感想置き場

BLとアサシンクリードが好き

ドラマ版『HANNIBAL』感想

 前に友達にHuluチケットをもらってラストまで一気見してたんだけど、その時は人肉料理の衝撃とかマッツのカッコよさとかに気を取られてあまりストーリーが心に染みこんでなくて、最近「何か最終回までクオリティが保証されている良いコンテンツが無かったかな~」と考えていたのもあってこのドラマの存在を思い出して、もう一度じっくり見てみることにした。

 そうして全部知ったうえで見てみるとつまるところ、ハンニバル・レクターの恋が成就するまでの話だった。最初に出会った時からずっと「ウィルを伴侶にしたい」という姿勢が一切ブレてなかった。それがウィル本人から拒絶されても全然諦める気配がなくて一歩間違えればストーカーなんだけど、実はウィルの方もハンニバルと一緒になりたい気持ちが心の奥底にずっとあって、その二人の痴情のもつれに周囲が巻き込まれていく……というかなり湿度の高いラブストーリーだった。もう中盤なんて見てて「そんなまどろっこしい愛情表現はいいからさっさとキスせえ!」思ってたもの。私は小説の『レッド・ドラゴン』と『羊たちの沈黙』と『ハンニバル』は読んだんだけど、原作エピソードはかなり取り入れつつも話の主軸はずっとハンニバルとウィルの関係から動かさないから原作とは全然味わいが違った。二人の関係は原作ハンニバルクラリスの関係とも全然違う(私としては原作クラリスとの関係は母ちゃんで、ハンニバルにとって妹が尊い存在でありそのために自分の身を捧げることに疑問は無いけど、そうあればあるほど決して満たされない部分があって、それを埋める存在がクラリスという感じ)。このドラマではもう大体のものはハンニグラム(二人のカップリング名)を引き立てるためのものと思った方がいい。

 シーズン1は共感力で殺人犯を追うウィルが、理解者を欲しがるタイプのサイコパスにとって理想的な存在ということがよく描かれてた。特にその魅力の虜になったのがハンニバルで、彼の作中最初の殺人がウィルの捜査中の事件の手助けになるようにという意図のものだったのが印象的。ここで重要なのが、共感とは相手の感情が勝手に流れ込んでくるわけではないから、ウィル自身もその感情を持っていなくてはならないということ。だから変質者に同類呼ばわりされるのは濡れ衣というわけではないということ。

 シーズン1ではまだハンニバルが善良な精神科医のふりをしているから、ウィルに自分の存在を匂わせたいけど真実に気づかれてもいけないという駆け引きが楽しかった。綱渡りというにはあまりにFBIがハンニバルに疑いの欠片も持たないせいでヌルゲーと化していたんだけど、次にどんな芸術的な死体を見せてくれるかという期待をハンニバルがいつも叶えてくれたからよかった。この頃のハンニグラムで特に良かったのは出会いの時点で「ウィルのためにやるよ」と狙いを定めているところと、その後まだ一話なのにお弁当持参でウィルの家に現れるところと、死体で楽器を作るトバイアスの回で、ウィルが殺されたかも(ハンニバルが自分で行かせたんだけど)と思われてしょんぼりしている所にウィルが無事に帰ってきた時のホッとした顔!あれで「あ、好きなんだな」と察した。しかしトバイアスの回で興味深かったのは、サイコパスどうしは互いの自我が強すぎて反発するから仲間にはなれないけど、ウィルみたいにとことん受動的に同調してくれる人が相手ならなれるということ。ハンニバルは色んな異常者から理解してほしいと迫られるけど、彼には彼の美学があるので他人に合わせて”あげる”というのは性に合わないらしい。

 ハンニバルのヤベーポイントは臭いで腫瘍がわかるという特技でウィルが脳炎だと気づいていたのに、彼が脳の検査を求めた時に「間違った場所に答えを求めるな」と食い気味に阻止しようとしたところ。「必要なら火を消す」とか言ってたけど重症化してからでそんな綺麗に治るかな!?それにそうなるまでのウィルの苦しみは度外視な辺りがめちゃくちゃ怖い。しかもその脳炎すらハンニバルの光刺激のせいだったことが後でわかるという……。ウィル可哀想……。この頃のウィルは共感力で正解のルートを選べているのに、当のハンニバル精神科医なせいで妄想扱いされて周囲にもそれを信じられているのが終始可哀想。厄介なのがそれでもハンニバルの「ウィルを守りたい」という言葉は嘘ではないということ。嘘では無いんだけど「守る」の定義が常人とかけ離れているせいでこうなった。

 ウィルは自分が命を救ったアビゲイルと家族になろうとしていたけど、シーズン1のラストで様子がおかしいからと小屋に置いてかれてるのが信頼関係が全然できてなくて笑えた。おまけにアビゲイルが死んだらしいという時にも、耳が見つかっただけで死体は上がってないからまだまだ生きている可能性は考えられるはずなのに、友人のはずのジャックもアラーナも全然ウィルを信じてくれなくて笑えた。そして唯一信じてくれそう(とウィルは思っている)なハンニバルこそが元凶という……可哀想……。でも意識が飛んいる状態で無意識にハンニバルの所に来てしまうウィルは正直可愛い。困ったらハンニバルに頼る癖がついてて可愛い。自分を陥れようとしている相手のところにまんまと飛び込んでいくところが哀れだった。

 シーズン2になってからは、ウィルをハメて逮捕させるもの釈放させるのもハンニバルで、弄ばれている感がすごかった。ハンニバルとしてはウィルが死刑になってしまったらお友達になれないから困るものね。ウィルの脳炎を治さないのも精神的に追い込むのも彼自身の"本来の姿”に気づかせるために必要な過程という認識なのが怖いところ。だからウィルがハンニバルへの憎しみにのまれて獄中から刺客を差し向けて、今までの「ハメられただけの無実の人間」から本当の殺人(未遂)犯になることはまさにハンニバルの思惑通りというわけ。しかしシーズン2のハンニバルは自分でウィルを収監させたくせにいつもの予約時間は空けたままで物思いに耽ってる(当然内容はウィルの事ばっかり)ってマジ恋。ベデリアの「そんなに寂しいなら最初からハメるな」ってホントそれすぎ。

 アラーナに関しては、ウィルに気はあるけど精神が不安定なままで付き合うと先が見えているという理由であえて距離を取っているという、目先の感情に流されない冷静な女だと思ってたのに、実は最初からハンニバルとどうにかなりたかったみたい?で、一回寝ただけですっかりハンニバルの女になってたので混乱がすごかった。それとマーゴは原作だともっとゴリラ系肉食女子だと思ってたんだけど結構普通で残念だった。恋愛に浸って頭が砂糖漬けになるタイプより「お前に興味はないが強い子を作るために精子寄こせ」みたいなタフネスタイプの方が好感が持てるんだけど、その点アラーナは終わった。初期のアラーナ好きだったのになー。

 ウィルがマーゴとヤるときにアラーナを投影するのはまだわかるけど、その向こうにハンニバルが見えるのはどういう気持ちで見ればよかったんだろう。見たままを素直に受け取るならアラーナの心がハンニバルにあるとウィルが気付いているという描写に見えたけど、本当はウィル自身がハンニバルと寝たいという表れだったのか?でもそれだったら鹿男と自分が交わるのでは?単に男同士のベッドシーンは入れられないゆえの苦肉の策?でもどちらかというとアラーナの方にスポットが当たってる感じだったから、あの感じだとハンニバルの方はウィルを性的な目で見てるけどウィルは(この時点では)ハンニバルをエロい目では見てないように見えた。しかしウィルはそれくらいアラーナと寝たい気持ちがマンマンのくせに、ハンニバルとの関係について彼女に聞かれたら「僕らの間ではわかってるからそれで十分じゃないか?」とか言ってアラーナをはじき出すという、「二人の関係には誰も入れさせない」という対抗心が見え見えで「お前はどっちなんじゃい!」と言いたくなった。シーズン2のウィルは大体これ。 

 ハンニバルの芸術面では「私が育てた」とウィルに見立てて毒の花に飾り付けられたおじさんと、シヴァ神に見立てて「求愛」とか言われたラウンズの死体(偽装)が、今までの匂わせ程度から解き放たれてウィルへの全力アピールって感じですごく良かった。あれでラウンズを殺したのはウィルだと思っているアラーナにウィルが「僕の支援者はハンニバルだよ~」と匂わせて「僕らの間に君は入れない」というアピールをかますドロドロしたところがよかった。でもウィルはアラーナの前ではそうやってイキるけど、その後でハンニバルに「どれだけの良心を犠牲にするつもりだ?」みたいなことを問い質してて、彼の愛情の歪みと重さに引いてるっぽいのがまた味がある。 

 シーズン2のウィルは自分を囮にして仲間になったと思わせて、ハンニバルの現行犯逮捕を狙うという筋書きだったわけだけど、この頃のハンニグラムのポイントはハンニバルがラウンズの髪の匂いを嗅ぐまではウィルの嘘を信じていたという部分。その瞬間までは本気で二人での生活を夢見ていたというところ。そして何より特筆すべきなのはそれに気づいた後、ジャックの来訪前日の二人の会話。

ハ「イマーゴは愛する人のイメージだ。無意識の中に埋もれ、生涯抱き続ける」

ウ「理想か」

ハ「理想という概念だ。私は君への概念、君は私への概念を持っている」

ウ「でも理想にはしてない」

ハンニバル謎の間)

ハ「二人とも多くの物に理想を求めすぎる」

 この謎の間ってハンニバルが「私たちにとってはお互いが『愛する者』だ」と言いたかったのをウィルがぶった切ったということだよね?いや確かにウィルの方はハンニバルを理想とは思ってない感じはあるけど!ここで切ないのがその後にハンニバルが言った「姿を消そう。今夜ね」という言葉!つまりジャックを殺さずに逃げようということで、明日ジャックと会えばすべてが終わってしまうけど今逃げればこの嘘が本当のままでいられるということ。ハンニバルはウィルが裏切っていることに気づきながらも、この夢が続くことを願わずにはいられなかった。ウィルが自分の方を選んでくれたらとこの瞬間、一縷の望みをかけてしまった。この言葉にハンニバルの切実な想いが全て込められている。しかしウィルはハンニバルの誘いを受け入れず、逮捕の筋書きに頑なに拘っているところが本当につらい。

 シーズン2のウィルは表面上での主張とは裏腹に中身はもうだいぶ愛に狂い始めているんだけど、極めつけはFBIがハンニバルを逮捕しに来るのがわかった時のあの電話ね!あれを見た時、せっかく違法捜査してきたのを台無しにする行為にそりゃあびっくりしたわ。ハンニバルと愛し合うという内なる誘惑を捨ててまで選んだ道なのに!結局両方失ってるじゃん!せめて心変わりするのがもう少し早ければ!昨日のディナーの時に打ち明けていれば!その点ハンニバルは全くブレてなくて、アビゲイルと三人で家族になる計画をまだ諦めていなかったと判明するシーンには愛を感じた。そして逃げたはずのハンニバルがそこにいて「君を置いていけない」と言われた時のウィルの子犬のような瞳!言葉で何を言おうがあの顔が全てを物語ってた。

 でもハンニバルがウィルは生かしてアビゲイルは殺したのが引っかかってて、やっぱり彼女の存在を愛しているというよりは幸せな家族ごっこのための道具としてしか見てない印象だった。ハンニバルとウィルの間には「愛しているからこそ思い通りにならなくて憎いし、こんなに憎いのに愛しているから殺すこともできない」というままならなさがあるけど、アビゲイルに対しては二人ともそういうのは感じられなかった。

 シーズン2の重要な論点として、許しについてベラが「意識して許すことも無意識に許すこともある。実際に許すかどうかは選べない。許しとは訪れるもの」というものすごい名台詞を言っているんだけど、それが愛だよなあ……と思った。相手の悪い面まで含めてすべて理解していながら、それでも最後には許してしまう。それは相手の欠点を見ないようにして全肯定するのとは違って、それどころか善いも悪いも評価は必要なくて、ただその在り方を認めるということ。罪に対して罰を与えないという意味でもなくて、罰を受けるあなたごと許すということ。それが愛ってことなんだよ。

 ドラマハンニバルの信条は、神がそうするように理不尽な破壊をまき散らすことで、信徒に対する慈悲だとか悪人への罰だとかは関係なくただ「力を実感する」ための行いだと言っているが、だとすると神に理解者って必要なのか?と思わなくもない。シーズン2のラストのハンニバルは神というよりも愛を受け入れてもらえなくて打ちひしがれた普通の男という感じだった。猟奇殺人鬼や拷問趣味者にとっては痛みを与えることが愛の証というタイプがいるけど、ハンニバルにとって解体して食するのは無礼で下等な豚に対してすることのはずだから、ウィルを切ったのは単純に裏切りへの罰。自分と同じ「食する側」として並び立つ栄誉を与えるのが彼の愛だから、愛する者が不用意に傷ついたり死んでもらっては困るという点では普通の人と変わらないのが複雑というか何というか……。

 シーズン3になってさすがにウィルもあの電話をしたことで自分の気持ちを理解しただろうと思っていたら、未だに「友人だから」とか言ってて往生際が悪くて草生えた。だってあの時点で捜査官としては終わりだからね。ジャックは違法捜査でもあくまで大義のための行動だったけど、ウィルの方は完全に私情だから。それなのにハンニバルを追いかけてイタリアまで行ったり(捜査なのかただ会いたいだけなのか)、絵画の前で微笑みあったかと思えばナイフを取り出したりしてもうウィルがどうしたいのかわかんなかったよ。でも「一緒に逃げたかった」は友情と言い張るには甘すぎるし重過ぎるしねっとりしすぎだよ!愛の逃避行以外に何があるんだよ!脳内アビ―にも「なぜ彼を探すの?」と聞かれて「僕が今までで一番自分自身を理解できたのは彼といた時だ」と返すのはもう好きじゃん!アラーナにも「あなたたちの友情は愛情レベルに達してる」と言われるし、チルトンにも「彼らのは友情ではなく愛情も同然だ」と言われるし、べデリアにも「裏切りと許しは恋にも似ている」と言われるし、千代にもウィルが従順とか喜んでるとか言われるしで、ずっと脚本の意図を色んな人物がご丁寧に説明してくれてた。それにジャックの言う通り、内臓を取られればそれまでに友情があっても終わるよ普通は。終われないから愛なんだよ!

 その一方でハンニバルはウィルに心臓(の形をした死体)を捧げてBe my Valentineしててまっったくブレてなくて、逆に折れなさすぎて怖かった。ただその後にカタコンベで直接顔を合わせずにウィルの「あなたを許すよ」という言葉だけ聞いて帰ってきた時に、ハンニバルが珍しく戸惑っていたというか、それまではめちゃくちゃ怒ってたけど許すと言われて急に気がそがれたみたいな、ウィルが自分を見つけてくれたのが嬉しいみたいな雰囲気出してて「これはだいぶイカレてますね」と思った。これだから恋愛ってやつは……。

 ベデリアとの会話はもうほぼハンニグラムの恋愛カウンセリングになっててそれも大体的確なアドバイスだったんだけど、唯一腑に落ちないのがハンニバルの「ウィルを許すためには食べねば」という発言。「ミーシャとウィルを重ね合わせるなら、過去にミーシャを食べたようにウィルを食べるべき」という理屈なのはわかるけど、シーズン2まででハンニバルが食べるのは無礼者だったんだから、彼にとって「食べる=愛する」ではないと私は思ってたんだけど。それに「許しとは選ぶものではなく訪れるもの」と言われてるんだから、許すために何かをしなければならないというのはおかしくない?「憎まなければいけないはずなのに心は勝手に許してしまっている」というのがこれまで描かれた愛なのだから、ウィルを食べなければいけないという論理はこれまでのハンニバル像と矛盾すると思う。ただこの理屈だとミーシャを食べたことが彼の出発点と言う話と矛盾するか。ミーシャ=無礼者になってしまう。逆に「食卓を共にする」という意味ではジャックとかアラーナとか他のゲストにも食べさせてるから、一緒に食べる側になることがすなわち愛の証と言うわけでもないか?むしろ何も知らずに人肉を上手い上手いと食べる滑稽さを見て悦に浸っているのだとしたら、「理解したうえで」という部分が重要なのか?脚本的に「許す=愛」なのはわかりやすかったけど、ハンニバルにとって「許す=食べる」なのか「愛=食べる」なのかは最後までわからなかったな。原作では「死んだ者がいた場所にミーシャが座れる場所を作る」みたいなことを言っていた気がするけどドラマではその話はしてないし……。

 『春』の前でウィルがハンニバルと再会して「お互いが離れて生きていけるかどうかだ」とか言ってたけど、その問いかけが必要なのは主にお前の方だからな!?と思った。ハンニバルの方は「君と一生一緒に居ることになってもこの瞬間を思い出すよ」とか全力で口説いてきてるというのにお前は……。

 メイスン周りはクラリスに対しては「ハンニバルも”救うべき羊”に含まれるのか?」という問いかけとして意味があったと思うけど、ハンニバルにベタ惚れのウィルには正直そこまで重要でもないと思った。ハンニグラム的に最高だったのはその後で、豚の餌にされそうになっても頑張ってウィルを助け出したのに「犬たちが恋しい。あなたは恋しくない。見つける気もない。どこで何をしているか知りたくないし、あなたについて考えたくない」とガチ目に振られたハンニバルがしょんぼりしたと思わせてからの「私とどこで会えるか知っていてほしい」から捕まることにしたところ。まるで諦めてない!ガチすぎる!熱烈すぎる!

 その後のレッドドラゴン編はほとんど原作通りなんだけど、正直私は原作だけだとそこまで面白いと思わなくて、ハンニバルは刑務所に居るから出番は少ないわこれまでのシーズンでの見どころだった芸術的な死体の飾り付けが全然見られないわで最終話以外はかなり退屈だった。レッドドラゴンくん自体も小説の独白で見るとまだ迫力があったけど、視覚で見るとすごくダサいごっこ遊びにしか見えない。どう見てもドラゴンではないのに妄想乙って感じ。それに女と寝たら”真の愛”に目覚めて、竜になるという自分の願望だったはずのものを「彼」とか言って無垢な自分の人格と切り離そうとしたところもダサい。それになりたきゃ勝手になればいいのに世間に認められたいみたいなところもダサい。祖母のエピソードが完全に削られてイメージ映像で一瞬出るだけになってたので「むしろそこが一番の見どころだろうが!」と思ったんだけど、そこを詳細にやってしまうとハンニバルとウィルの軸からブレてしまうから思い切って削ったのかもしれない。

 でもこれまでの積み重ねがあるせいで原作と違ってウィルがハンニバルをきっぱり振って妻子も作ったくせに利用だけはしようとするだいぶ酷いやつになってたのは笑った。しかしそんな仕打ちをされても「君は家族だ」とか言い始めたハンニバルには度肝を抜かれたね。「誰と誰が!!??」となった。そこからウィルの新しい家族に赤い竜をけしかけて「ウィルは家族だけどウィルの家族は私の家族ではない」と殺そうとするハンニバルがもうすごい。清々しいほどウィルしか見えてない。「ウィルの大切なものだから大切にしよう」みたいな発想は一切無い。結果的に殺しには失敗したけど、「ウィルと暮らす限り似たようなことが起こる」という疑心を植え付けて今まで通りには暮らせなくさせたという……。怖……。一番救いがたいのはここまでされてもウィルはハンニバルに幻滅できないというところなんだけど……。

 ベデリアとウィルの会話で「君は青髭の妻だ」はわかる。つまり「ハンニバルについて常人が知らないことを知っている君ならわかるんだろう」という意味。その後のベデリアの「私が最後の妻になって生き残ってみせる」もわかる。でもそこから急にウィルが「ハンニバルは僕を愛してるのか?」って何?どんな脈絡?もしかして「あなたも花嫁よ」の時みたいにあなたも青髭の妻の一人でしょうってこと?でもあなたは先に死ぬ方で私が最後になる的な?しかしこういう台詞が出た時に「愛している」だけだと家族愛と言い張る勢が必ず現れるものだけど、ここでベデリアがご丁寧に「日々あなたへの飢えを痛みのように感じ、姿を見るだけで満たされるという意味?そうよ」と断言してくれているから恋愛以外に勘違いしようがない(まずハンニバルにただの家族愛なんて温かい感情があるとは思えないけど)。ベデリアってハンニバルに惹かれててウィルに張り合おうとしてる節があったけど、その一方で二人の恋をめちゃくちゃアシストするようなことを言うんだよね。ウィルちゃんがここでようやくハンニバルの愛に気付いてやっと進展するのかと思ったら「彼を捕まえさせるつもりはない」とか言い出して驚愕。「彼と共に生きられず、彼無しでも生きられぬ」だけならまだわかるけど、そんな自分のために殺人鬼を世に解き放とうとしてるんだからそりゃべデリアも怒るわ!ハンニバルが殺しに行くかもしれない相手に「覚悟しておけ」とか言ってて、アラーナも対象かもしれないのにマジで言ってんのコイツ!?と思った。チルトンが精神異常と嘘を書いてまでハンニバルを死刑にさせないようにしたのがなぜかはわからないけど(研究材料?)、今のままでもハンニバルは精神病院に一生収容されるみたいなのにそれもだめなのか?FBIが竜を殺したついでにハンニバルも殺すつもりなのは常識的に考えたらそうでしょうねとしか思わないけど、ウィルは協力してますというツラをしながら内心では逃がすつもりなのがめちゃくちゃ反社で笑った。

 シーズン3は退屈だったと言ったけど、そんな不満は最終話を見たら全てがどうでもよくなる。初めて見た時はあまりの満足感と衝撃で心がその体験を受け止めきれなかったぐらいだった。竜を殺すシーンが完全に二人の共同作業・ケーキ入刀。ウィルに抱きしめられたときのハンニバルの幸せそうな顔!!どんな言葉もこの気持ちを表現できない。ただただ圧倒的に”満たされた””完成した””これが答えなんだ”というああ当的な幸福感が押し寄せてくる。最後に抱き合った後にウィルの方から海に倒れこんだように見えて、彼は最終的に心中を選んだということだと思うけど、その気持ちはものすごくよくわかる。今この瞬間最高に満たされて欠けたものなど何もないからこそ「ああもう死んじゃってもいいかー」と自然に受け入れられるというか……。この瞬間を最後に出来たらどんなに幸せだろう、みたいな。本当にこのシーンはBL史に残る伝説的名シーンだと思う。一生見返せる。