムは称えられてディーンは哀れな子呼ばわりされるという構図が……惨すぎる……。サムにとって学校は「自分の道は自分で選んでいい」ということに初めて気付かせてくれた先生がいる場所というところに兄弟のえげつない格差を感じる。サムが「あなたは誰もくれなかった関心を僕に向けてくれた」と先生に言ったのは、ディーンはサムも当然家業を継ぐものと思っている点では父さんと何も変わらなくて、サムを絶望させていたからだと思う。
 しかしセイレーンの回で、そいつがもたらすのが「愛情ホルモン」とは言うものの、ディーンの他に引っかかった人達の前には全員理想の女(つまり恋愛対象)の姿で現れたのに、ディーンには「理想の弟」だったのが“ガチ”すぎてビビった。しかも特別にイケメンというわけでもない普通の容姿だったから尚更、表面的な熱に浮かされてる感が無いから「“ガチ”なんだなあ」と思わせる。これで顔までサムに似ていたらマジで居たたまれなくて画面を見られなくなっていたと思うから助かったかもしれない。しかしディーンにとって女の子というものはどこまで行っても遊びの域でしかなくて最愛の存在にはならない、という圧倒的証拠を見せられて私はどうしたらいいのか。ここで「昔は一緒だった」とディーンは言ってたけど、悪魔の血をもつ苦しみはディーンにはわからないし、地獄に堕ちた苦しみはサムにはわからないから2人ともそれぞれの孤独を抱えている。一緒だと言えたのは狩りという同じ道を歩んできたからであって、今の2人は見てきたものが違いすぎている。S3はお互いの命を守りたがっているが故の喧嘩だけど、今期はひたすら2人の違いを思い知らせる話だからこんなに居心地が悪かったのか。ここまで付いてきた視聴者に対してS3の終わり方もなかなか過酷だったけど、今期のせっかくディーンが生き返ったのに喧嘩ばっかりなのもまた過酷。
 ディーンが地獄に居た頃の上司であるアラステアが最高だった。ディーンを傷つけるには親父のことを持ち出すのが一番で、さらに言えば「完璧なヒーローである親父に比べてお前は出来損ないだ」と言われるのが一番心をえぐられるということも完璧に把握している。ディーンが拷問している側なのに場を支配しているのはアラステアの方に見えて、彼が拷問の天才という評価に完全な説得力を与えている。初登場時の紳士っぽい器も素敵だったけど、その後の枯れ気味で骨張ってて狂気が滲んでいるような老人姿にディーンが手玉に取られてるのが良すぎる。ここで死んでしまうのが本当に残念。
 ところでディーンがいつの間にかカスティエルをキャスと親し気に呼んでいて、初見では気が付かなかったからいつそうなったのか確かめたのだけど、初めてキャス呼びしたのはおそらくルビーとサムの繫がりが判明したときの「Cas said that if I don't stop you...he will.」だと思われる。初めて面と向かって呼びかけたのは、パメラの葬儀の後アラステアの拷問のために呼び出される時の「Cass, you remember her. You burned her eyes out.」のはず。
 しかしアラステアにボコボコにされたディーンが「世界を救うなんて俺には無理だ」と落ち込んでいたら「神とか親父とか関係なくお前は生来のハンターだ」と天使が励ましに来てくれたのはウケた。ディーンが一番言われたかったのって実はこの言葉なんじゃないか?記憶を消して実在の場所に放り込んだだけなら、あのエリートとしての働きぶりはディーン自身の実力ということになるからね。ディーンは自分のやることから好きな物まで全部親父の真似だと言ってたけど、能力や人助けの志はディーンの物であることは間違いない。
 ディーンの方は何だかんだあっても、サムに何でも打ち明けてほしいと思ってる所は変わってない。2人の距離はサムちゃんからの矢印が少なすぎるのが原因。S3であんなに頑張ったのに結局ディーンの地獄行きを止めることが出来なかったという無力感や、自分が関与しなくても結局ディーンは生還して前みたいにディーンディーンしなくていいのは確かだが、それにしたって今期のサムはルビーやら超能力やらの方が大事そうに見えて困惑した。
 親父に隠し子がいたと判明する回にはもう、「ディーンが何したっていうんだ……」と思った。ジンの夢の世界ですらディーンが望んだのは「家族の平穏な暮らし」だけだったのに……。自分がサムに嫌われてても、母さんが生きててサムが弁護士になれていい嫁さんもらえる世界であればいいって……。それなのに親父が別の息子作ってて一緒に野球観戦!?ディーンがどんだけそれを望んでたか……。12で初めて存在を知ったアダムに狩りしろなんて言えないかもだけど親父いくらなんでも酷すぎるって。親父について知れば知るほど終わってるエピソードが増えていく。初見ではアダムのことで「親父が死んでもその願いを叶えようとするなんてディーンは懐が深い」と私は思ったけど、二回目を見ると実はそんなに良いものじゃない気がしてきた。自分がなりたくてもなれなかった「親父に愛される普通の息子」に嫉妬しながら、その理想像を守ろうとしているというか……。でも冷静に考えると、親父がアダムの前で理想の父親として振舞えていたのは年に一度だからという理由も相当あると思う。その時は彼にとっても稀な休日のようなもので、長期的に関わることになっていたらたぶん維持できないと気がする。やっぱ親父ってロクでもねえ……。
 悪魔の血中毒のせいで監禁されたサムが幻覚の子サムに「ジェシカが死んだことを普通の生活を諦める口実に使ってる」と言われるシーンがあるが、確かにサムの戦う動機については私も理解できていなかった。人を救いたいという気持ちがあるにはあると思うけど、ジェシカの死が無ければあの生活を続ける気ではあったんだから、それは第一の動機ではない気がする。やっぱり悪魔の血をもつ化け物である自分の存在を、世界を救うことによって反転させることが目的か?母さんの姿でわざわざ正義について語らせたのもやっぱりそういうことなのか。でも台詞の端々に、自分が化け物であることそのものよりもディーンに化け物呼ばわりされるのが一番堪えていそうな気配があった。
 私も最初、ディーンはサムが心配というより化け物が一体増えるのを心配しているのかと思ったけどそんなことはなかった。でもサムちゃんの方はディーンのことを「弱い」とか「僕の強さに気付いてない」とか散々なことを思っていることがわかってわりと見損なった。サムはディーンを舐めているけど、最大限サムに寄り添った見方をすれば、ディーンもサムがどうせ悪魔の血に負けると(実際たまに負けている)舐めているのは同じなのかもしれない。
 ボビーが天使よりも天使すぎて泣ける。「親父がサムと分かり合うよりも離れるのを選んだのは勇気じゃない」ってそれそれそれそれ!よく言ってくれた!親父は他人のヒーローにはなれても家族と向き合う勇気はもてていないってものすごく思ってた。ディーンは親父を神聖視してるから、アラステアに「あの男は100年でも誘惑に耐えられた」と聞いて「それに比べて自分は……」と思ったかもしれないけど、家族から逃げないのも勇気だってそれ一番言われてるから。ボビーほんと親父より親父すぎる。この作品の清涼剤。でもディーンからの矢印をサムの方が片っ端から叩き落としてきたんだから、サムが去ったことでディーンが責められるのはおかしい。サムちゃんからの矢印が足りないのが悪い。
 二回目をまた見直してみて、確か初見の時も似たようなことを思った気がするけど、悪魔とつるんだくらいでディーンは怒りすぎじゃ?と思わなくもない。ルビーのことは置いておいても、超能力で人を救えていることまで頭ごなしに否定してくるし。最終話まで見れば結果的にディーンが正しかったのはわかるけど、この時は「お前が弟じゃなかったら狩ってる」は言い過ぎじゃないかと思った記憶がある。おそらくだけどこの頃のディーンの「弟を守る」は「人間としての弟を守る」って意味でもあるから、少しでも異常な要素が混ざる時点で許せなかったんだと思う。その考え方がサムにとっては管理されているように思えるし、「ディーンが信じる理想の弟像」に縛られるように感じたのではないか。
 ディーンはサムが悪魔と関わるのをやめて超能力を否定すれば綺麗な存在でいられると思っているが、サムの方は自分の汚れた血を取り除くことはできないと知っているからこそ、せめて善い行いのためにその力を使いたいと願う。
 初見ではついディーン寄りの立場で見てしまったから、二回目はサムの立場になるべく立って見ようとたのだけど、そうすると一応ディーンの束縛癖も大概かもしれないとは思えてくる。他人と長く関われないから、安心して愛せる家族に依存していて、しかも思い出の中の「可愛いリトルサミー」にしがみついていると言えなくもない。いやでもやっぱりサムの「僕はディーンより強くて賢い。ディーンは自分を憐れんだり泣き言を言うのに忙しい」という発言はどれだけ好意的に見ても酷いと思う。
 セイレーン回のは「魔物のせいで思ってもいないことを言わされただけ」で逃げられたけど、アラステア拷問の時のサムは完全に素面だったのに「ディーンは前より弱くなったからこの仕事をやり遂げられない」は酷すぎて、見たのは二回目なのに引いた。しかも「(ディーンはダメだけど)僕は強くなる」はとんだ思い上がり小僧でしかなくて擁護不可能。
 ディーンの夢(寝て見る方)が静かな湖畔で一人釣りをすることなのがすごく腑に落ちる。ディーンが根本的に求めているのは安らぎだと思ってるから。S6で天国の中でキャスが気に入ってる場所がただ穏やかな場所だったのと重なるから、キャスがディーン好きなのもわかる気がする。
 預言者の回のチャックとサムだけの会話で「今のディーンには助けが必要で、自分はずっと面倒を見てもらってきた恩があるから彼の重荷を肩代わりしたい」というようなやり取りがあって驚いた。それを言うのと言わないのとじゃ印象が全然違うだろ!?たぶん複雑な感情の中の一要素でしかないんだろうけど。
 サムと決別して落ち込んでるディーンにボビーがかける言葉は何度見ても痺れる。前半の「家族は時にお前を悲しませる。なぜなら家族だからだ!」も良いけど、その後の「お前は親父よりもずっと良いやつなんだ」がすごすぎる。親父のことを堂々と腰抜け呼ばわりするのはボビーぐらいのものだし、自己評価の低いディーンのことを「親父よりも良いやつ」なんて言い切れるのが本当にディーンのことを見てくれているんだなと思う。
 サムも最後まで本当はディーンと分かり合いたいという気持ちがあって、もしかしたらディーンが正しいかもしれないとも内心で感じていた。でも悪しき存在である自分を浄化したい気持ちとディーンへの反抗心が勝ったということのようだ。そのうえサムにとっては最大の譲歩である「僕たちと一緒に来てほしい」という懇願がディーンに跳ねのけられたのもあるし、ディーンの口から一番聞きたくなかった「お前はモンスターだ」という言葉を聞いてしまったのが一番ダメだった、ということらしい。それでも最後のディーンからの留守電さえちゃんと聞けていれば戻れたと思うけど、おそらく天使の細工で悪意のあるものに変えられていたせいで最後の分岐点を越えてしまったという悲劇。
 それにしてもディーンがサムに電話をかける選択をした勇気にも感動したけど、その中の「俺は親父じゃない」がボビーの言葉が届いた結果だと思えて泣けた。

-Season5-
 
 ルシファーの封印を解いてしまい、悪魔の血中毒があるのに狩りを続けるのは気が気じゃないという理由でサムが離れることになるのだけど、本当にキャスがいてくれてよかった……。三人目がいるだけで全然違う。二人だと一度決裂したらそこで何もかも終わってしまう予感があって気やすく喧嘩もできないけど、もう一人いることで一旦離れて気持ちを落ち着けることができるし客観視も出来る。しかしディーンの「サムがいないと生きられないと思っていたけど、サムの心配をする必要がなくなって今俺は幸せだ」のシーンは思い返す度に泣ける。ディーンが家族に対して決して返らない愛を捧げ続ける孤独は、天使たちが神を想う気持ちと全く同じ。捧げるのに疲れ果てて心が擦り切れてしまうなら、いっそ忘れてしまえた方が幸せかもしれない。二回目見て、悪の巣窟に行った時のキャスの行動に心から爆笑してるディーンを見られるのも嬉しいし、ディーンの笑顔につられてキャスも笑ってるのが可愛すぎる。そしてその後の「こんなに笑ったのは何年ぶりだろう」からの「お前といたこの24時間はサムといた数年よりずっと楽しかった」は何度見ても泣ける。さらに先を知ってから見ると、それでもディーンはサムを愛する心を捨てないとわかっているから尚更泣ける。
 ザカリアによって「ディーンがミカエルの器にならなかった未来」に飛ばされる回の最後で、初見の時は未来から戻ったディーンがサムを呼び戻すことを決めた理由がいまいち理解できなかったんだけど、「互いに人間性を保ち合おう」という台詞があるから、ディーンの存在がサムを人間として保つのと同じくらいサムの方もディーンに対してそういう効果を発揮するということになる。サムが道を踏み外すとしたら当然悪魔の血のせいでだけど、ディーンの方もサムが去ったことで人として大切な心を失った未来の自分を見てきたからの結論だと二回目で理解できた。この回のオーディオコメンタリーで「今のディーンと未来のディーンを傷や眼帯で区別することはしなかった」と言ってて、こういう上辺の効果に頼らない硬派なところが好きなんだと思った。そんなことができるのはジェンセンの演技力がズバ抜けてるからこそだと思う。会話シーンが多いのも「一対一の人間関係を重視してる」ということの表れだと思うからこのドラマのそういうところが好き。 
 ジョンとメアリーを殺すために過去に行ったアンナを止めに行く回で、ジョンが狩りのことで頭がいっぱいになって家族をおろそかにしてきたのは、悪魔や魔物を狩り続けてないとどうにかなってしまいそうだったからというので一応納得はしたし、子供にもそれを要求したこともサムが恨んでないと言うならまあいい。……と思ってたら母さんの生前から親父のクズエピソードあって笑う。ディーンはこんな頃から自分より家族の感情優先って全然笑えない。母さんも母さんで悪魔と契約してジョンを生き返らせたことは記憶にあるはずなのに「普通の生活」を送れると思ってるお花畑だし、無数の人間が死ぬって言われてもジョンと別れねーわ子供も産む気だわで「天使が見守ってる」も全然良い意味じゃないしで割と酷い。
 二人が天国に行く回でディーンがザカリアにボロクソに言われるのだけど、「サムなんか言い返してやれよ!そんなことないって言ってやれよ!母親の記憶は無くてもディーンとの記憶はあるだろ!ディーンからの愛情を贅沢に受け取っておいて何も無しかよ!」とわりとサムに対して苛立ちを感じてしまった。この辺りのサムからはディーン愛がほとんど感じられないので見ていてしんどかった。生後半年で死んだ母親の記憶も優しかった頃の父の記憶も無いせいで、家族に対する熱量をディーンと共有できないのは仕方がないが、少なくともディーンに対しては恩知らずが過ぎる。
 そこから物語の佳境になるのだけど、もうそこまで行くと脚本にディーンを悲しませたい趣味があるとしか思えなかった。サムとの唯一と言っていい確かな絆であるペンダントを捨てさせるとは……。最初は神なんかクソくらえと思っていたディーンが、両親を救うために行った過去で何も変えられず、ミカエルに「すべては初めから決められていることで、自由意志など幻想にすぎない」と言われて絶望していたところへ、飢饉の騎士に自分の心がとっくに死んでいることを見抜かれ、サムもまたしても悪魔の血を飲んでしまうわで「もう神しか俺達を救えない」という心境に至る流れは違和感なく理解できるけど、ここまでディーンの心を徹底的に折っていく手法には戦慄する。しかもそこからさらに「神は一切関知しない」と宣言され、サムからも「家族から離れられてハッピー!」という記憶ばかり見せられ……まだやるの!?ってくらいとことんディーンを打ちのめしてくる。そりゃ思い出のペンダントも捨てたくなりますよ。神とサムの両方に期待するのをやめるという表現としてこれ以上のものは無い。いろんな意味で恐ろしい脚本。 
 なかなかミカエルの器にならないディーンのスペアとして生き返らされたアダムという小僧が「血縁があっても家族じゃない」と真理を突いてきた。というか今まで誰もディーンにこれを言う人がいなかったのがヤバい。血縁はただの事実であって、家族の絆とは「何をして、何をしてもらったか」の記憶が作るものだから、アダムの「俺が大事なのはあんたらじゃない」という言葉は実に正しく自分を理解している。血縁だからとどんな酷い扱いをされても無条件に信じる方がどちらかというと歪んでいる。
 しかしディーンがサムのことを信じられないのは100%日頃の行いのせいすぎて何も言えない。飢饉の騎士の時も二回目は断ったといえ結局血吸っちゃってたのに逆に何でサムはそんな元気なんだと疑問だった。「僕を見捨てられるはずがない」という台詞は流石にコイツマジかと思ってしまった。お前ディーンからの愛が無限だと思うなよと。しかもそのサムがアダムに対して「兄弟だから」とかぬかすのを聞いた時のディーンの冷笑はいっそ芸術的だった。お前そう思うならもっとディーンにラブコールしろや。離れていきそうになってやっとディーンディーンって。
 そう思っていたんだけど……その後の話で何もかもがひっくり返った。負けたよサム、私が甘かった。愛とは信じること。相手にどう思われてるとかは関係ない。ただ信じること。それを思い出した。ここまでついてきてよかった、報われた。ディーンからは「お前を信じてない」ってあんなに言われたのに、それでも自分はディーンを信じると言えるサムの強さ。それは無知ゆえかもしれないし傲慢ゆえかもしれないけど、それでも「ディーンなら大丈夫」と言ってくれる。そのことがどれだけ力を与えてくれるか。負けたわ。サムにとってのディーンは絶対の愛をくれる人で、たとえ迷ったとしても最後には絶対正しい選択をする人なんだ。夢見すぎだし甘えすぎなのかもしれないけど、ディーン自身も気づいてないディーンの強さを信じてくれてるんだなと思ったらもう涙が止まらない。ディーンが直前まで本気でYesと言う気だったのにサムの顔を見て気を変えた理由が語られるところは何度見ても素晴らしすぎて鳥肌が立つ。「世界が終わりかけてるって時に俺が考えられたのは、『この馬鹿が俺をここに連れてきた』ってこと。お前をがっかりさせたくなかった」。ディーンは神にも世界にも自分にも絶望していたのに、こんな自分をまだ信じるという大馬鹿者がいてくれて、その期待に応えたいと思った。気持ちが通じるってのはこういうことなんだ……本当に文句無しの完璧な展開だった。
 ディーンのサムに対する「俺が守ってやらなきゃ」という気持ちは「こいつにはできない」という気持ちと近い所にあって、兄としての愛情と責任感を持つほどにサムの頼りない面しか見えなくなっていたけど、ここまでとことん失敗してきたサムはもう何が本当にやるべきことなのかを理解している。そしてディーンにとってもサムは「いくら愛しても何も返してくれない弟」ではなくなっていて、だからこそ「ただ信じる」。そしてディーンは、サムがルシファーを受け入れたうえで自ら地獄の檻に飛び込んで封印するという作戦にも「俺が許すかどうかじゃなくてお前がどうしたいかだ」と言えるようになった、という流れが非常に丁寧で痺れた。
 ミカエルは「いい息子でいる」ことに最後まで拘っていたけど、結局ディーンは親父の「サムを守り切れなければ殺せ」の命令はとっくに破ってるから彼とは違う。確かに形式は親父の真似だけどインパラに染み付いた記憶はディーンのものだし、親父とサムの両方を愛してるのもディーンの個性だから。
 ルシファーがミカエルとの戦いを避けたいという意思を最後まで持ち続けているところも、ミカエルを害して良いのは自分だけだと思ってそうなところも愛を感じて好きだし、ミカエルの方もルシファーの懇願に動じていないわけではないのに結局は「お前が裏切ったせいで幸せが壊れた」と攻める気持ちが勝つのも、何百万年前だかに同じようなやり取りをしたんだろうなと思えて良かった。しかもまたしてもモンスター呼ばわりしてて、テーマが一貫してるなあと感心した。
 ルシファーも「サミーのためにディーンに対して我慢してた」とか言っていて、人間のこと虫けらと思ってるのに器だからと相当な譲歩してをくれてるから、実際そんなに悪いやつじゃないかもと思った。結局作戦でサムがイエスと言ってしまったけど、欲を言えば初めてサムと会話したときにルシファーが言っていた「君に嘘をついたり騙したりしないで承諾させる」のをどうやるのか見たかった。「私は嘘をつかない。必要が無いから」の圧倒的大物感が好きで……。
 親父の良い息子でありたい兄と反抗する弟、弟は兄を愛していて争いたくないと思ってはいるけど、兄は親父を捨てることはできないという関係性が完全にシンクロしている構図が上手すぎて痺れる。
 そして「インパラが2人の家」という語りから繋がるラスト。ここぞという時の記憶のフラッシュバックなんてベタベタだけど2人が歩んできた道を視聴者はずっと見てきたんだから泣けるよ。サムの中に入ったルシファーがサムに「君の気持ちがわかるよ」とか「私が君の本当の家族だ」とか言って共感で内側に入ってこようとするけど、そこでルシファーが言ったことも、ディーンとの思い出の数々がサムの中に蘇るシーンで「本当の家族」とはどういうことなのかという圧倒的な実感には勝てないというところが素晴らしかった。アダムの時の「血縁があれば家族なのか?」という問いが先にあって、サムにとってディーンが大事なのはそうではなくて、記憶があるからだ、と教えてくる流れが良すぎる。アダムの存在があることで、ディーンにとってなぜサムなのか?サムでなければいけないのか?弟であれば誰でもいいのか?という視点が生まれる。そうしてディーンはサムを信じ、サムはその信頼に応え、「最後に彼らが選んだのは家族だった」で終わる。「家族とは何か?」「信じるとは何か?」「愛とは何か?」という問いに本気で取り組んだ良いドラマだった。