感想置き場

BLとアサシンクリードが好き

『Assassin's Creed Mirage』感想

 アサクリが大好きなので最新作はまっさらな状態でプレイしたくて事前情報も一切見ずに発売日に買ってプレイしたのだけど、いや~~~酷かった。いや「酷い」という言い方だとクソゲーと言ってるみたいだけどそうではない。パルクールもステルスもバトルも操作感はかなりすっきりしてたし不便なところもバグも無くて、遊びやすさと言う意味では歴代随一かもしれない。ストーリーもわかりづらいとか不快な展開とかも無くて真っ当だった。では何が酷かったかと言うと「やる意味がなかった」。

 最初は貧しいコソ泥だけど世界を良くしたいという信念をもっている真っ直ぐな青年バシムが、ロシャン師匠に助けられて一人前の隠れし者を目指して修行する(主人公がイーグルダイブの練習をしてるシーン初めて見た)という素晴らしい導入で、「この好青年の何がどうしてあんな逆恨みおじさんになってしまったのか」という過程を見られると思ってワクワクしていた。気になるところと言えば「自分が功を焦ったせいで泥棒仲間が皆殺しにされたのに吹っ切るのが早くないか?」ぐらいで特に無かった。

 でもここからが問題で、そこから隠れし者の仕事として古き結社を狩っていくのだけど、その辺りの話にマジで起伏が無い。今まではどんな主人公でも初見の時はいつも「次は何が待ってるんだろう」というワクワクがあったけど、今作は「これいつ面白くなるんだ」と思い続けてたらもう最終章だった。標的を狩る理由も「結社だから」だし。まあ確かに結社は人々から金を巻き上げるわ誘拐するわ人体実験するわで最悪だし、バシムの願いも「誠実な人が正当に評価される世界」「貧しい生まれの子供でもまっとうに生きられる世界」なのでおかしいことは無いんだけど、完全に今まで散々見た光景でしかなかった。最後までやってみた私の印象は「ストーリーのおもんないオリジンズ」(私はオリジンズの一番面白い所は「好青年バエク君の行く末を見守るストーリー」だと思っているので、それが無いということは要は一番の長所が無いということ)。風景もほぼ「神殿の無いオリジンズ」だった(さすがにモスクとかは違うけど)。しかし原点回帰が売り文句だったが、今までも定期的に回帰してたしそれと並行して新しいことに挑戦してたのに、今回は暗殺の極意ぐらいしか目新しいところが無いとはどういうことなのか?

 これまでの主人公と比べてバシムにしか無い個性は「かつて来たりし者の記憶と完全に融合した人格を持つに至った」というところ(エイヴォルはオーディンと決別したから)なのに、標的を何人倒してもジンニ―(バシムの悪夢に出てくる怪物)が唸ってるのを数秒見せられるだけで、オーディンみたいに話しかけても来ないし過去の記憶を見せてくるわけでもなくて何も進展しない。「今までジンニ―の幻影は寝ている時に見るだけだったのに、カリフを殺した時以来起きている時も見えるようになった。それはバシムがあの宝に関係しているからだ」という結論を導き出すだけなら途中のストーリーを丸々抜かしても成立する。一応結社の暗殺自体は師匠との絆をプレイヤーに実感させるという意味では必要だったと思うけど。

「秘宝について知りたい」と師匠に話した時にバシムの方もなぜ知りたいのかについて本当のことを言わなかったけど、それは言ったところで「現実を見ろ」と言われるのがわかっていたからで、そしてその返答じゃ結局納得できなかったというところは自然だったし、ネハルの言う通り秘宝と自分の繫がりを知りたかったらむしろ結社に近づくべきだけど、隠れし者になった以上結社はバシムの倒すべき敵で、それでも敵の総長に「神殿に行けばわかる」と誘われてどうしても気になってしまう、という話の流れは良かった。その後で師匠がバシムの疑問に答えられないのに「納得できないというならお前を殺すしかない」と言ってきて、それを言われてしまったらもう「兄弟を信用しろ」とかいう言葉が若干虚しく響かないか?と思った。でもさらにその後で師匠が秘宝および神殿とバシムに繋がりがあることを最初から気づいていたということが明かされて驚いたし、導師ライハンがバシムが神殿に入ることを了承したのになんでロシャン師匠と戦わなきゃいけないのかと疑問だったが、その全ては彼女がただバシムをバシムとして育てたかったからだとわかったら腑に落ちた。神殿に入れば正しい志を持った今のバシムは永久に失われてしまうから止めたかったと。でもバシムの方の「人々の自由意志を守る」という大義に対する「俺の自由意志は!?」という疑問はかなり確信を突いているとも思った。「自由を守るために自分を殺して奉仕する」という矛盾はアサシン教団になっても常に存在しているから。この辺りのやり取りは二人の深い絆とそれゆえの衝突と言うことが上手く描かれていると思った。

 要するに今作の何が不満かと言うと「前世の話が全くこれっぽっちも微塵も無い」ということ。ストーリーの最後の最後でバシムが「拷問の記憶……思い出してきたぞ」とか言うから流石に最後は映像で見せるだろと思ったのに見せなかったことに死ぬほどびっくりした。最後の最後まで匂わせで終わりとかふざけてるのか?「俺を拷問したやつの記憶」がやっぱりオーディンなのかと私は推測したけどそれすら明かさないとか……。ネハルが最初からずっと怪しかったことの疑問が解消されてスッキリはしたけど、こっちはバシムが先駆者の記憶と融合したことは最初っから知ってるんだよ!知ってるから新しい情報を求めてたのに何も無いじゃん!初心者のために先駆者関係の小難しい話を省いたのかもしれないけど、一つの物語として見ても主人公を長年苦しめてきたものの正体が具体的に明かされないんだからカタルシスもクソも無い。

 ヴァルハラの最後で次からはバシムが主人公になるとわかって一番気になったのは、「アングルボザもロキもイスでイス同士は子供が出来ないはずなのに、フェンリルヨルムンガンドやヘルはどういう扱いなのか?狼とは比喩なのか?本当に狼なのか?狼だとしたら『息子を探さなければ』とはどういう意味なのか?探してどうするのか?」とかその辺りだったのだけどマジで一切その辺りに触れられない。まず現代のバシムが一瞬も出てこない。今のバシムが自分の過去を見てどう感じたかすら無いとか、アニムスという設定の意味が無いだろ。今回初めてアニムスの中の人と外の人が同じという特質があるのに何も生かされてない。現代編要らない勢に気を使ったのかもしれないけど、そう言われるのは導入が下手くそ、つまり現代編の主人公が来歴も人柄も目的も描かれずに突然割って入ってくるからであって、それを避けたければデズモンドみたいにちゃんと順を追ってプレイヤーの心理とリンクさせていけばいいだけなのに気の使い方がおかしいだろ。

 あと操作感に不満は無いとは言ったけど一つだけ最悪だと思ったのは、最近製作側がお気に入りの鳥の相棒シリーズであるエンキドゥちゃんがクソの役にも立たないこと。この子がクエスト目標を探せるのは本当に導入だけで、情報が更新された後は全く感知してくれない。そして特に射手システムを考えた奴は痛い目に遭ってほしい。射手の近くに行かなければいいのかと思いきや敷地内に入った瞬間超精度で撃ってくる。どんな目だよ。「エンキドゥを呼んでクエスト目標を探せる」とかゲーム側が誘導してくるが呼べば100%撃ち落とされる。嘘を吐くな。射手を排除すれば呼べるが、そんなことが出来る頃にはもう敷地の奥まで侵入できているので今更マーキングなんて無くても鷹の目でどうとでもなる。使えるのは閂のかかってない扉を探すぐらい。可愛いぐらいしか取り柄が無い。鳥があまりに使えないせいで、ビューポイントをマップ更新ではなく本当の意味で見渡すために使うという初めての体験をした。

「アサクリとは何をやるゲームか」という要素が大体詰まっているので初心者には良いかと思ったのだけど、「かつて来たりし者」の前提知識がないとストーリーが理解できないだろうから無理か。